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第7章 天下分け目の大決戦編
42.深き森
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先刻の忍びの案内により、祐藤らは立天野山へ足を踏み入れていた。
祐藤
「これはこれは…また険しき道を進むのじゃのう。」
祐藤は、息を切らしながらそう言っていた。
立天野山は、創天国において最も険しい山脈として知られている。
山頂まで辿り着いたという者は数少ないとまで言われるほど、その道のりは険しいものとなっていた。
祐藤
「この山道は儂ら老体には堪えるわい。」
貞勝
「拙者も同じく、辛うございます…」
かつて君主である祐村へ仕えていた若さが溢れる頃の二人であれば、このような険しい山道など物としなかったであろう。
しかし、あれから幾分かの時は流れて二人は壮年と呼ばれるほどの齢に達していた。
これまで志太家の勢力拡大に注力し、それらを実現させるなど精力的には未だ現役の二人ではあったが、流石に肉体面において歳には勝てないようであった。
そして少しの時が経ち、貞勝は不安な様子で口を開いた。
貞勝
「殿、政豊殿のことにございますが、一つ気になることが…」
祐藤
「うむ、何じゃ?申してみよ。」
祐藤は、不安気な貞勝の顔を覗きこみながらそう言った。
貞勝
「政豊殿が住処とされている立天野は郷田家の領地。それ故、この地で盗賊としての狼藉をはたらいておったとなると、真にややこしき話になりましょう…」
祐藤
「むぅ、確かに…政豊殿が郷田殿の領地で勝手な真似をしておったとなれば、安易に我が軍や郷田軍の味方へつけることは憚られるのぅ…」
貞勝
「もしそうであらば、立天野の民たちは黙ってはおりませぬでしょう…」
貞勝が危惧していた事。
それは、政豊が立天野の地で狼藉をはたらいて生計を立てていたのでは無いかという内容であった。
立天野は郷田家の領地であり、さらに郷田家は志太家に臣従している為、志太家の領地でもある。
もし自家の領地において狼藉をはたらいていた場合、政豊を志太家が登用するという動き出れば自家の民たちはどう思うであろうか。
恐らく、立天野の領民たちはこれには反発するであろう。
最悪の場合は、民たちが立ち上がって一揆などが発生する可能性も充分にあり得る話だ。
祐藤も、貞勝が抱いていた危惧を良く理解していたようである。
貞勝
「郷田殿の治める立天野の地が揺れ動くか否かは、我らの行動次第とも言えましょう。」
貞勝は、郷田家を生かすも殺すも志太家次第である事を口にしていた。
祐藤
「うむ、そうじゃな。かようなことを考えねばならぬとは…我らとしても真に荷が重いわい…」
祐藤は頭を悩ませていた。
そうして祐藤は少し考え込んだ後、何かに閃いた様子で口を開き始めた。
祐藤
「じゃが、先の国米での戦において我らの援軍として兵を出したことを考えれば、少なくとも我が志太家には敵意を抱いてはおらぬはず。それ故、我らにあえて刃を向けることなど有り得ぬ…そう信じようではないか。」
貞勝
「なるほど、いわれてみれば確かにそうでございますな。ですが、いずれにせよ政豊殿と一度会って話し合いをする必要はございますが、それまでは政豊殿を信じましょうぞ。」
憶測にしか過ぎない分析ではあったが、この祐藤の言葉を信じよう。
貞勝は、そう自分に言い聞かせようとしていた。
やがて、案内人である忍びが祐藤たちに声をかけた。
忍び
「祐藤様、政豊殿の住処にもうじき着きますぞ。」
その忍びの言葉を聞いた二人は、瞬時に気を引き締めた表情へと切り替わった。
祐藤
「これはこれは…また険しき道を進むのじゃのう。」
祐藤は、息を切らしながらそう言っていた。
立天野山は、創天国において最も険しい山脈として知られている。
山頂まで辿り着いたという者は数少ないとまで言われるほど、その道のりは険しいものとなっていた。
祐藤
「この山道は儂ら老体には堪えるわい。」
貞勝
「拙者も同じく、辛うございます…」
かつて君主である祐村へ仕えていた若さが溢れる頃の二人であれば、このような険しい山道など物としなかったであろう。
しかし、あれから幾分かの時は流れて二人は壮年と呼ばれるほどの齢に達していた。
これまで志太家の勢力拡大に注力し、それらを実現させるなど精力的には未だ現役の二人ではあったが、流石に肉体面において歳には勝てないようであった。
そして少しの時が経ち、貞勝は不安な様子で口を開いた。
貞勝
「殿、政豊殿のことにございますが、一つ気になることが…」
祐藤
「うむ、何じゃ?申してみよ。」
祐藤は、不安気な貞勝の顔を覗きこみながらそう言った。
貞勝
「政豊殿が住処とされている立天野は郷田家の領地。それ故、この地で盗賊としての狼藉をはたらいておったとなると、真にややこしき話になりましょう…」
祐藤
「むぅ、確かに…政豊殿が郷田殿の領地で勝手な真似をしておったとなれば、安易に我が軍や郷田軍の味方へつけることは憚られるのぅ…」
貞勝
「もしそうであらば、立天野の民たちは黙ってはおりませぬでしょう…」
貞勝が危惧していた事。
それは、政豊が立天野の地で狼藉をはたらいて生計を立てていたのでは無いかという内容であった。
立天野は郷田家の領地であり、さらに郷田家は志太家に臣従している為、志太家の領地でもある。
もし自家の領地において狼藉をはたらいていた場合、政豊を志太家が登用するという動き出れば自家の民たちはどう思うであろうか。
恐らく、立天野の領民たちはこれには反発するであろう。
最悪の場合は、民たちが立ち上がって一揆などが発生する可能性も充分にあり得る話だ。
祐藤も、貞勝が抱いていた危惧を良く理解していたようである。
貞勝
「郷田殿の治める立天野の地が揺れ動くか否かは、我らの行動次第とも言えましょう。」
貞勝は、郷田家を生かすも殺すも志太家次第である事を口にしていた。
祐藤
「うむ、そうじゃな。かようなことを考えねばならぬとは…我らとしても真に荷が重いわい…」
祐藤は頭を悩ませていた。
そうして祐藤は少し考え込んだ後、何かに閃いた様子で口を開き始めた。
祐藤
「じゃが、先の国米での戦において我らの援軍として兵を出したことを考えれば、少なくとも我が志太家には敵意を抱いてはおらぬはず。それ故、我らにあえて刃を向けることなど有り得ぬ…そう信じようではないか。」
貞勝
「なるほど、いわれてみれば確かにそうでございますな。ですが、いずれにせよ政豊殿と一度会って話し合いをする必要はございますが、それまでは政豊殿を信じましょうぞ。」
憶測にしか過ぎない分析ではあったが、この祐藤の言葉を信じよう。
貞勝は、そう自分に言い聞かせようとしていた。
やがて、案内人である忍びが祐藤たちに声をかけた。
忍び
「祐藤様、政豊殿の住処にもうじき着きますぞ。」
その忍びの言葉を聞いた二人は、瞬時に気を引き締めた表情へと切り替わった。
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