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第6章 風雲志太家編

53.柳城攻略の軍議

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それから数日後、志太家では家臣たちを集めて軍議が開かれた。
内容は他でもない柳城の制圧に関してのものである。
なお、秋庭家もこの軍議に参加していた。

祐藤
「皆の者よ、準備が整った故に明日にいよいよ柳城を攻める。」

祐藤は開口一番に柳城の攻略について言及していた。
すると、家春が水を差すかのように祐藤に向かって言った。

家春
「先日も拙者が申しました通り、柊晴清は幸盛と同じく油断のできぬ男であります故に注意が必要にございます。それに…」

祐藤
「それに?何じゃ、申されてみよ。」

祐藤は食い入るように家春に向かってそう言った。

家春
「ほとんどの家臣たちは幸盛の思想を植え付けられて洗脳されております。それ故に彼らは降伏するという考えはござらんでしょう。中途半端な攻撃は、我らの身をも滅ぼす恐れもございます。」

幸盛の家臣たちは、初めに士官した際に柳家へ忠誠を誓う為の教育を徹底的に仕込まれるという。
その中で幸盛に対して忠誠心が高いと判定された者は、初めて家臣として認められた。
また、忠誠心が低いと判定された者に関しては「無礼者」という汚名を着せられて粛清されるなど非常に厳しい採用基準であったという。
どうやら幸盛による洗脳は根が深そうである。

すると祐藤は、目をきりりとさせて家春に対して言った。
何やら志太家側としての対策はばっちりだと言わんばかりの表情である。

祐藤
「つまり、戦況に応じて我らに降ることは無いと申すか。それならば、こちらにも考えがあるわい。」

家春
「ほう、何か策がおありと申されますか。」

家春は祐藤のこの切り返しの言葉が素早く出てきた事に驚いた様子であった。
自身が考えていた問題を解決させる案がいとも簡単に出てくるという祐藤との能力の差を感じずにはいられなかった。

祐藤
「うむ、良き策がな。明日の出陣に玄名殿の軍の参戦を命じる。玄名殿よ、柊軍に纏わり付いている幸盛の洗脳を何としてでも解いて見せるのじゃ。」

玄名は過去に元敵軍であった兵たちに向けて説法を行う事により、志太家の兵となった実績がある。
そして今回のキーワードとも言える「洗脳」に対して最も適した家臣。
そういった事もあってか今回、玄名に白羽の矢が立ったようである。

玄名
「ははっ、承知致しました。悪に心を侵された者たちをも救うのが我が僧侶の使命。彼らの心をお救いいたしましょう。」

玄名は祐藤による突然の命令に一瞬驚いた様子ではあったが、僧侶としての役目を果たす為とあらばと考えてそう答えた。

家春
「何とも頼もしいお方じゃ。志太殿の家中はかような立派な僧侶もおられるのでございますか。」

家春は人材豊富な志太家の現状を目の当たりにして非常に感心している様子でそう言った。

祐藤
「しかし、玄名殿の説法を以てしても成功せぬ場合はこちらとて覚悟をせねばならぬがな…」

祐藤は、幸盛による洗脳がどれほど根深いかという事を家春の話によってある程度把握していた。
それ故に、今回の玄名による説法が果たして通用するのであろうかという不安が頭をよぎっていた。

やがて祐藤の表情は神妙な顔つきへと変わり、一人呟き出した。

祐藤
「天下を治めるには多少の犠牲を払わねばならぬ時がいずれ来るであろう。それが明日になるやも知れぬ。全く、心が重いわい…」

どうやら祐藤は複雑な心境にあるようだ。
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