166 / 549
第6章 風雲志太家編
18.立天野の夜襲戦(2)
しおりを挟む
秋庭軍の夜襲に気付いた郷田軍はすぐさま城内に兵を配備。
両軍共に戦闘態勢に入った。
しかし、直胤の率いる本隊は二の足を踏んでいた。
かつての同盟相手に裏切られた事による動揺が残っていたからである。
直胤
「何故なのじゃ家春殿。何故、何故、何故…」
直胤は依然として茫然自失の状態である。
不本意であった同盟破棄があってからも両家は、柳家の目を盗んで水面下で交流を図り続けようとしていたと言われている。
両家は互いに思いやり、助け合うという精神を常に忘れないでいた。
こうした表立っての交流が行えないなどの制約があった中でも、両家の結び付きは相当な強さであったという。
そんな関係を築いていた相手に突如として裏切られたのである。
直胤は、いわゆる「吊り橋効果」にも似たような作用が両家の間で発生していた事に秋庭家は気付いてしまった故に起こした行動なのではないか、などと考えていた。
そうであったとしても、一方的に裏切られた側である者としての悲しみは、到底計り知れぬ物では無い。
直胤は、そういった境地に立たされていたのである。
やがて、呆然と立ち尽くしたままの直胤を見かねた秀胤が口を開いた。
秀胤
「父上、いい加減になさいませ。この戦国の世、たとえ同盟を結んでいた相手とて、たちまち敵とならば我らは立ち向かう覚悟を持たねばなりませぬぞ。」
秀胤は険しい表情で直胤にそう言った。
一体、いつまで悩んでいるというのだ。
当主たる者、ここは現実を見て冷静になるべきであろう。
裏切ったり裏切られたりの戦国の世で私情を挟むなど愚の骨頂である。
秀胤は、そう言いたげな表情であった。
やがてその言葉を聞いた直胤は、ふと我に返ったのか次第に落ち着きを取り戻しつつあった。
直胤
「覚悟、と申すか。確かにそうかも知れぬな…」
直胤は、何かを悟ったかのような表情をしていた。
自身の子に説教を食らったという恥ずかしさもあったが、秀胤の言い分も一理あった為、認めざるを得なかった。
だが、私情を挟む事は悪であるという考えが果たして良いのかどうかは誰もが分からぬ永遠の課題である事は事実だ。
しかし国を治めたる者は、こうした考えも持たねば栄華も長くは続かぬ事もまた事実である。
直胤はこうした葛藤の中で秀胤の言葉に背中を押されたようであった。
そして直胤は立ち上がり、兵たちへ向けて口を開いた。
直胤
「もう大丈夫じゃ。皆の者よ、迷惑をかけてすまぬ。郷田家の力を今こそ秋庭軍見せつけてやるのじゃ。」
郷田軍の兵たちは一斉に拳を掲げて大声をあげていた。
両軍共に戦闘態勢に入った。
しかし、直胤の率いる本隊は二の足を踏んでいた。
かつての同盟相手に裏切られた事による動揺が残っていたからである。
直胤
「何故なのじゃ家春殿。何故、何故、何故…」
直胤は依然として茫然自失の状態である。
不本意であった同盟破棄があってからも両家は、柳家の目を盗んで水面下で交流を図り続けようとしていたと言われている。
両家は互いに思いやり、助け合うという精神を常に忘れないでいた。
こうした表立っての交流が行えないなどの制約があった中でも、両家の結び付きは相当な強さであったという。
そんな関係を築いていた相手に突如として裏切られたのである。
直胤は、いわゆる「吊り橋効果」にも似たような作用が両家の間で発生していた事に秋庭家は気付いてしまった故に起こした行動なのではないか、などと考えていた。
そうであったとしても、一方的に裏切られた側である者としての悲しみは、到底計り知れぬ物では無い。
直胤は、そういった境地に立たされていたのである。
やがて、呆然と立ち尽くしたままの直胤を見かねた秀胤が口を開いた。
秀胤
「父上、いい加減になさいませ。この戦国の世、たとえ同盟を結んでいた相手とて、たちまち敵とならば我らは立ち向かう覚悟を持たねばなりませぬぞ。」
秀胤は険しい表情で直胤にそう言った。
一体、いつまで悩んでいるというのだ。
当主たる者、ここは現実を見て冷静になるべきであろう。
裏切ったり裏切られたりの戦国の世で私情を挟むなど愚の骨頂である。
秀胤は、そう言いたげな表情であった。
やがてその言葉を聞いた直胤は、ふと我に返ったのか次第に落ち着きを取り戻しつつあった。
直胤
「覚悟、と申すか。確かにそうかも知れぬな…」
直胤は、何かを悟ったかのような表情をしていた。
自身の子に説教を食らったという恥ずかしさもあったが、秀胤の言い分も一理あった為、認めざるを得なかった。
だが、私情を挟む事は悪であるという考えが果たして良いのかどうかは誰もが分からぬ永遠の課題である事は事実だ。
しかし国を治めたる者は、こうした考えも持たねば栄華も長くは続かぬ事もまた事実である。
直胤はこうした葛藤の中で秀胤の言葉に背中を押されたようであった。
そして直胤は立ち上がり、兵たちへ向けて口を開いた。
直胤
「もう大丈夫じゃ。皆の者よ、迷惑をかけてすまぬ。郷田家の力を今こそ秋庭軍見せつけてやるのじゃ。」
郷田軍の兵たちは一斉に拳を掲げて大声をあげていた。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?
三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい! ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。
イラスト/ノーコピーライトガール
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる