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第8章 将軍への道程編

05.道中

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御所での評定において祐宗は、外河家について詳しく情報を得る事が重要であると語った。
そして外河家の内情調査による潜入を任命された康龍は身支度を済ませ、早々に領内を出発。
また、道中の山賊などによる襲撃から守るためにと祐宗は忍びで身軽な宮本宗重を康龍の護衛に着けさせていた。

康龍は、自身のすぐ後方で目を光らせながら警戒している宗重に対して声をかける。

康龍
「宗重殿よ、拙者などを護衛して頂けるとは真に感謝にござる。」

すると宗重が恐縮した様子で答える。

宗重
「いえ、むしろ感謝するのは拙者にござる。康虎殿のご嫡男であられる康龍殿の護衛を任されて拙者は真に嬉しゅうございます。」

宗重は、かつては村上島(現在の志栄島)で忍びを束ねる頭領として活躍していた。
優れた忍びが多いと言われる竹呉島の出身という事もあってか、宗重の忍者としての能力も非常に高かった。

だが、当時の村上家の家中においての宗重に対しての風当たりは強かったという。
放浪して村上島に移り住んだ言わば「余所者」であった宗重は、古くからこの地に住む者たちに受け入れられる事は難しかったようである。

そんな中でも、康虎だけは違った。
彼は宗重に対して無下に扱ったり、横柄な態度をとるなどといった行為を一切しなかった。
元来からどのような身分の者であってっも別け隔て無く接する、といった康虎の性格に宗重は酷く心を打たれたのだ。
康虎は、村上家において宗重の良き理解者であったとも言えよう。

そうした恩に報いるべく、彼の嫡男である康龍の護衛を任された事に対して宗重は非常に喜びを得ていた。

康龍
「そう申していただけると拙者も嬉しいですな。では、よろしく頼みましたぞ。」

康龍は宗重に笑顔を向けてそう言っていた。

すると今度は苦笑した様子で康龍が呟き始める。

康龍
「しかし、この身なりをするのは拙者は初めて故に妙な感じじゃのぅ。」

宗重
「我らが侍と分かってしまわれては、共に身が危ういですからな。」

祐宗は、康龍らに旅の商人を装って墨山城下に潜入するように命じていた。
墨山の者たちに康龍らが武将である事が発覚すれば、詳しい内情を得られなくなるからである。
更に志太家の者と言う事がひとたび露呈してしまえば、康龍ら自身の命が危険にさらされる可能性も十分に有り得る。

それ故に、身分を隠して潜入する必要があったのだ。

それから一刻ほどの時が過ぎ、一行の目の前には険しい山道が飛び込んできた。
どうやらこの山を越えた先に墨山城があるという。

康龍
「この山を越えねばならぬようじゃな。どうやら墨山までの道は、拙者たちが思う以上に険しいようにござるな…」

宗重
「全く、その通りにございますな…」

二人は高くそびえる山に圧倒されている様子であった。

そうしているとやがて一人の男が現れ、康龍らに近付いて声をかける。


「おや、旅の者ですかな。どうなされましたかな?」

男は康龍らが山道の前で立ち止まって悩ましい表情を見せていた為、気になって声をかけたようである。

康龍
「いかにも、私たちは旅の商人にございます。こたびは墨山の地を訪れる為にここまで来ましたが、余りの険しき山道に圧倒されまして…」

康龍は男に自身らを商人である事を伝え、これから墨山に訪問する旨の内容を話していた。
すると男は真剣な顔をして言う。


「ほう、初めて墨山を訪れる旅の者にござったか。それでは、ここからは私が案内いたそう。この墨山に辿り着くまでに道に迷う旅の者も多くおられるものでな。」

この男は墨山城下の領民で、一介(いちすけ)と名乗った。

康龍
「かたじけない。では、一介殿のご厚意に甘えさせていただきます。」

康龍は一介に対して頭を深々と下げていた。
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