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第6章 風雲志太家編
21.立天野の夜襲戦(5)
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先程の晴正による鼓舞で秋庭軍の士気は活気を取り戻していた。
覚悟を決めて敵に挑む秋庭軍の姿に郷田軍は、圧倒されながらもなおも奮闘を繰り広げていた 。
秀胤
「皆の者、怯むでない。拙者たちの軍は今だ優勢にあるぞ。我らの意地を貫き通すが良い。」
秀胤も負けじと兵たちに向けて鼓舞の言葉を投げていた。
しかし、数倍以上もある兵力差の溝を埋めるという事は非常に困難である事実は揺るがなかった。
郷田軍は次第に大軍を率いる秋庭軍に飲まれるように次々と討たれていった。
秋庭軍の猛攻は留まる事を知らず、郷田軍を次々と撃破。
やがて追い詰められた秀胤は本丸へと退却を始めていた。
秀胤
「うぬぬ、我が軍も兵数があれば秋庭軍など敵ではござらんのじゃがな。こうなっては仕方あるまい。籠城いたすぞ。退け、退くのじゃ。」
秀胤は悔しげな顔をし、渋々と兵たちを本丸へと退いた。
本丸では直胤らの軍勢が待機している状態であった。
さらに天守では直胤がその場に座り込んでおり、落ち着いているかのような様子であった。
秀胤による猛攻とその衰退といった両極端な出来事を短い時間で目の当たりにした直胤は、秋庭軍が内心恐ろしくてたまらなかった
だが、大名である直胤自身が弱気な姿勢を見せれば兵たちはたちまち大混乱に陥るであろう。
直胤は、ただただ平然を装うしか無かったのである。
やがて秀胤は軍勢を引き連れて本丸へと逃げ戻って来た。
直胤はすくと立ち上がり、秀胤に向かって言った。
直胤
「秀胤よ、先刻の戦いぶりは真に天晴であった。今の戦況は苦しけれどもお前ならこの修羅を乗り切れるであろう。信じておるぞ。」
他力本願とも言える言葉ではあったが、今の直胤にとってこれが精一杯の激励の言葉である。
秀胤
「ははっ、仰せの通りに。我ら郷田家の底力、奴らに見せつけてやりましょうぞ。」
秀胤は興奮した様子であった。
一方その頃、本丸を前にした家春は兵たちに向けて言った。
家春
「いよいよ大詰めじゃが、直胤殿と秀胤殿は必ず生きて捕らえよ。決して討ち取ってはならぬぞ。よいな。」
家春は、かつての盟友であった郷田家を攻める事に対して後ろめたさを感じていた。
その罪悪感から逃れる為に、直胤と秀胤を手にかける事をしたくはなかったのである。
晴正
「承知致しました。郷田殿に対するせめてもの償いにございますか。」
晴正を含め、兵たちは皆が家春の言葉に理解を示していた。
郷田家からしてみれば全くもって身勝手な考えではあるが、家春なりの礼儀がそこにはあったようである。
家春
「うむ、此度の戦は我らにとっては不本意なものじゃ。かような事で郷田殿を滅ぼさせるなどあってはならぬ。偽善と言われるかも知れぬが儂はそう思っておる。」
家春は力強い口調でそう言った。
家春
「さて、そろそろ参ろうぞ。夜明けまでにこの立天野城を一気に攻め落とすのじゃ。」
家春の叫び声が立天野城に大きく響いていた。
覚悟を決めて敵に挑む秋庭軍の姿に郷田軍は、圧倒されながらもなおも奮闘を繰り広げていた 。
秀胤
「皆の者、怯むでない。拙者たちの軍は今だ優勢にあるぞ。我らの意地を貫き通すが良い。」
秀胤も負けじと兵たちに向けて鼓舞の言葉を投げていた。
しかし、数倍以上もある兵力差の溝を埋めるという事は非常に困難である事実は揺るがなかった。
郷田軍は次第に大軍を率いる秋庭軍に飲まれるように次々と討たれていった。
秋庭軍の猛攻は留まる事を知らず、郷田軍を次々と撃破。
やがて追い詰められた秀胤は本丸へと退却を始めていた。
秀胤
「うぬぬ、我が軍も兵数があれば秋庭軍など敵ではござらんのじゃがな。こうなっては仕方あるまい。籠城いたすぞ。退け、退くのじゃ。」
秀胤は悔しげな顔をし、渋々と兵たちを本丸へと退いた。
本丸では直胤らの軍勢が待機している状態であった。
さらに天守では直胤がその場に座り込んでおり、落ち着いているかのような様子であった。
秀胤による猛攻とその衰退といった両極端な出来事を短い時間で目の当たりにした直胤は、秋庭軍が内心恐ろしくてたまらなかった
だが、大名である直胤自身が弱気な姿勢を見せれば兵たちはたちまち大混乱に陥るであろう。
直胤は、ただただ平然を装うしか無かったのである。
やがて秀胤は軍勢を引き連れて本丸へと逃げ戻って来た。
直胤はすくと立ち上がり、秀胤に向かって言った。
直胤
「秀胤よ、先刻の戦いぶりは真に天晴であった。今の戦況は苦しけれどもお前ならこの修羅を乗り切れるであろう。信じておるぞ。」
他力本願とも言える言葉ではあったが、今の直胤にとってこれが精一杯の激励の言葉である。
秀胤
「ははっ、仰せの通りに。我ら郷田家の底力、奴らに見せつけてやりましょうぞ。」
秀胤は興奮した様子であった。
一方その頃、本丸を前にした家春は兵たちに向けて言った。
家春
「いよいよ大詰めじゃが、直胤殿と秀胤殿は必ず生きて捕らえよ。決して討ち取ってはならぬぞ。よいな。」
家春は、かつての盟友であった郷田家を攻める事に対して後ろめたさを感じていた。
その罪悪感から逃れる為に、直胤と秀胤を手にかける事をしたくはなかったのである。
晴正
「承知致しました。郷田殿に対するせめてもの償いにございますか。」
晴正を含め、兵たちは皆が家春の言葉に理解を示していた。
郷田家からしてみれば全くもって身勝手な考えではあるが、家春なりの礼儀がそこにはあったようである。
家春
「うむ、此度の戦は我らにとっては不本意なものじゃ。かような事で郷田殿を滅ぼさせるなどあってはならぬ。偽善と言われるかも知れぬが儂はそう思っておる。」
家春は力強い口調でそう言った。
家春
「さて、そろそろ参ろうぞ。夜明けまでにこの立天野城を一気に攻め落とすのじゃ。」
家春の叫び声が立天野城に大きく響いていた。
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