上 下
241 / 549
第7章 天下分け目の大決戦編

15.国米の戦い(7)

しおりを挟む
国米の戦いも中盤に差し掛かった頃、大きな動きが見られた。
それは、大月長包の突然の裏切りである。
幕府軍へと寝返った長包の軍勢は、一斉に祐藤のいる軍勢に向けて矢の雨を浴びせていた。

★現在の戦況

志太・口羽連合軍(総兵数 8,000人)
志太軍
計 4,000人

口羽軍
計 4,000人

堀内・幕府・鳥居・大月連合軍(総兵数 14,000人)
堀内軍
堀内家総大将「堀内 為永」
計 3,000人

幕府軍
三浦幕府総大将「三浦 継晴」
三浦幕府武将「黒松 義成」
計 4,500人

鳥居軍
鳥居家総大将「鳥居 景綱」
計 4,500人

大月軍
大月家総大将「大月 長包」
計 2,000人

開戦時は優勢であった志太連合軍は、幕府による援軍や鳥居景綱による参戦、そして大月長包の寝返りによって一気に不利な状況に陥っていた。
兵数では志太連合軍の半分にも満たない堀内軍がわずか数刻で強大な軍勢へと変化を遂げた瞬間である。

祐藤
「お前たちよ、慌てるでない!我ら志太家は天下を統べる為にここまで来たのじゃ。こんな所で負けるわけにはいかぬ!」

祐藤は、長包の攻撃を受けた事で混乱しつつある軍勢を鼓舞すべく大声でそう叫んだ。

その一方で長包は、祐藤に対して冷静な口調で言った。

長包
「流石の祐藤殿もこれほどの軍勢に囲まれては手も足も出ぬでしょう。さぁ、早う降参されよ。」

長包は余裕そうな表情をしていた。

その様子を見た崇数は、顔を真っ赤にして長包を睨みつけた。

崇数
「幕府の犬に成り下がった愚か者めが何を申すか!貴様、見損なったぞ!」

崇数は長包に痛烈な罵声を浴びせていた。

長包
「ふっ、弱き者の言葉など心には響きませぬな。まぁ、せいぜい吠えておくが良いわ。」

長包はそう言うと志太連合軍に対して静かに抜いた刀を向けた。

長包
「我が大月軍に告ぐ!直ちに志太祐藤及び口羽崇数、志太祐宗の首を取るのじゃ!さすれば我らは副将軍家としての輝かしい栄光を手にすることができようぞ!」

声が枯れるほどの叫びが長包から発せられた。
すると、大月軍は志太連合軍に対して一斉に突撃し始めた。

地位や名誉に目がくらんだ時、人は鬼の如く強き力を発揮すると言う。
今の大月軍がまさにその通りと言っても良いであろう。

長包の号令で勢いを増した大月軍の猛攻は、最早誰にも止められなかった。
この攻撃により志太連合軍は一人、また一人と次々に倒されていった。

やがて志太連合軍の軍勢の士気は著しく低下し、開戦時の覇気は完全に失いつつあった。
次の攻撃が来れば本陣は間違い無く陥落するであろう。
そう悟った祐藤は静かに口を開いた。

祐藤
「最早これまでか…どうやら儂は天下を取れぬようじゃったな…」

祐藤は覚悟を決めた様子であった。

崇数
「祐藤様、何を弱気なことを申されますか!かような軍勢など蹴散らしてしまいましょうぞ!」

崇数は弱気な祐藤に対して声を張り上げて言った。

祐藤
「もうよい、どうあがいても我が軍の負けじゃ…儂が天下を統べた後には祐宗、お前に将軍になってもらうつもりじゃったが、それももう叶わぬ…」

祐宗
「父上…」

祐宗の目には涙がこぼれようとしていた。

一方、大月軍の軍勢では長包自身が志太軍の本陣へ出撃する支度をしていた。

長包
「さて、そろそろ大詰めじゃな。どれ、三人の最期の顔でも拝みに参らせてもらおうかの。」

長包は、祐藤らの最期に付き添う事で彼らや過去の自分との決別を行おうと考えていた。
主君に対して刃を向けた不忠者が見せるせめてもの償いのつもりであろうか。
長包は志太軍の本陣へと馬を進めた。

その時である。
突然、長包の軍勢を目掛けて大量の火矢が降り注いだ。
辺りはたちまち火の海と化し、大月軍は混乱し始めた。

火矢が射られた方角を見ると大量の軍勢がいた。
さらにその中には、大馬に跨る一際目立った大柄の男が構えているのが分かった。
男は軍勢に向けて言った。

「仮にも幕府の将軍様ともあろうお方がよってたかっていじめを仕掛けるなど言語道断にござる!」

男は、今回の幕府による戦のやり方に対して不満がある事を口にしていた。
そして続いて男は、祐藤の方を向いて言った。

「祐藤殿よ、お主はかような場所で死すべき者ではござらぬぞ!」

男は涼しげな顔をしていた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

隻眼の覇者・伊達政宗転生~殺された歴史教師は伊達政宗に転生し、天下統一を志す~

髙橋朔也
ファンタジー
 高校で歴史の教師をしていた俺は、同じ職場の教師によって殺されて死後に女神と出会う。転生の権利を与えられ、伊達政宗に逆行転生。伊達政宗による天下統一を実現させるため、父・輝宗からの信頼度を上げてまずは伊達家の家督を継ぐ!  戦国時代の医療にも目を向けて、身につけた薬学知識で生存率向上も目指し、果ては独眼竜と渾名される。  持ち前の歴史知識を使い、人を救い、信頼度を上げ、時には戦を勝利に導く。  推理と歴史が混ざっています。基本的な内容は史実に忠実です。一話が2000文字程度なので片手間に読めて、読みやすいと思います。これさえ読めば伊達政宗については大体理解出来ると思います。  ※毎日投稿。  ※歴史上に存在しない人物も登場しています。  小説家になろう、カクヨムでも本作を投稿しております。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

日は沈まず

ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。 また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

墨山事件

佐村孫千(サムラ マゴセン)
ミステリー
舞台は架空世界の現代。 とある地方で謎の集団失踪事件が発生。 それから四十数年の時が過ぎたが未だ真相解明には至っていない。 この未解決事件を解決すべく一人の若き探偵が立ち上がった...。 ※ この物語は、ネットの都市伝説である「鮫島事件」をモチーフに作者が独自のオリジナル要素を加えて執筆した作品です。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...