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第7章 天下分け目の大決戦編

37.隣国より

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そしてさらに数日後、祐藤の元にとある人物が訪れた。
国米の大名である堀内為永であった。

祐藤
「為永殿、よくぞ参られた。しばらくぶりにございますな。」

祐藤は為永の訪問を表向きでは歓迎していたが、警戒している様子であった。
志太家と堀内家は現在も依然として敵対関係にある。
そして両者共に和睦などの動きを見せなかった事もあり、緊迫した雰囲気であった。

祐藤
「して、為永殿が直々にどのような用件で参られたのでござるか。」

祐藤が為永に対してそう問い掛けた。
すると、為永が恐る恐る口を開く。

為永
「ははっ、まずは先の国米での件においてお詫びを申し上げまする。」

国米での件。
志太家と幕府軍が衝突した国米の戦いの事である。
この戦いは志太軍が圧勝と思われたが、幕府軍の策略などによって志太軍は翻弄され、結果的には幕府軍の逆転勝利となった。
志太家にとってこの戦いは、辛酸を嘗めさせられた言わば苦い出来事である。

祐藤
「国米での幕府軍との戦いのことにござるかな?」

祐藤は、分かってはいながらもその事を口にして為永に確認をさせた。

為永
「はい。幕府の命とは言えど何の恨みも無き志太殿に対して刃を向けたこと、真に申し訳ございませぬ!」

為永は祐藤に対して土下座をし、声をあげた。

あくまでも幕府の命令に従うしか無かった事を弁明するかのような口調である。
この言葉だけを聞けば、幕府を悪者にした責任転嫁とも取れる内容ではあったが、為永は堀内家がそうせざるを得なかった理由を述べ始めた。

堀内家は、各地で勢力争いが勃発する中でも中立を保ち続けて領土の保全に努めていた大名家である。
その背景として、莫大な財産が家中にあったと言われており、それが周辺各国の中立を貫き通すうえで非常に重要な存在であったという。
堀内家は、この財力と巧みな外交手段によって戦国の世を生き抜いていたとも言えよう。

しかし、継晴が将軍として就任した頃に歯車は次第に狂い始める。
それは、将軍継晴が交付したお触れであった。

上納金の制度によって堀内家は莫大な金額を上納する事となり、財政は大打撃を受けた。
家中では枯渇する事を知らぬ、とまで言われていた堀内家の財政であったが、一年、また一年と経つにつれてその財政状況に暗雲が立ち込め始める。

そしてさらに数年後、堀内家にあった莫大な財産はついには底を突こうとしていた。
こうした状況から為永は幕府に降る事を決意。
戦国大名家としての堀内家は事実上消滅した瞬間である。
この出来事は、あくまでも一戦国大名家として中立を保ち続けていた堀内家にとっては、断腸の思いであった事に間違いは無かろう。

やがて幕府の家臣となった為永は、志太軍による直轄地の侵攻を防ぐべくこれを迎撃せよとの命令が下った。
為永にとっては不本意な戦いではあったが、ただただ幕府の命に従うしか選択の余地は無かった。

もし、迎撃命令に背けばお家の取り潰しは間逃れないであろう。
為永は、家名存続と家臣たちを守る為にも志太軍と戦うという苦渋の決断を下したのである。

祐藤
「ふむ、なるほど。聞けばそなたは随分と苦労されておるようじゃな…」

祐藤は、眉をひそめながらそう言った。
幕府が堀内家に対して受けた仕打ちに対して酷く同情しているかのようである。
その様子を見た為永は、祐藤の前にひざまずいて口を開く。

為永
「祐藤殿、真に身勝手で都合の良き話であることは百も承知でお願い申す。我が堀内家は幕府を見限り、今後は志太家の傘下に加えていただきたく存じます。」

為永は、真剣な目つきで祐藤を見つめた後に深々と頭を下げていた。
その様子を見た祐藤は、為永のただならぬ覚悟と決意を感じ取っていたようである。

すると祐藤が口を開いた。

祐藤
「うむ、分かった。では、堀内家は本日をもって我が志太家の一員とさせていただこうではないか。泰平の世を築く為にも、そなたたちにも苦労をかけることにはなるやも知れぬが、よろしく頼んだぞよ。」

為永
「ははっ!我が堀内家、過去を捨て去りこれより志太家の為に尽くさせていただきます!」

為永は、祐藤のその言葉に精一杯の感謝の意を表した。

祐藤
「しかし、思えば継晴殿も哀れなお方じゃのぅ…まぁ、自業自得ともいうべきか…」

祐藤は、継晴に対して哀れみの言葉を呟いていた。
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