上 下
210 / 549
第6章 風雲志太家編

62.柳城攻め(9)

しおりを挟む
家春と晴正の軍勢は柊軍の武将である木内政豊を何としてでも討ち取ろうと必死になっていた。

晴正
「しかし家春様、この状況では我らが不利ではございませぬか。」

晴正は心配そうな表情で家春に言った。

秋庭軍は先程の政豊による奇襲を受け、監獄の入口である大門に追いやられていた。
そしてその周りを囲むように柊軍に包囲されており、逃げ場を完全に失われていたのである。

家春
「正に背水の陣であるな。じゃが、これしきのことで怯むでない。この逆境を乗り越えられるか否かで秋庭家の未来が決まると言っても良いであろう。」

家春は、今置かれたこの状況を打破しなければ秋庭家としての明日は無いであろうと考えていた。
すると、晴正が家春に対して口を開いた。

晴正
「家春様と共にであらば、いかなる逆境も乗り越えて見せましょうぞ。」

晴正は覚悟を決めた表情であった。

家春
「うむ、よう言うた。拙者も覚悟は出来ておる。必ずやこの戦は勝って見せようぞ。」

家春もまた覚悟を決め、勇ましい表情でそう言った。

家春
「では、突撃を開始する。皆の者よ、我に続くが良い!」

家春は素早く馬に跨り、政豊の陣を目指して一目散に駆け出した。
その様子を見た兵たちは、我も我もと急いで家春に続いて行った。

やがて、秋庭軍が突撃を開始した事を知った政豊は嬉しそうな表情を浮かべていた。

政豊
「おう、秋庭軍の兵たちがこっちに向かって来ておるぞ。これは面白くなってきたのう。」

政豊は気持ちが昂ぶっており、武者震いを始めている様子である。

そうしていると、秋庭軍と柊軍が激しく衝突し始めた。
形勢としては柊軍に囲まれた事もあり、秋庭軍がやや不利な状況ではあったが、士気の高さでは柊軍を上回っていた。
そのお陰もあってか、秋庭軍の被害は思ったよりも少なく済んでいる様子である。

しかし、次から次へと立ち塞がる柊軍の兵たちの処理に秋庭軍は次第に手を焼くようになった。
すると、その様子を見た家春が兵たちに向かって言った。

家春
「雑魚は相手に致すでない、我らが目指すは大将の陣であるぞ。」

柊軍の兵たちを一人一人相手にしていては政豊の構える陣へは一向に辿り着かないであろう。
ここは多少の攻撃を受けたとしても、政豊と直接に刀を交える事に意味があるのだ。
家春は、兵たちにそう言い聞かせていた。

そうして秋庭軍は柊軍の攻撃を受けながらも、ひたすらに突き進んで行った。
その中で、柊軍に討たれる者や足止めを食らう者などが現れ始め、一人また一人と消えていった。

やがて、秋庭軍は政豊が構える陣にまで到着した。
最終的にここまで辿り着いた時には、家春と晴正を含めて数十名ほどの兵たちしか残らなかったと言われている。

家春
「よし、それでは大将殿の首を頂きに参ろうぞ。」

家春は目標を達成すべく躍起になっていた。
すると、間もなくして陣から政豊が姿を現し、家春らに向けて声を上げた。

政豊
「ようこそ、秋庭殿。拙者、柊家家臣の木内政豊が直々にそなたたちを地獄へと送ってやろうぞよ。」

政豊は不気味な表情を家春らに向けてそう言った。

家春
「木内政豊殿と申したな。そなたの御首を我らが頂戴したく参った故にお覚悟なされよ。」

家春は真剣な目つきで政豊に向かってそう言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

信長の秘書

たも吉
歴史・時代
右筆(ゆうひつ)。 それは、武家の秘書役を行う文官のことである。 文章の代筆が本来の職務であったが、時代が進むにつれて公文書や記録の作成などを行い、事務官僚としての役目を担うようになった。 この物語は、とある男が武家に右筆として仕官し、無自覚に主家を動かし、戦国乱世を生き抜く物語である。 などと格好つけてしまいましたが、実際はただのゆる~いお話です。

婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?

三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい!  ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。 イラスト/ノーコピーライトガール

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

歴史改変日記

佐村孫千(サムラ マゴセン)
SF
時代は22世紀の未来。 21世紀初頭に生まれたVR技術は目まぐるしい発展を遂げた。 その中でも歴史上の出来事が3Dホログラムの箱庭で鑑賞する事ができ、更に歴史の改変が思うがままに行えるというシミュレーションVR「歴史改変日記」が大ブームを巻き起こしていた。 この「歴史改変日記」を手にした歴史オタクの中学生 佐村大輝(さむら ひろき)は歴史改変を行い、彼が描く理想の歴史を造ろうとしていた。

無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた

中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■ 無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。 これは、別次元から来た女神のせいだった。 その次元では日本が勝利していたのだった。 女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。 なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。 軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか? 日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。 ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。 この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。 参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。 使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。 表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。

信濃の大空

ypaaaaaaa
歴史・時代
空母信濃、それは大和型3番艦として建造されたものの戦術の変化により空母に改装され、一度も戦わず沈んだ巨艦である。 そんな信濃がもし、マリアナ沖海戦に間に合っていたらその後はどうなっていただろう。 この小説はそんな妄想を書き綴ったものです! 前作同じく、こんなことがあったらいいなと思いながら読んでいただけると幸いです!

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

処理中です...