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第6章 風雲志太家編
76.将軍就任を前に
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一方、三浦宮御所では次代将軍の就任式の準備に追われていた。
継晴
「義政よ、余は将軍としての務めを果たせるであろうかの。どうも心配でならぬ。」
継晴は不安げな表情であった。
継晴は随分と昔に元服を既に済ませており、それなりの歳を重ねていた。
幼き時より家臣たちからは様々な教育を受けて育ったとされているが、実践の経験には乏しく政務などに携わる事は皆無に等しかったと言われている。
それ故に継晴は、自身が将軍として責務を果たす事ができるのであろうかと考えていたのである。
すると、義政はすかさず答えた。
義政
「この義政めを始めとする家臣らが継晴様をお支え致します故、どうかご安心くださいませ。それに、代々の将軍様は皆ご立派に国を治めてこられました。継晴様には、かような偉大なる御先祖様の血が流れておられます故、ご心配は無用にございますぞ。」
義政は継晴に自信を付けさせる為にそう言った。
そして継晴の経験不足を補うべく、家臣一丸となって全力で継晴を支える事を約束していた。
継晴
「真に頼もしいことを申してくれおる。かような家臣たちを持って余は幸せ者じゃ。」
継晴は義政の言葉に感謝している様子である。
義政
「そこで一つ、拙者からお願い申したいことがございます。」
義政は真剣な表情で継晴に言った。
継晴
「うむ、何じゃ。申してみよ。」
義政
「継晴様は志太殿をたいそう気に入っておられるかと存じますが、あまり肩入れをなさらぬようお願い申します。」
継晴
「ほう。して、何故のことがあってそう申されておるのじゃ。」
義政
「我ら三浦家によって将軍守護職を与えた祐藤殿ですが、心底にまであの者のことを信用しても良きものなのであろうかと先日から思うことがございまして…」
義政は、どうやら祐藤の事が気になっているようであった。
継晴
「つまり、志太殿を警戒せよと申しておるのじゃな。」
義政
「はい。先日の御葬儀に参列された祐藤殿は、何か裏があるように思えてなりませぬ。」
義政は、先日の祐晴の葬儀に参列した祐藤を見て何かを感じ取っていたようである。
まず、祐藤の参列だけに留まらずに多くの家臣たちを参列させていた志太家に違和感を覚えていた。
人は、何かやましい事があればそれに気付かれないよう相手に対して大袈裟に誠意を見せるなどといった行動が出やすいと言う。
義政は、そんな祐藤に対して疑念を抱いていた。
そして義政は続けて言った。
義政
「それに、祐藤殿は義兼に似ております故、気になりますな。」
ーー 義兼
かつて、義政の家督相続の候補であった男である。
・黒松 義兼(くろまつ よしかね)
三浦宮御所下の商人の家に生まれる。
本名は山部 道兼(やまべ みちかね)
道兼が生まれて間もない時期に生家が廃業に追い込まれ、一家は路頭に迷う事となる。
そんな道兼を不憫に感じた義政は、黒松家で引き取られる。
やがて時は流れ、道兼が元服の年に家臣として正式に三浦将軍家に登用される。
その後は天性の才能を発揮し、しばしば義政から称賛の声を賜っていたという。
そしてついには義政の長女である梓姫と婚姻を結んで養子となり、次期黒松家当主の座に就く。
この頃より義政の「義」を一字賜り、義兼と名乗ったという。
順風満帆かに見えた義兼ではあったが、そのわずか数年後に不慮の事故(落馬と言われている)によって急死。
義兼は、家督相続候補となった頃より謀反を企てているなどの噂が囁かれており、危険を感じた幕府側が謀殺したとも言われている。
・黒松 梓(くろまつ あずさ)
義政の長女。
男系の子に恵まれなかった義政の命を受け、道兼と婚姻する。
しかし、その数年後に道兼は不慮の事故により急死した事で未亡人となる。
その後は自らが武将として黒松家を支える存在となった。
男勝りの気性の荒さからか武芸に秀でていたとされており、家臣たちに稽古をつける光景がたびたび見られたという。
義政
「まず、祐藤殿は元々は志太家とは縁の無き者にございます。しかし家臣となり、やがては祐村殿の養子となって家督を相続いたしました。そして、我が黒松家においても当家とは縁の無き義兼を養子と迎え入れ、世継ぎに任命いたしました。」
継晴
「ほう、確かにその二人の境遇は似ておるの。じゃが、それだけのことにはござらんか?」
継晴は、義政の言わんとしている事にあまりぴんと来ないような様子である。
義政
「祐藤殿は、世継ぎに任命後の義兼と真に似通ったところがございます。」
義兼は、黒松家の世継ぎに任命された頃より義政への誠意や忠誠心の表現方法が、以前に比べて大袈裟過ぎるほどにまでになったと言う。
表では綺麗に見繕ってはいるが、裏では隙あらば主家を乗っ取らんばかりの野心に燃えている姿として義政の目には映っていたようである。
義兼のこのような行動はやがて家臣たちの間でも噂をされはじめ、家中において警戒されるようになっていったという。
ただ、義兼は既に亡き人となっている為に真相は藪の中ではあるという事は付け足しておこう。
継晴
「なるほどの。言われてみればそうかも知れぬ点は確かにあるの。あい分かった。義政の言葉を信じてしばし志太殿の様子を伺ってみようではないか。」
継晴は納得した様子であった。
義政
「ははっ、では拙者がこれより申すことを御就任式で大名共に向けてお触れとしてお出しくださいませ。」
義政は、継晴に対して説明を始めていた。
継晴
「義政よ、余は将軍としての務めを果たせるであろうかの。どうも心配でならぬ。」
継晴は不安げな表情であった。
継晴は随分と昔に元服を既に済ませており、それなりの歳を重ねていた。
幼き時より家臣たちからは様々な教育を受けて育ったとされているが、実践の経験には乏しく政務などに携わる事は皆無に等しかったと言われている。
それ故に継晴は、自身が将軍として責務を果たす事ができるのであろうかと考えていたのである。
すると、義政はすかさず答えた。
義政
「この義政めを始めとする家臣らが継晴様をお支え致します故、どうかご安心くださいませ。それに、代々の将軍様は皆ご立派に国を治めてこられました。継晴様には、かような偉大なる御先祖様の血が流れておられます故、ご心配は無用にございますぞ。」
義政は継晴に自信を付けさせる為にそう言った。
そして継晴の経験不足を補うべく、家臣一丸となって全力で継晴を支える事を約束していた。
継晴
「真に頼もしいことを申してくれおる。かような家臣たちを持って余は幸せ者じゃ。」
継晴は義政の言葉に感謝している様子である。
義政
「そこで一つ、拙者からお願い申したいことがございます。」
義政は真剣な表情で継晴に言った。
継晴
「うむ、何じゃ。申してみよ。」
義政
「継晴様は志太殿をたいそう気に入っておられるかと存じますが、あまり肩入れをなさらぬようお願い申します。」
継晴
「ほう。して、何故のことがあってそう申されておるのじゃ。」
義政
「我ら三浦家によって将軍守護職を与えた祐藤殿ですが、心底にまであの者のことを信用しても良きものなのであろうかと先日から思うことがございまして…」
義政は、どうやら祐藤の事が気になっているようであった。
継晴
「つまり、志太殿を警戒せよと申しておるのじゃな。」
義政
「はい。先日の御葬儀に参列された祐藤殿は、何か裏があるように思えてなりませぬ。」
義政は、先日の祐晴の葬儀に参列した祐藤を見て何かを感じ取っていたようである。
まず、祐藤の参列だけに留まらずに多くの家臣たちを参列させていた志太家に違和感を覚えていた。
人は、何かやましい事があればそれに気付かれないよう相手に対して大袈裟に誠意を見せるなどといった行動が出やすいと言う。
義政は、そんな祐藤に対して疑念を抱いていた。
そして義政は続けて言った。
義政
「それに、祐藤殿は義兼に似ております故、気になりますな。」
ーー 義兼
かつて、義政の家督相続の候補であった男である。
・黒松 義兼(くろまつ よしかね)
三浦宮御所下の商人の家に生まれる。
本名は山部 道兼(やまべ みちかね)
道兼が生まれて間もない時期に生家が廃業に追い込まれ、一家は路頭に迷う事となる。
そんな道兼を不憫に感じた義政は、黒松家で引き取られる。
やがて時は流れ、道兼が元服の年に家臣として正式に三浦将軍家に登用される。
その後は天性の才能を発揮し、しばしば義政から称賛の声を賜っていたという。
そしてついには義政の長女である梓姫と婚姻を結んで養子となり、次期黒松家当主の座に就く。
この頃より義政の「義」を一字賜り、義兼と名乗ったという。
順風満帆かに見えた義兼ではあったが、そのわずか数年後に不慮の事故(落馬と言われている)によって急死。
義兼は、家督相続候補となった頃より謀反を企てているなどの噂が囁かれており、危険を感じた幕府側が謀殺したとも言われている。
・黒松 梓(くろまつ あずさ)
義政の長女。
男系の子に恵まれなかった義政の命を受け、道兼と婚姻する。
しかし、その数年後に道兼は不慮の事故により急死した事で未亡人となる。
その後は自らが武将として黒松家を支える存在となった。
男勝りの気性の荒さからか武芸に秀でていたとされており、家臣たちに稽古をつける光景がたびたび見られたという。
義政
「まず、祐藤殿は元々は志太家とは縁の無き者にございます。しかし家臣となり、やがては祐村殿の養子となって家督を相続いたしました。そして、我が黒松家においても当家とは縁の無き義兼を養子と迎え入れ、世継ぎに任命いたしました。」
継晴
「ほう、確かにその二人の境遇は似ておるの。じゃが、それだけのことにはござらんか?」
継晴は、義政の言わんとしている事にあまりぴんと来ないような様子である。
義政
「祐藤殿は、世継ぎに任命後の義兼と真に似通ったところがございます。」
義兼は、黒松家の世継ぎに任命された頃より義政への誠意や忠誠心の表現方法が、以前に比べて大袈裟過ぎるほどにまでになったと言う。
表では綺麗に見繕ってはいるが、裏では隙あらば主家を乗っ取らんばかりの野心に燃えている姿として義政の目には映っていたようである。
義兼のこのような行動はやがて家臣たちの間でも噂をされはじめ、家中において警戒されるようになっていったという。
ただ、義兼は既に亡き人となっている為に真相は藪の中ではあるという事は付け足しておこう。
継晴
「なるほどの。言われてみればそうかも知れぬ点は確かにあるの。あい分かった。義政の言葉を信じてしばし志太殿の様子を伺ってみようではないか。」
継晴は納得した様子であった。
義政
「ははっ、では拙者がこれより申すことを御就任式で大名共に向けてお触れとしてお出しくださいませ。」
義政は、継晴に対して説明を始めていた。
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