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第7章 天下分け目の大決戦編

63.三浦宮御所の戦い(16)

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政豊ら率いる軍勢が志太軍の本陣を目指して突撃。
少ない兵数ながらも政豊と彦八の気迫もあり、志太軍は押されていた。
やがて二人の無双によって志太軍はみるみるうちに本陣まで後退。
志太軍本陣のしるしであろう幕を発見した政豊らは急いでその場に駆け寄った。

政豊
「ここに、志太の殿様がおるのじゃな。よぅし!」

政豊は周りに囲われた幕を手にした刀で勢い良く引き裂いた。
その裂け目から中の様子を覗いた政豊が笑いながら言う。

政豊
「ふふふ…見つけたぞ!志太の殿様よ!」

政豊が覗いた先には祐藤の姿があった。

祐藤
「外がやけに騒がしいと思えば、やはりお主じゃったか…政豊殿よ。」

祐藤は冷静な表情でこちらを覗き込んだ政豊を見つめてそう言った。
そして次の瞬間、政豊らによって全ての幕は引き裂かれ、祐藤の姿があらわになった。

祐藤
「それにしても、よくぞここまで来られたものよな…真に天晴にござる。」

祐宗や祐永と言った優秀な息子たちの軍勢を前線に配置し、本陣も厳重に警戒を敷いていた。
しかし、それらを物ともせずに志太軍の兵たちの間をいとも簡単に掻い潜って本陣まで辿り着いた政豊に祐藤は敵ながらも感心している様子であった。

彦八
「ふふん、我ら柳盗賊衆の力を甘く見るでないわ!」

彦八は自信満々の表情であった。
そして政豊が真剣な表情をして言う。

政豊
「志太の殿様いや、志太祐藤殿よ。悪いが、儂らが生きていく為にはこうするしか手は無いものでな。」

彦八が祐藤に対して刀を向けて言う。

彦八
「おおっと!お前たち、下手な真似をすると…こやつを今すぐにでも斬り捨てるぞ。」

彦八の刀が祐藤の首元に刀を突きつけていた。
その様子に周りの志太軍の兵たちは、足を止めるしか無かった。

祐藤
「政豊殿よ、お主とは一対一で戦いたかっ…うっ、げほっげほっげほっ…」

祐藤は言葉の途中で急に激しく咳き込み、またしても吐血をしていた。
その吐血の量は出陣時の時と比べると多量であり、明らかに病状は悪化している様子だ。

政豊
「ん?おい、祐藤殿よ…どうした?!」

祐藤の尋常では無い吐血の症状を見て心配気な表情を政豊が見せた。

祐藤
「実は、儂は…随分前から病に冒されておってな…この戦いまで儂の命がもつかどうか…」

やがて吐血が止み、祐藤は血まみれになった口を腕で拭いながらそう言った。
常に陣中では強気な姿勢を見せていた祐藤ではあったが今回の症状があまりにも辛いのであろうか、この時ばかりは弱気な表情であった。

そんな祐藤の様子を見た彦八が嬉しそうな表情をして言う。

彦八
「ふふふ…それは好都合!ならば早々に貴様の首を今ここで貰い受けようぞ!」

ここで総大将の祐藤を容易に討てるとはまさに好機。
彦八は勝ち誇った表情でそう言った。

すると政豊が突然に彦八の胸ぐらを掴んで叫ぶ。

政豊
「おい!こら!彦八!待て!待たぬか!」

政豊はすかさず彦八に向けて拳を振りかざした。
鈍い音が辺りに響き渡っていた。

政豊
「我ら柳盗賊衆、勝つ為には手段を選ばずに今まで戦ってきた。しかし、今ここで祐藤殿を一方的に斬るのは違うのではないか?」

政豊率いる盗賊衆は、あれこれと卑劣な手を使って敵を滅ぼして勝利を手にしてきた。
その影には彼の部下たちの生活を養う為という名目、言わば免罪符としてその行為を正当化して来たとも言える。
しかし、今回の祐藤との戦いにおいて政豊はその思想について疑問を抱き始め、心が揺れ動いていたようである。

政豊は手にした刀を鞘に収め、祐藤に対して軽く一礼した後に言う。

政豊
「祐藤!儂と一対一で正々堂々と勝負いたせ!」

武士としての生き様、という憧れが今になって湧き溢れ出したのであろうか。
政豊は真剣な眼差しで祐藤にそう声をかけていた。

祐藤
「ふむ、一騎討ちか。この死に損ないの老いぼれで良ければ相手になろうではないか。」

急な言葉に少し驚きの表情を見せたが、政豊の目に嘘偽り無き心を感じた祐藤は承諾の言葉を発した。
そして続けて祐藤が口を開いた。

祐藤
「じゃがその前に政豊殿よ、少しばかり儂の話を聞いてはくれぬか?」

政豊
「ほう、良いだろう。聞かせてみよ。」

政豊は祐藤を真剣な表情で見つめていた。
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