上 下
271 / 549
第7章 天下分け目の大決戦編

45.深まる確執

しおりを挟む
その頃、三浦宮御所では将軍継晴が家臣たちに言葉をかけていた。

継晴
「我が幕府は、断固として志太家と戦う!それ故、お前たちも戦に備えて日々鍛錬しておくのじゃ!良いな?」

そう言うと継晴は、そそくさと御所の奥へと引っ込んでいった。
残された家臣たちは、これから起こるであろう志太家との戦いに戦々恐々としている様子であった。

すると、継晴の嫡男である教晴が義久に声をかけた。

教晴
「義久、お前と少し話がしたい。余の屋敷まで来るが良い。」

義久
「ははっ、承知いたしました。」

そう言うと二人は教晴の屋敷へと向かった。

屋敷に入るとすぐに教晴は義久に対して問い掛けの言葉を発した。

教晴
「さて義久よ、先刻に父上は志太家と徹底的に戦うと申しておったが、志太家を相手に本当に勝てるとお前は思うか?」

教晴は、先程の継晴による言葉に対して疑問を感じているようである。
家臣や領民たちの士気が安定しない状況下で志太家と戦う与力が幕府にはあるのだろうか。

義久
「ははっ、いや…その…何と申しましょうか…」

義久は言葉を詰まらせていた。
思いもよらない教晴の問い掛けに対して義久は困惑した様子であった。

教晴
「どうした、言いにくいか?幕府が一大名家、それも元々は白河殿の傘下であった身分の賤しき者たちに翻弄されているなど恥であるとな。」

教晴は、今の幕府が置かれている状況について感じている事を率直に述べていた。

元は幕府より将軍守護職を賜った白河家の傘下に甘んじていた志太家。
そのような弱小であった大名家によって幕府が脅しをかけられている事を教晴は恥と感じているようである。

義久
「教晴様…」

義久は複雑な表情で教晴を見つめていた。

教晴
「余は本当の事を申しただけじゃ。お前もそう思っておるじゃろう?違うか?」

教晴は真顔で義久に対してそう問いかけた。
すると、今まで口を紡いでいた義久が静かに言った。

義久
「しかし、拙者は継晴様に従うしか道はございませぬ…家族の為にも、そうせざるを得られませぬ故…」

どうやら義久を含む幕府の主要家臣たちは、継晴による脅しによって従わざるを得ない状態であった。
彼らの家族を人質として差し出させていたのである。

寝返りなど継晴を裏切る行為が見られた場合は、人質を見せしめに処刑していた。
先日にも、幕府に対して謀反の疑いをかけられた家臣の家族らが処刑されたという。

教晴
「うぬぬぬ…我が幕府は、人質を取らねば国を保てぬというのか…真に恥ずかしい限りじゃ…」

義久の言葉を聞いた教晴は、顔から火が出る思いであった。

そもそも幕府というものは、武家政権の頂点に位置する存在で無ければいけない。
配下の大名家を取り締まったり、常に各国に対して領民たちが安心して暮らせる世を造るといった役目がある。

しかし、近年の度重なる悪政から幕府が傾き始めた事をきっかけにその存在意義が問われ始めていた。
これに対して継晴は、家臣や領民たちの声に耳を貸す事なく自分本位の政を強引に継続。
その結果が、今の状況である。

義久
「しかし、国を守る為には仕方の無いことであるかと…」

義久は、継晴によって家族が人質に取られた事を正当化するような発言をした。

「従えど地獄」「反抗するも地獄」といった最悪の環境である。
それ故、今置かれている状況を肯定するよう自身に言い聞かせて精神的安定を保っているのであろうか。

こうした事からも、義久の発言は本音では無く「建前」として述べたものである事に違いは無いであろう。

教晴
「いや、それは違うぞ義久よ。家臣や領民たちの信頼があってこその国じゃ。しかし、今の幕府はこの体たらく…全く、馬鹿な父を持って余は頭が痛いわ…」

教晴は、義久の述べた言葉を否定。
家臣、領民など周りからの信頼を得てこそ真の良い国であるいう事を義久に説いていた。
同時に、無能で自分本位な思想である父の継晴に対して教晴は嫌悪感を抱いている様子であった。

義久
「教晴様…」

義久は、教晴の言葉に目頭が熱くなっていた。
本来、教晴のような芯の通った思想を持つ者が将軍であるべきだ。
義久は心からそう思っていた。

すると、教晴がしかめた顔で口を開いた。

教晴
「皆の幕府への信頼は最早無きに等しい。ここは、余が蹴りをつけるしか手は無さそうじゃな…」

義久
「教晴様、それはどういうことにございますか?」

義久の問い掛けに対して教晴は静かに答えた。

教晴
「父上を、継晴を余の手で討つのじゃ…」

教晴は、真剣な表情をしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?

三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい!  ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。 イラスト/ノーコピーライトガール

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

乱世を駆ける幼女レイ

阿部まさなり
ファンタジー
 太古の昔、気と魔法が存在する異世界の話。  二千年前、全世界を統一し巨大統一国家を造った、妖鬼族の国家霊王朝。しかし、二千年の時を経て霊王朝は力を失い、世界は群雄が割拠する乱世に突入していた。しかも異世界の人間達もやって来て、各々が皇帝や王を名乗り、国を開き、乱世に覇を唱えた。世界は数百余の国に別れ、争う戦国時代となった。それぞれが剣を持ち、魔法を振るい、気を極めて戦場を駆けていた。そして覇を競うのは人間だけでは無い。神々の世界でも乱世の兆しが見えつつあり、天上天下で世界は混迷していた。そして双方の世界の者達は二つの世界もろとも支配下に入れようと考えていた。  時は昭武六年。そんな乱世の時代に置いて、身長百センチメートルの幼女レイもまた乱世に己の武を以て覇を唱えようとしていた。彼女は妖鬼族の娘で人より秀でた再生能力と巧みに気を操る力を持っていた。しかし先天的な遺伝子異常により、三歳時点で成長が止まる代わりに不老という、不変幼という病気を抱えていた。妖鬼族は他種族より体が大きく、強大で気の扱いも巧みな種族。しかし不変幼という病気のせいで体が極めて小さい為に体力的に極めて不利な現実。それでもレイは好戦的な種族の特性か、己の気質か、小さな体で大きな野望を抱く。そんな彼女を中心に描く、異世界大河ファンタジー。天下を治めるのは一体誰なのか? 幼女レイかそれとも……?  サブタイトルに※のあるものは挿絵あり。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...