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第7章 天下分け目の大決戦編
79.三浦宮御所の戦い(32)
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幕府軍との戦いに志太軍は勝利した。
祐宗らは祐藤の待つ志太軍本陣へと帰還していた。
帰還した祐宗はすぐさまに祐藤のもとへと駆け寄り、興奮した様子で言う。
祐宗
「父上!御所を、御所を攻め落としましたぞ!御所は我ら志太家のものにございます!」
祐宗は胸を張り、堂々たる態度であった。
その報告に祐藤は非常にはしゃいだ様子で声を上げる。
祐藤
「おぉ!よくぞやった!これで天下は我らの…うっ、ごほごほごほっ…」
祐藤は酷く咳き込み、なだれ込むように体を崩した。
口からはおびただしい量の血が吹き出していた。
先刻の政豊と会った時と比べると病状はさらに悪化している様子だ。
祐宗
「父上?父上?大丈夫にございますか?!」
祐藤のその深刻な病状に祐宗はたちまちうろたえ始める。
祐藤
「あぁ…すまぬ…どうやら、もう儂はここまでのようじゃな…お迎えが来なすった…」
祐藤は自分が間もなく死を迎える事を悟っている様子でそう言った。
そして続けて祐藤が口を開く。
祐藤
「それにしても祐宗よ、良くやった。これで安心してお前に今後の志太家を任せることができようぞ。」
祐藤は安堵の表情を浮かべていた。
崇数
「祐藤様…祐藤様…」
崇数は、祐藤が病に苦しめられながらも気丈な態度を振る舞うその姿を見て、言葉が出ない程に酷く胸を痛めていた。
目からは大粒の涙が今にも溢れんばかりの表情であった。
すると今度は義道が祐藤に対して声をかける。
義道
「兄者!今まで真にご苦労であったな!向こうでも達者で暮らせよ!」
義道は笑顔で祐藤に対してそう言っていた。
だが、血を分けた兄弟が今まさに死を迎えようとしている姿を見て胸が張り裂けそうな心情である事に間違いは無い。
しかし、義道は兄の最期を笑顔で看取ってあげたい、という一心で悲しみの感情を押し殺して祐藤に接していた。
やがて、荒い息遣いをしながら祐藤が口を開く。
祐藤
「皆の者よ、御所に…御所に我が志太家の旗を立てるのじゃ…そして天下に号令をかけ、将軍として国を治めよ。良いな。」
志太家が手にした御所を拠点に新たな将軍として君臨せよ。
それが祐藤の遺言である。
そして祐藤は、最後の力を振り絞って口を開く。
祐藤
「祐宗よ、お前が…将軍となっ…た姿をひと目…見たかっ…うっ…はぁ、はぁ…」
祐藤は、途中で詰まりながらも祐宗に対して必死に喋り出していた。
祐藤の息遣いはさらに荒くなっていく。
祐藤
「皆の者よ、儂とはここでお別れじゃ。どうか、どうか…泰平の世を…築くよう…頼んだ…ぞ…ぐっ…」
祐藤はそう言い残し、その場にぱたりと倒れ込んだ。
祐宗
「父上?父上?父上!」
祐宗は倒れた祐藤の体を揺さぶりながら声をかけた。
しかし、祐藤は祐宗の呼びかけに答える事は無かった。
こうして祐藤は、波乱に満ちた生涯を終えたのであった。
志太祐藤。
商人見習いの身から武将として活躍し、その後はみるみるうちに頭角を現してやがては大名の地位を築く。
そして各地の大名家たちを討ち滅ぼし、やがては将軍という武家の最高権威に手が届くまでの立場にまで上り詰めるなど、歴史上類を見ない異例の出世であった。
それまでの間には血の滲むような幾多の困難があったが、祐藤はことごとく乗り越えてきた。
しかし、そんな祐藤であってもやはり一人の人間。
寿命には勝てなかったのである。
祐宗は父である祐藤の死を目の当たりにして泣き崩れていた。
だが、すぐに祐藤の最後の言葉を思い出した祐宗は、すくと立ち上がって声を上げる。
祐宗
「父上のご意志はこの祐宗がしっかりと継ぎます故、どうかご安心くだされ!」
祐宗は凛々しい表情をしていた。
祐宗らは祐藤の待つ志太軍本陣へと帰還していた。
帰還した祐宗はすぐさまに祐藤のもとへと駆け寄り、興奮した様子で言う。
祐宗
「父上!御所を、御所を攻め落としましたぞ!御所は我ら志太家のものにございます!」
祐宗は胸を張り、堂々たる態度であった。
その報告に祐藤は非常にはしゃいだ様子で声を上げる。
祐藤
「おぉ!よくぞやった!これで天下は我らの…うっ、ごほごほごほっ…」
祐藤は酷く咳き込み、なだれ込むように体を崩した。
口からはおびただしい量の血が吹き出していた。
先刻の政豊と会った時と比べると病状はさらに悪化している様子だ。
祐宗
「父上?父上?大丈夫にございますか?!」
祐藤のその深刻な病状に祐宗はたちまちうろたえ始める。
祐藤
「あぁ…すまぬ…どうやら、もう儂はここまでのようじゃな…お迎えが来なすった…」
祐藤は自分が間もなく死を迎える事を悟っている様子でそう言った。
そして続けて祐藤が口を開く。
祐藤
「それにしても祐宗よ、良くやった。これで安心してお前に今後の志太家を任せることができようぞ。」
祐藤は安堵の表情を浮かべていた。
崇数
「祐藤様…祐藤様…」
崇数は、祐藤が病に苦しめられながらも気丈な態度を振る舞うその姿を見て、言葉が出ない程に酷く胸を痛めていた。
目からは大粒の涙が今にも溢れんばかりの表情であった。
すると今度は義道が祐藤に対して声をかける。
義道
「兄者!今まで真にご苦労であったな!向こうでも達者で暮らせよ!」
義道は笑顔で祐藤に対してそう言っていた。
だが、血を分けた兄弟が今まさに死を迎えようとしている姿を見て胸が張り裂けそうな心情である事に間違いは無い。
しかし、義道は兄の最期を笑顔で看取ってあげたい、という一心で悲しみの感情を押し殺して祐藤に接していた。
やがて、荒い息遣いをしながら祐藤が口を開く。
祐藤
「皆の者よ、御所に…御所に我が志太家の旗を立てるのじゃ…そして天下に号令をかけ、将軍として国を治めよ。良いな。」
志太家が手にした御所を拠点に新たな将軍として君臨せよ。
それが祐藤の遺言である。
そして祐藤は、最後の力を振り絞って口を開く。
祐藤
「祐宗よ、お前が…将軍となっ…た姿をひと目…見たかっ…うっ…はぁ、はぁ…」
祐藤は、途中で詰まりながらも祐宗に対して必死に喋り出していた。
祐藤の息遣いはさらに荒くなっていく。
祐藤
「皆の者よ、儂とはここでお別れじゃ。どうか、どうか…泰平の世を…築くよう…頼んだ…ぞ…ぐっ…」
祐藤はそう言い残し、その場にぱたりと倒れ込んだ。
祐宗
「父上?父上?父上!」
祐宗は倒れた祐藤の体を揺さぶりながら声をかけた。
しかし、祐藤は祐宗の呼びかけに答える事は無かった。
こうして祐藤は、波乱に満ちた生涯を終えたのであった。
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しかし、そんな祐藤であってもやはり一人の人間。
寿命には勝てなかったのである。
祐宗は父である祐藤の死を目の当たりにして泣き崩れていた。
だが、すぐに祐藤の最後の言葉を思い出した祐宗は、すくと立ち上がって声を上げる。
祐宗
「父上のご意志はこの祐宗がしっかりと継ぎます故、どうかご安心くだされ!」
祐宗は凛々しい表情をしていた。
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