架空戦国伝

佐村孫千(サムラ マゴセン)

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第6章 風雲志太家編

49.柳会議

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宗重による人質救出作戦は成功し、人質たちは全員無事に海原の地への帰還を果たした。
そして一夜が明けた柳城下では、大名である柳幸盛が死亡した事を受け、家臣一同が集まっていた。

一同が集まった中、家臣の一人が口を開いた。

家臣
「皆も知っておるとは思うが、昨夜に幸盛様が何者かの手によって討たれた。ついては、幸盛様の跡を継がれる者をこの会議で決めたいと思う。」

こうして会議が始まり、家臣たち皆が思い思いの意見を述べた。
ある家臣が、一人の家臣の実績を評価したうえで後継者に相応しいのでないか、といった他の者を推薦するような内容が多かった。

しかし、他の家臣たちからの推薦を受けた者は皆としてこれを拒否していた。
一家臣から国を治める大名の身となるのであれば大出世とも言え、万々歳ではないだろうか。

だが、昨夜の宗重による工作により人質は一人残らず流出。
これにより、柳家は秋庭家に脅しをかけるといった外交カードが無くなってしまった。
それ故、今の柳家の状況は決して良いものとは言い難いのである。

そのような危機に直面した大名家の当主に誰がなりたいであろうか。
家臣たちは皆、重過ぎる責任を取りたくは無いと考えていた。
やがて周りは沈黙状態となり、非常に気まずい空気が辺りを漂い始めていた。

すると一人の家臣立ち上がり、その沈黙を破った。
その家臣の名は、平岡実幸であった。

・平岡 実幸(ひらおか さねゆき)
柳家家臣。
元は商人の身であったが、生活苦を解消する為に武士として柳家へ士官。
何事にも貪欲であり、特に他の家臣たちが嫌がるような内容の任務であっても率先して取り組んでいたという。
後にその功績を幸盛に認められた証として「幸」の字を賜り、本名であった実元(さねもと)から実幸へと改名した。

実幸
「ふむ、このままでは埒が明きませぬな。そこでですが、拙者に考えがございます。」

家臣
「何じゃ、実幸殿。その考えとは一体どのような物か申してみよ。」

そう言うと家臣たちは皆が一斉に実幸の顔を見つめていた。

実幸
「はっ、思うに柳家の御家は、柳家の縁戚の者が継ぐべきかと存じます。そこで、柊晴清殿に今一度柳家に戻って頂いて柳家を継がれてはいかがかと。」

ーー柊晴清
先の失態によって幸盛から参謀役の解任と無期限の蟄居を言い渡された家臣である。
失脚前の晴清は柳家において数多くの功績を残していた。
そして生涯を通して実子がいなかった幸盛は、晴清に自身の弟の娘、すなわち姪である彩姫と婚姻を結ばさせていた。
この事からも、いかに晴清が柳家において重要な人物であったかという事がうかがえる。

・柳 幸秀(やなぎ ゆきひで)
幸盛の弟にあたる。
幸秀もまた兄である幸盛と並ぶほどの極悪非道な人物であり、共に恐怖で領民たちを支配していた。
知略に長けており、柳家を影で支える存在であったという。
しかし、家臣である柊晴清が参謀の役職を賜った数年後、流行りの病によって急死する。
一説によると、悪政に耐えかねた領民らが何らかの方法によって幸秀を死に至る病にかからせて暗殺したとも言われている。

・柳 彩(やなぎ あや)
幸秀の娘として生まれる。
父である幸秀や伯父の幸盛とは正反対の性格であり、領民たちからは非常に慕われていたと言われている。
後に幸盛の命によって柊晴清と婚姻を結び、嫡子を授かる。
なお、晴清の失脚直前に離縁していた為に連座を間逃れたという。
しかし実際には離縁はされておらず、婚姻関係は存続していたということが後に分かっている。
これは、離縁したという事で近親者への累が及ぶ事を回避する為に幸盛が仕組んだとされている。
柊家と柳家との縁戚関係を完全に消滅させる事をしなかったという点から見ると幸盛は、いずれは晴清に帰参を許して家督を譲ろうと考えていたのではないかと思われる。

実幸
「さらに晴清殿にはご嫡男の大三郎殿がおります故、今後の柳家の為にもここは晴清殿が一旦は家督を継いで頂くのが良いかと。」

・柊 大三郎(ひいらぎ おおざぶろう)
晴清の嫡子として生まれる。
母は柳幸盛の姪である彩姫。
父である晴清が失脚すると、自身も連座として蟄居を余儀なくされる。
元服を控え、柳家の家臣として仕える間近の事であったという。

家臣
「なるほど、あくまでも柳家としての血筋を守れと申されておるのですな。言われてみれば至極真っ当な事でございますな 。」

家臣たちは皆が納得したような表情であった。
同時に、自身が後継者として選ばれて厄介事に巻き込まれずに済んだという事に安堵している様子でもあった。

実幸
「皆の者、異論はありますかな。」

実幸に対して異を唱える家臣は最早一人もいなかった。

実幸
「では、この件に関しては拙者が晴清殿に話をして参ります。今後は晴清殿の元、我々が一丸となり柳家を支える事となりましょうぞ。」

こうして柳家で開かれていた会議は実幸の意見を取り入れる方向で確定したのであった。
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