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第5章 祐藤の野望編

75.村上城攻め(15)

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崇冬らの軍勢は野犬の案内により、無事に幸龍丸の捕らえられていた座敷牢に到着した。
幸龍丸は、崇冬が救出の為にここまでやって来たという事に不思議な表情をしていた。

幸龍丸
「志太家、と申されたか。敵国の志太家が何故拙者の救出にあたられておるのじゃ。いずれにせよ拙者を始末しにここまで来られたのでは無いのか。」

相変わらず年齢に見合わない大人びた口調で幸龍丸がそう言った。
志太家の人間が敵方の自分を救出するという行動がどうしても理解できないようであった。

崇冬
「我らの殿がそなたの父上である康虎殿をたいそう気に入られております。」

先の戦において単騎で本陣まで切り込みに行くという豪快さ。
自身の命を犠牲にしてまでも主君を思いやるという誠実さ。
敵同士であってもお互いに敬意を払って正々堂々と戦うという徹底した武士道精神。
崇冬は、康虎という男について祐藤の想いの全てを幸龍丸に伝えた。

幸龍丸
「なるほど、祐藤殿はそこまで我が父上の事を想って下さったのじゃな。まことに有難き話にございます。父上ほどの者が謀叛を起こすなど有り得ぬという事がこれで良う分かった。」

幸龍丸は、目に涙をうっすらと浮かべながらそう言った。
長継によって謀叛の疑いをかけられて粛清された康虎だが、その罪状が事実無根であった事を幸龍丸は再確認し、安堵の表情を浮かべていた。
そうしてしばらく間を置いて幸龍丸が再び口を開いた。

幸龍丸
「分かり申した。今日より拙者、幸龍丸も志太家の一員に加えさせて頂きます。」

幸龍丸は迷いの無い表情ではっきりとそう言った。

崇冬
「分かって頂けたようですな。では、今後は我らと共に天下統一を目指して歩んで参りましょうぞ。」

崇冬は嬉しそうな表情で幸龍丸にそう言って二人は固い握手を交わした。

幸龍丸
「父上、見ていて下され。この幸龍丸、父上のご遺志を立派に継いで見せます。」

幸龍丸の目は希望に溢れており、この暗い井戸の中で一際まばゆく輝いていた。
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