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第6章 風雲志太家編
10.郷田家との交渉
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数日後、貞勝は郷田家との交渉の為に立天野城を訪れた。
城に着くと、一人の若い男が貞勝の元に近付いて言った。
男
「そなたが志太家の方にございますな。拙者、郷田家当主 郷田直胤が嫡男 郷田秀胤にございます。」
・郷田秀胤(ごうだ ひでたね)
直胤の嫡男として生まれる。
元服後は直胤に仕え、様々な功績をあげて若くして家老の座に就く。
郷田家の次期当主であり、父である直胤以上の器量を持った優秀な武将であったと言われている。
貞勝
「わざわざお出迎え頂き恐悦至極にございます。拙者は志太家 家臣 吉江貞勝にございます。」
二人は挨拶を交わし、貞勝は秀胤の案内によって城内へ入って行った。
立天野城はかつては豪華絢爛な城造りであり、外観や内装共に細部まで非常に造り込まれた美しい城であったと言われている。
しかし、それも直胤の時代になると度重なる飢饉などに悩まされた結果、現在では見る影もない程に朽ち果てていた。
その様子を目の当たりにした貞勝は、ただならぬ哀愁を感じていた。
やがて、薄汚れた大広間に通された貞勝の前から少し離れた所に一人の男が座っていた。
その人物こそが、郷田家当主の郷田直胤である。
直胤
「儂が郷田家当主 郷田直胤にござる。」
貞勝は跪き、直胤に向かって言った。
貞勝
「ははっ。拙者、志太家 家臣 吉江貞勝にございます。今日は郷田殿に良き話をお持ち致しました故、志太家より参りました。」
直胤
「ほう、どのような話でござるか。お話し下され。」
興味深い表情で直胤が言った。
貞勝は、先日に祐藤が提案した内容の条件を直胤に差し出した。
郷田家の国力の復興支援を行う見返りとして、志太家の傘下に加わるといった内容の条件である。
貞勝
「いかがですかな。郷田家としても悪い話ではございませぬ。良き返事を頂きとうございます。」
貞勝は真剣な眼差しで直胤を見つめていた。
そして、直胤は少し考えた後に口を開いた。
直胤
「お主らの真の狙いは立天野山でござろう。そうでは無いかな?」
直胤は意地悪な質問を貞勝に投げかけた。
良質な鉄鉱石の採取が豊富な立天野山を抑える事が志太家としての真の狙いであろうと直胤は考えていたようである。
志太家にとってもこの事はまさに図星であり、貞勝は言葉に詰まっていた。
そうして、貞勝が困った表情を見せてしばらく間を置いてから直胤が再び口を開いた。
直胤
「じゃがな、今の我らが立天野山を抑えておったとて何も出来ぬ。ここは、志太殿に有効に使って頂くのが良かろう。そうしてやがては志太殿が戦の無き太平の世を築いてくれるであろうと儂は信じておる。太平の世が訪れる事は儂も望んでおるでな。」
どうやら直胤は、現在の郷田家の状況を良く理解していたようだ。
このまま志太家の提案を採用せずに独自の道を歩んだところで、郷田家の滅亡は火を見るより明らかであろう。
また、鉄鉱石などの資源が豊富な立天野山を抑えていたとしても、それらを運んだり加工するには莫大な費用がかかる。
しかし、度重なる飢饉などで混乱状態の立天野城下はその費用すら捻出できずにいるのが現状だ。
まさに宝の持ち腐れと言っても過言では無い。
それならば志太家の傘下に加わる事を甘んじて受け入れ、志太家の庇護の元で郷田家を存続させるべきであろう。
直胤は家名存続の為に、あえて苦渋の決断を下したのであった。
貞勝
「良き返事を頂けたようで嬉しゅうございます。直胤殿、今後とも宜しくお願い致すぞ。」
貞勝は先程の困惑した表情から一転し、笑顔を見せていた。
城に着くと、一人の若い男が貞勝の元に近付いて言った。
男
「そなたが志太家の方にございますな。拙者、郷田家当主 郷田直胤が嫡男 郷田秀胤にございます。」
・郷田秀胤(ごうだ ひでたね)
直胤の嫡男として生まれる。
元服後は直胤に仕え、様々な功績をあげて若くして家老の座に就く。
郷田家の次期当主であり、父である直胤以上の器量を持った優秀な武将であったと言われている。
貞勝
「わざわざお出迎え頂き恐悦至極にございます。拙者は志太家 家臣 吉江貞勝にございます。」
二人は挨拶を交わし、貞勝は秀胤の案内によって城内へ入って行った。
立天野城はかつては豪華絢爛な城造りであり、外観や内装共に細部まで非常に造り込まれた美しい城であったと言われている。
しかし、それも直胤の時代になると度重なる飢饉などに悩まされた結果、現在では見る影もない程に朽ち果てていた。
その様子を目の当たりにした貞勝は、ただならぬ哀愁を感じていた。
やがて、薄汚れた大広間に通された貞勝の前から少し離れた所に一人の男が座っていた。
その人物こそが、郷田家当主の郷田直胤である。
直胤
「儂が郷田家当主 郷田直胤にござる。」
貞勝は跪き、直胤に向かって言った。
貞勝
「ははっ。拙者、志太家 家臣 吉江貞勝にございます。今日は郷田殿に良き話をお持ち致しました故、志太家より参りました。」
直胤
「ほう、どのような話でござるか。お話し下され。」
興味深い表情で直胤が言った。
貞勝は、先日に祐藤が提案した内容の条件を直胤に差し出した。
郷田家の国力の復興支援を行う見返りとして、志太家の傘下に加わるといった内容の条件である。
貞勝
「いかがですかな。郷田家としても悪い話ではございませぬ。良き返事を頂きとうございます。」
貞勝は真剣な眼差しで直胤を見つめていた。
そして、直胤は少し考えた後に口を開いた。
直胤
「お主らの真の狙いは立天野山でござろう。そうでは無いかな?」
直胤は意地悪な質問を貞勝に投げかけた。
良質な鉄鉱石の採取が豊富な立天野山を抑える事が志太家としての真の狙いであろうと直胤は考えていたようである。
志太家にとってもこの事はまさに図星であり、貞勝は言葉に詰まっていた。
そうして、貞勝が困った表情を見せてしばらく間を置いてから直胤が再び口を開いた。
直胤
「じゃがな、今の我らが立天野山を抑えておったとて何も出来ぬ。ここは、志太殿に有効に使って頂くのが良かろう。そうしてやがては志太殿が戦の無き太平の世を築いてくれるであろうと儂は信じておる。太平の世が訪れる事は儂も望んでおるでな。」
どうやら直胤は、現在の郷田家の状況を良く理解していたようだ。
このまま志太家の提案を採用せずに独自の道を歩んだところで、郷田家の滅亡は火を見るより明らかであろう。
また、鉄鉱石などの資源が豊富な立天野山を抑えていたとしても、それらを運んだり加工するには莫大な費用がかかる。
しかし、度重なる飢饉などで混乱状態の立天野城下はその費用すら捻出できずにいるのが現状だ。
まさに宝の持ち腐れと言っても過言では無い。
それならば志太家の傘下に加わる事を甘んじて受け入れ、志太家の庇護の元で郷田家を存続させるべきであろう。
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貞勝
「良き返事を頂けたようで嬉しゅうございます。直胤殿、今後とも宜しくお願い致すぞ。」
貞勝は先程の困惑した表情から一転し、笑顔を見せていた。
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