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第6章 風雲志太家編

14.苦渋の決断

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柳家から立天野城の制圧を命じられた家春は、早々に家臣たちを集めて緊急で評定が開かれた。

家春
「今日こうして集まってもらったのは他でもない、隣国の立天野城を攻略する為である。」

家春の発せられた言葉に家臣の誰もが戸惑いの表情を見せた。
そして、急な予想外の家春による秋庭家としての今後の方針に沈黙状態となった。

そんな中で、重い沈黙状態を破った家臣がいた。
その家臣の名は、今村晴正(いまむら はるまさ)と言った。

・今村晴正(いまむら はるまさ)
秋庭家 家老。
庄屋の出身であった晴正の才能を家春に見いだされて家臣に取り立てられる。
その後は内政面においての才能を発揮し、家老の地位に就く。
各国との貿易事業に重きを置いた政策を進めて海原城に潤いを与えたとされている。

晴正
「家春様、悪い御冗談ではございませぬか。立天野城はかつてのご盟友の郷田殿の居城。さらに今は志太家の支配下にありますぞ。かような事を致せば諸大名からの格好の的にされかねませぬぞ。」

余りにも無謀過ぎるとも言える家春の言動に晴正は驚きの色を隠せないでいた。
中でも、過去に同盟を結ぶなど親交の深かった郷田家を攻める事に家臣たちも抵抗を感じているようであった。

家春
「うむ、拙者もそれは重々分かっておる。じゃが、秋庭家が生き残る為には今はこうするしか手はあらぬ。皆の者よ、どうか分かってくれ。」

そう言うと家春は涙をうっすらと浮かべながら家臣たちに頭を下げていた。
その様子を見た晴正や家臣たちは更に驚きの表情を見せた。
大名である人間が家臣たちに頭を下げてまで懇願するという異様な光景である。

やがて家臣たちは、家春のその必死さの奥にある何かに気付き始めていた。
恐らく今回の件は、主家である柳家による命令によって出された物ではないか。
もし命令に背けば、秋庭家はたちまち柳家の手によって始末され、滅亡の道を辿る事となるであろう。
その最悪の事態を少しでも回避する為に、いかなる理不尽であろうとも主家の命令に今はただただ従うしか道は無いのだ。

家臣たちの読みは実に的確な物であった。
以心伝心とは良く言ったもので、秋庭家において家臣たちの絆は他の大名家と比べて類を見ない水準であったと言えよう。

晴正
「家春様、承知致しました。我ら秋庭家の手で何としてでも立天野城を攻略致しましょうぞ。」

家臣一同の胸中を代弁するかのように晴正がそう口を開いた。

家春
「そうか、分かってくれたようじゃな。すまぬが皆の者にはこれより苦労をかける事になりそうじゃ。しかし、拙者は皆の者を必ずや守り通す事をここに約束しようぞ。」

家春は再び目に涙を浮かべながら家臣たちにそう言った。
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