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第6章 風雲志太家編
78.糊塗の泰平
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将軍就任式が終了して自国へ帰還した祐藤は、家臣たちを緊急で呼び集めて評定が開かれた。
祐藤
「どうやら儂が恐れておったことが起きたようじゃな。」
祐藤は就任式で継晴によって公布されたお触れについて家臣たちに説明していた。
その説明に家臣たちは皆が言葉を失い、放心状態となっていた。
実はこのお触れには続きがあった。
幕府への上納制度である。
各国の大名家は、将軍家に対して上納する事が義務付けられたが、大名家の規模によってはかなりの変動があったのだ。
小大名家には低い税率、大大名家に対しては高い税率となっており、大名家の規模が大きいほど高額な負担となる。
場合によっては期限の十年までに各大名家の金銭が枯渇する事も充分に有り得る。
だが、そうなった場合は救済策を幕府は用意している。
国を将軍である継晴に差し出し、幕府の直轄地となるのだ。
こうする事で、幕府は戦わずにして各地の大名家を徐々に支配下に置く事ができるというものだ。
これは将軍守護職を賜り、今や数カ国をも支配する志太家も例外ではない。
いずれは志太家を臣下に置いて幕府の再興を図ろうという魂胆であろう。
全くもって姑息な手段である。
家臣たちは皆、深いため息をついていた。
そんな中、貞勝が口を開いた。
貞勝
「十年…真に長き、長き時にございますな…」
貞勝は遠い目をしていた。
十年という長い期間を幕府によって拘束される事に対して半ば諦めの様子であった。
すると崇数が続けて強い口調で吐き捨てるように言った。
崇数
「此度の件は真に許し難き裏切りにございますぞ!今日まで幕府が続いていたのは当家のお陰でありましょう。その恩を仇で返すような仕打ちを我らが受けるなど遺憾の極み。言語道断にございます!かような幕府など最早必要ござらぬ故、お触れなど撥ね付けてやりましょうぞ!」
今回の件に対して崇数は、腸が煮えくり返る思いで一杯であった。
近年では将軍守護職を賜り、幕府からも感謝されていた志太家にまでもこのような仕打ちを受けるという理不尽さに納得がいかなかった。
崇数は、志太家の人間が言わんとしている事を代弁していたのである。
すると、祐藤が崇数の肩を軽く叩いてなだめるように言った。
祐藤
「崇数殿よ、そなたの気持ちは良く分かるが冷静になられよ。もし、ここで我らが幕府に楯突けば奴らの思う壺であるぞ。」
崇数の言い分は確かに正論ではある。
しかし、もしここで幕府に対して反旗を翻すような事を起こせば志太家に対して包囲網が敷かれるであろう。
そうなれば志太家は四面楚歌の状態に陥る事は火を見るよりも明らかだ。
祐藤
「儂とて、かようなお触れになど従いとうは無い。ここは耐えよ。今は我らが幕府に従うしか生き残る道は無い。耐えるのじゃ。」
祐藤は苦悶に満ちた表情をしていた。
天下統一の道程は順風満帆であった矢先の出来事であった故に、非常に悔しい気持ちで一杯であった。
すると、祐藤は一変して険しい表情へと変わった。
祐藤
「無論、このまま黙っておめおめと幕府に従うつもりはござらぬ。信常よ、分かっておるであろう?お主が今後の当家の命運を握っておることをな。」
祐藤は、信常に対して大きな望みを託していた。
信常
「ははっ、心得ております。当家による天下統一を実現させる為にもこの信常、粉骨砕身の覚悟にございます。」
そんな祐藤の期待を受け、信常は決意を新たにしていた。
こうして将軍 継晴が公布したお触れにより、今後十年間は大名同士の争いが無くなる見込みだ。
各国の財政状況により、大名たちにとっては痛手を被る事とはなろうが、それでも泰平の世が訪れる事は喜ばしいものである。
特に戦国の世に巻き込まれていた領民たちは、大いに喜んでいた。
だが、忘れてはならない。
それは一時的に造られた泰平の世であるという事を…
祐藤
「どうやら儂が恐れておったことが起きたようじゃな。」
祐藤は就任式で継晴によって公布されたお触れについて家臣たちに説明していた。
その説明に家臣たちは皆が言葉を失い、放心状態となっていた。
実はこのお触れには続きがあった。
幕府への上納制度である。
各国の大名家は、将軍家に対して上納する事が義務付けられたが、大名家の規模によってはかなりの変動があったのだ。
小大名家には低い税率、大大名家に対しては高い税率となっており、大名家の規模が大きいほど高額な負担となる。
場合によっては期限の十年までに各大名家の金銭が枯渇する事も充分に有り得る。
だが、そうなった場合は救済策を幕府は用意している。
国を将軍である継晴に差し出し、幕府の直轄地となるのだ。
こうする事で、幕府は戦わずにして各地の大名家を徐々に支配下に置く事ができるというものだ。
これは将軍守護職を賜り、今や数カ国をも支配する志太家も例外ではない。
いずれは志太家を臣下に置いて幕府の再興を図ろうという魂胆であろう。
全くもって姑息な手段である。
家臣たちは皆、深いため息をついていた。
そんな中、貞勝が口を開いた。
貞勝
「十年…真に長き、長き時にございますな…」
貞勝は遠い目をしていた。
十年という長い期間を幕府によって拘束される事に対して半ば諦めの様子であった。
すると崇数が続けて強い口調で吐き捨てるように言った。
崇数
「此度の件は真に許し難き裏切りにございますぞ!今日まで幕府が続いていたのは当家のお陰でありましょう。その恩を仇で返すような仕打ちを我らが受けるなど遺憾の極み。言語道断にございます!かような幕府など最早必要ござらぬ故、お触れなど撥ね付けてやりましょうぞ!」
今回の件に対して崇数は、腸が煮えくり返る思いで一杯であった。
近年では将軍守護職を賜り、幕府からも感謝されていた志太家にまでもこのような仕打ちを受けるという理不尽さに納得がいかなかった。
崇数は、志太家の人間が言わんとしている事を代弁していたのである。
すると、祐藤が崇数の肩を軽く叩いてなだめるように言った。
祐藤
「崇数殿よ、そなたの気持ちは良く分かるが冷静になられよ。もし、ここで我らが幕府に楯突けば奴らの思う壺であるぞ。」
崇数の言い分は確かに正論ではある。
しかし、もしここで幕府に対して反旗を翻すような事を起こせば志太家に対して包囲網が敷かれるであろう。
そうなれば志太家は四面楚歌の状態に陥る事は火を見るよりも明らかだ。
祐藤
「儂とて、かようなお触れになど従いとうは無い。ここは耐えよ。今は我らが幕府に従うしか生き残る道は無い。耐えるのじゃ。」
祐藤は苦悶に満ちた表情をしていた。
天下統一の道程は順風満帆であった矢先の出来事であった故に、非常に悔しい気持ちで一杯であった。
すると、祐藤は一変して険しい表情へと変わった。
祐藤
「無論、このまま黙っておめおめと幕府に従うつもりはござらぬ。信常よ、分かっておるであろう?お主が今後の当家の命運を握っておることをな。」
祐藤は、信常に対して大きな望みを託していた。
信常
「ははっ、心得ております。当家による天下統一を実現させる為にもこの信常、粉骨砕身の覚悟にございます。」
そんな祐藤の期待を受け、信常は決意を新たにしていた。
こうして将軍 継晴が公布したお触れにより、今後十年間は大名同士の争いが無くなる見込みだ。
各国の財政状況により、大名たちにとっては痛手を被る事とはなろうが、それでも泰平の世が訪れる事は喜ばしいものである。
特に戦国の世に巻き込まれていた領民たちは、大いに喜んでいた。
だが、忘れてはならない。
それは一時的に造られた泰平の世であるという事を…
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