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第7章 天下分け目の大決戦編
51.三浦宮御所の戦い(4)
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祐藤が陣中で倒れた事により祐宗が急遽総大将となった。
祐宗の号令によって志太軍の進撃を開始。
幕府軍は反撃すべく、鳥居景綱率いる軍勢による応戦を命じた。
これに対し、口羽崇数率いる口羽軍が名乗りをあげて前線に立っていた。
やがて景綱の軍勢が口羽軍に急接近すると崇数が声をあげた。
崇数
「よーしお前たち、ここで我らの旗を揚げよ!」
崇数の合図により、口羽軍の兵たちは旗を高々に揚げ始めた。
その様子に気付いた景綱は、その場で立ち止まっていた。
景綱
「むっ、あの旗印は口羽家…口羽崇数殿らの軍勢にあるか。」
景綱は、口羽家の家紋である「鞘収め刀紋(さやおさめかたなもん)」が描かれた旗印を見てそう言った。
・鞘収め刀紋(さやおさめかたなもん)
口羽氏の家紋。
かつての主君であった白河家の当主から賜った一刀の刀「鷹丸(たかまる)」を家紋として使用し始めたと言われている。
鞘に収められた刀の様子は一見すると穏やかげに見えるが、一度抜刀すると手がつけられぬほどの凄まじい力を発揮するという意味が込められており、武勇に優れた人物が多い口羽家らしい家紋であろう。
軍勢の中から景綱を見つけた崇数が声をかけた。
崇数
「これはこれは景綱殿、随分と大きくなられましたな。」
景綱と最初に出会ったのは、数十年前に起きた第二次黒子の戦いでの事である。
志太・白河・大月の連合軍による猛攻を受けた事で敗北を悟った景望と景経親子が本丸にて自害し、鳥居家は終わりを告げた。
景望という主を失って燃え盛る黒子城。
その中で連合軍は景綱を捕縛していた。
景綱は当時、元服前の幼少であった。
幼き子供を手に掛けるべからず、という連合軍の方針の元で景綱は開放されて処刑を免れた。
しかし免れたのは処刑だけであり、敵方である鳥居家の人間という事もあってか国外追放というそれなりの処分を受けた為、黒子城への帰参は許されなかった。
そして時は流れて景綱は成長し、今この場で志太家との決着をつけるべく参戦している。
この涙ぐましい忍耐力と努力を考えると敵ながらも真に天晴である。
そのような気持ちもあってか崇数は自然とそのような言葉を口にしていた。
景綱
「崇数殿、我が鳥居家を滅ぼしておいてよくもぬけぬけと…」
どうやら今の景綱にとってその言葉には皮肉が込められているように聞こえていたようである。
そしてその景綱の返答を耳にした崇数が言う。
崇数
「鳥居家の滅亡におかれては、我らが生き残るうえで仕方の無かったことにござる。」
戦国の乱世において生き残る為には、各国への侵略を行うなどして勢力を広げる必要があった。
ただ、領土を広げずとも自国のみで国力を蓄える事でもある程度は生き残る事は可能ではある。
最もその場合は、いずれ大勢力に飲み込まれてしまうという恐れが生じるが。
鳥居家の滅亡は、後者が一番の原因であったという事が良く分かるであろう。
この、食うか食われるかの厳しい争いを勝ち抜くうえで犠牲となった大名家。
それが鳥居家であった、という事を崇数は景綱に伝えたかったようである。
景綱
「あくまでも、我が鳥居家を滅ぼしたことをお主らは正当化したいわけにござるか…」
景綱は呆れた様子でそう呟いた。
そして続けて崇数の軍勢に向けて叫ぶ。
景綱
「それでは我が祖父上と父上の仇、今こそ討たせていただきますぞ!御覚悟なさいませ!」
崇数
「良かろう、かかってくるが良い。口羽の力を思い知らせてやろうぞ!」
崇数は勇ましい表情をしていた。
祐宗の号令によって志太軍の進撃を開始。
幕府軍は反撃すべく、鳥居景綱率いる軍勢による応戦を命じた。
これに対し、口羽崇数率いる口羽軍が名乗りをあげて前線に立っていた。
やがて景綱の軍勢が口羽軍に急接近すると崇数が声をあげた。
崇数
「よーしお前たち、ここで我らの旗を揚げよ!」
崇数の合図により、口羽軍の兵たちは旗を高々に揚げ始めた。
その様子に気付いた景綱は、その場で立ち止まっていた。
景綱
「むっ、あの旗印は口羽家…口羽崇数殿らの軍勢にあるか。」
景綱は、口羽家の家紋である「鞘収め刀紋(さやおさめかたなもん)」が描かれた旗印を見てそう言った。
・鞘収め刀紋(さやおさめかたなもん)
口羽氏の家紋。
かつての主君であった白河家の当主から賜った一刀の刀「鷹丸(たかまる)」を家紋として使用し始めたと言われている。
鞘に収められた刀の様子は一見すると穏やかげに見えるが、一度抜刀すると手がつけられぬほどの凄まじい力を発揮するという意味が込められており、武勇に優れた人物が多い口羽家らしい家紋であろう。
軍勢の中から景綱を見つけた崇数が声をかけた。
崇数
「これはこれは景綱殿、随分と大きくなられましたな。」
景綱と最初に出会ったのは、数十年前に起きた第二次黒子の戦いでの事である。
志太・白河・大月の連合軍による猛攻を受けた事で敗北を悟った景望と景経親子が本丸にて自害し、鳥居家は終わりを告げた。
景望という主を失って燃え盛る黒子城。
その中で連合軍は景綱を捕縛していた。
景綱は当時、元服前の幼少であった。
幼き子供を手に掛けるべからず、という連合軍の方針の元で景綱は開放されて処刑を免れた。
しかし免れたのは処刑だけであり、敵方である鳥居家の人間という事もあってか国外追放というそれなりの処分を受けた為、黒子城への帰参は許されなかった。
そして時は流れて景綱は成長し、今この場で志太家との決着をつけるべく参戦している。
この涙ぐましい忍耐力と努力を考えると敵ながらも真に天晴である。
そのような気持ちもあってか崇数は自然とそのような言葉を口にしていた。
景綱
「崇数殿、我が鳥居家を滅ぼしておいてよくもぬけぬけと…」
どうやら今の景綱にとってその言葉には皮肉が込められているように聞こえていたようである。
そしてその景綱の返答を耳にした崇数が言う。
崇数
「鳥居家の滅亡におかれては、我らが生き残るうえで仕方の無かったことにござる。」
戦国の乱世において生き残る為には、各国への侵略を行うなどして勢力を広げる必要があった。
ただ、領土を広げずとも自国のみで国力を蓄える事でもある程度は生き残る事は可能ではある。
最もその場合は、いずれ大勢力に飲み込まれてしまうという恐れが生じるが。
鳥居家の滅亡は、後者が一番の原因であったという事が良く分かるであろう。
この、食うか食われるかの厳しい争いを勝ち抜くうえで犠牲となった大名家。
それが鳥居家であった、という事を崇数は景綱に伝えたかったようである。
景綱
「あくまでも、我が鳥居家を滅ぼしたことをお主らは正当化したいわけにござるか…」
景綱は呆れた様子でそう呟いた。
そして続けて崇数の軍勢に向けて叫ぶ。
景綱
「それでは我が祖父上と父上の仇、今こそ討たせていただきますぞ!御覚悟なさいませ!」
崇数
「良かろう、かかってくるが良い。口羽の力を思い知らせてやろうぞ!」
崇数は勇ましい表情をしていた。
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