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第6章 風雲志太家編

36.立天野の密談

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先刻に宗重は家春と立天野城天守にて対面。
宗重による柳家の攻略に向けての用件の説明が先程終わったようである。

家春
「なるほど、それで拙者の元を直接に訪れたわけじゃな。」

家春は納得した表情で宗重に言った。

宗重
「此度の用件は柳家への工作活動を行っていくうえで重要なものとなります故、家春殿にもご協力願いたく存じます。」

今回の工作においては家春の協力無くしては達成できない。
宗重は、そう言わんばかりの表情で家春を見つめていた。

家春
「宗重殿よ、分かり申した。出来る限りの協力を致そうではないか。」

家春は快く承諾をした。

宗重
「はっ、良き返事を頂きまして感謝致します。」

宗重は畏まった態度で感謝の言葉を述べていた。
そして、少し間を置いて家春が首を傾げながら宗重に問い掛けた。

家春
「しかしお主に聞くのも変な話じゃが、祐藤殿は何故ここまで当家に対して手を差し伸べてくださるのじゃ。拙者は一度は志太家を攻めた身。敵として扱われても当然だと思うのじゃがな…」

家春の疑問は実に純粋なものであった。
秋庭家は志太家の領地に侵攻した敵国である。
例えそれが柳家の脅迫によって命じられた事であったとしても、侵攻を行ったという事実に変わりは無い。

しかしそんな秋庭家を責め立てる事もせず、共に柳家と戦おうなどという祐藤の言葉が家春には理解出来なかったようである。

すると宗重は真剣な顔つきへと変わり、自身の祐藤への想いを語り出した。

宗重
「どうやら祐藤様は困っておられる御方を捨て置けぬ性格にあられるように拙者は感じますな。かく言う拙者も祐藤様に救われた過去がございましてな。」

宗重は細野城での戦いがあった際に、当時仕えていた徳葉城主の平塚元阿弥と共に村上家から志太家に寝返った。
やがて細野城が志太家によって制圧されると、志太軍による戦後処理が行われた。

寝返りをした人間と新しい主君との信頼関係は無きに等しい為、足軽頭などの役職から雇用される事がこの戦国の世では常識である。
しかし祐藤は宗重らを無下には扱わず、何と寝返る前の役職でそのまま登用した。

これにより徳葉城は、平塚元阿弥が引き続き城主として採用された。
元阿弥の配下であった宗重も異動される事無く徳葉城に留まる事を許された。
この出来事によって元阿弥と宗重は、祐藤に対して厚い忠誠を誓うようになったという。

家春
「なるほどのう。言われてみれば祐藤殿は拙者を含め、当家の民たちの事をたいそう案じておられた。真に立派な御人にござるな。」

家春は祐藤に対して非常に感心した様子であった。

宗重
「国を治めたる者は常に民の為に尽くさねばならぬ。祐藤様の御言葉にございます。」

家春
「うむ、良き言葉じゃ。拙者もその言葉、胸に刻んでおこう。」

二人の目は輝いていた。
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