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第5章 祐藤の野望編

73.村上城攻め(13)

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幸龍丸の救出の為に井戸の奥深くへと進んだ崇冬らは、野犬の群れについに遭遇。
だが、崇冬の作戦によって戦うことなく野犬の群れを無力化する事に成功した。

崇冬
「奴らは自分よりも恐ろしい存在を見つけると大人しくなるものよ。」

崇冬は得意気に吾助に言った。

吾助
「流石は志太家軍師である口羽崇数殿のご嫡男でございますな。」

吾助は崇冬に対して恐れ入った表情であった。

崇冬
「さて、これで後は幸龍丸殿をお救いするだけじゃな。じゃがその前に…。」

そう言うと崇冬は小荷駄兵に近寄って兵糧を一掴みし、一匹の野犬に差し出した。

崇冬
「ほれ、腹が減っておるのじゃろう。たんと食え。うまいぞ。」

野犬はたちまち狂喜乱舞し、尻尾を勢いよく振った後に崇冬が差し出した兵糧を貪るように食べ始めた。
その様子を見ていた他の野犬たちも我先にと慌てた様子であった。

崇冬
「よしよし、わかったわかった。お前たちも皆腹一杯にしてやるから落ち着くのじゃ。」

なんと、軍勢の命の綱とも言える兵糧を崇冬は惜しげもなく野犬たちに分け与えようとしているのだ。
これには兵たちも戸惑いの表情を見せた。
自分たちの貴重な兵糧を薄汚い犬共に与えるなど崇冬は一体何を考えているのだ。
言葉には出してはいないが、兵たちの表情がそれらを代弁しているかのような様子であった。

崇冬
「お前たちよ、たとえ畜生であれ苦しんでおる者がおれば見捨てるわけには行かぬであろう。違うか?」

そう崇冬が言うと、兵たちは はっとした表情に変わった。
崇冬の分け隔てなく皆を思いやるという慈善の精神が兵たちに伝わったようである。

こうして崇冬らの軍勢は、兵糧を野犬たちに振る舞うことになった。
野犬たちは皆、我を忘れて兵糧に貪るように食べ始めた。
長い間苦しめていた空腹が満たされた瞬間であった。

吾助
「まことに崇冬殿は武士の鏡にございますな。拙者も見習いとうございます。」

吾助は尊敬の眼差しで崇冬を見つめていた。
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