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23-俺は空気が読める子です
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「セドリックさん!!」
すぐさま駆け寄って呼吸を確かめる。
大丈夫、まだ息はある。
しかし腹部からかなり出血しているようだ、このままでは危ない。
「ニロ……どうして、ここに……」
「話は後です!」
茫然と呟くエリシアを無視してショルダーバッグに手を突っ込み中から実体化させたクッキーを取り出し、セドリックの口元に差し出す。
「セドリックさん、これを食べてください!怪我治りますから!」
「う……っ」
セドリックは小さく呻き声を上げるだけで動かない。意識が朦朧としているのだろう。
この状態で固形物を飲み込むのは難しいろう。
クソッ……!クッキーじゃなくてもっと飲み込みやすいものを用意しておけば……っ!
自分の準備不足を呪いながらクッキーを飲み込みやすように小さく砕く。
「マルセル!ライネル!水出せるか?」
「俺出せる!」
「セドリックさんに飲ませる水を出してくれ」
「分かった」
マルセルが呪文を唱え、指先に直径三センチ程の水球を作り出す。
そこに砕いたクッキーの欠片を入れ、ゆっくりとセドリックに飲ませる。
水でふやかし今度は何とか飲んでくれた。
やがてセドリックの傷口が光りはじめ、収まる頃には腹部の傷が塞がり出血も止まる。
これで一安心……と、思いたいが暫くは動かさない方がいいだろう。
「ニロ、ねえニロ。セドリックは?無事なの?」
「大丈夫、だと思います。以前レイチェルさんに使ったのと同じ効果がありますから」
「……うっ……」
「セドリック!!」
さっきまで微動だにしなかったセドリックが小さく呻きながらゆっくりと起き上がる。
「俺は、生きてるのか……ニロ?なぜここに……お前が俺を?」
「セドリック!!セドリックッ……もう、もうっ!!どれだけ心配したと思っ……!!いき……生きててよかっ……!!」
起き上がったばかりのセドリックにエリシアが縋りついてボロボロと涙を零す。
「エリシア……」
セドリックがおろおろしながらエリシアの肩に腕を回して慰める。
「心配かけてすまない……」
「本当よっ……セドリックにもしもの事があれば、私っ……」
「これからは気を付ける、だから泣き止んでくれ。エリシアに泣かれると、俺はどうしていいかわからなくなる」
その様子は何処からどう見ても相思相愛だ。
良かったねエリシアさん!!
ちょっと……いや、めちゃくちゃ羨ましいけどな!!空気読んで黙りますよ!!
俺は空気が読める子です!!
「…………さすがセドリックお兄さんだな。ニロ兄さん、足元にも及ばない」
「兄さん、それは言っちゃだめだよ。ニロ兄さんにはニロ兄さんの良い所がきっと……多分、あるはずだから」
こらっ!そこの獣人兄弟、聞こえてるからなっ!!
後ろでこそこそしている二人に内心で突っ込みを入れながら改めて周りを見ると、ここはダンジョン内部と言うより洞窟に作られた牢屋の様だ。
壁に設置された松明の明かりに照らされ、太い鉄格子が通路と俺達のいる場所を分断している。
「あの、そろそろ何があったか聞いてもいいですか?」
「あぁ、説明が必要だな」
エリシアが落ち着いたのを見計らって声をかけるとセドリックがエリシアと寄り添ったまま頷く。
…………当てつけか!?独り身の俺への当てつけなのか!?
心の中で叫ぶが決して口には出さない。
「エリシアが戻って来てすぐ、俺達はギルドから受けた依頼でダンジョン調査に向かった」
聞く所によると数時間前まで調査は順調に進んでいたらしい。
しかし、二十階層まで進んだあたりで事件は起きた。
各階層にはボス部屋があり、ボスの魔物を倒すことで次の階層に進むことが出来る。
十九階のボスを難なく倒し、二十階にやって来た【何でも屋】のメンバーはダンジョン内のセーフゾーンで休息をとることにした。ちなみにセーフゾーンとは魔物が入ってこれない区域の事だ。
セーフゾーンに入ると既に五人ほど人がいた。男性ばかりの冒険者パーティーだったらしい。
しかもその中にはエリシアが無理矢理婚約させられたロクデナシ男、ベンジャミンもいた。
まだ調査途中のダンジョンに人が、それもエリシアの婚約者がいるなんておかしい。
これは何かの企みがあるのではと考えた【何でも屋】のリーダー、ジャックは仲間達を連れ十九階に戻ろうとした。
しかし、ベンジャミンの仲間に回り込まれ魔法で集中攻撃を受けてしまう。
本来であれば【何でも屋】に戦闘で敵う者などそうそういない。しかしボス討伐の疲労が回復しきれていなかった事と、相手が魔力の増幅薬を口にしていた事で抵抗虚しく全員が捕まってしまった。
そしてエリシアとセドリックの二人、ジャックとレイチェルとデリックの三人に分断されダンジョン内に作られた牢屋に連れてこられた。
そこでベンジャミンはエリシアに婚約を受け入れ、自分と婚姻するように脅迫。
エリシアがそれを拒否すると一緒に閉じ込めていたセドリックの腹部を剣で貫きこう言った。
「間男が居なくなればお前も素直になれるだろ?」と。
魔法封じの手枷を嵌められたエリシアは治癒魔法が使えず、治癒のポーションもベンジャミンに奪われてしまった。
血溜まりに倒れたセドリックと青褪めて震えるエリシアを眺め満足したのか、ニヤつきながら「そいつが死体になったらまた来る」といって出て行ったらしい。
その直後に俺達が転移してきた、と。
かなりギリギリだった。
遅ければセドリックは殺されていたし、早ければベンジャミンに見つかって子供達にも何かされていたかもしれない。
間に合ったのはライネルの危険感知魔法と転移魔法のお陰だ、これは後で目いっぱい褒めてご褒美を用意しないとだな。
すぐさま駆け寄って呼吸を確かめる。
大丈夫、まだ息はある。
しかし腹部からかなり出血しているようだ、このままでは危ない。
「ニロ……どうして、ここに……」
「話は後です!」
茫然と呟くエリシアを無視してショルダーバッグに手を突っ込み中から実体化させたクッキーを取り出し、セドリックの口元に差し出す。
「セドリックさん、これを食べてください!怪我治りますから!」
「う……っ」
セドリックは小さく呻き声を上げるだけで動かない。意識が朦朧としているのだろう。
この状態で固形物を飲み込むのは難しいろう。
クソッ……!クッキーじゃなくてもっと飲み込みやすいものを用意しておけば……っ!
自分の準備不足を呪いながらクッキーを飲み込みやすように小さく砕く。
「マルセル!ライネル!水出せるか?」
「俺出せる!」
「セドリックさんに飲ませる水を出してくれ」
「分かった」
マルセルが呪文を唱え、指先に直径三センチ程の水球を作り出す。
そこに砕いたクッキーの欠片を入れ、ゆっくりとセドリックに飲ませる。
水でふやかし今度は何とか飲んでくれた。
やがてセドリックの傷口が光りはじめ、収まる頃には腹部の傷が塞がり出血も止まる。
これで一安心……と、思いたいが暫くは動かさない方がいいだろう。
「ニロ、ねえニロ。セドリックは?無事なの?」
「大丈夫、だと思います。以前レイチェルさんに使ったのと同じ効果がありますから」
「……うっ……」
「セドリック!!」
さっきまで微動だにしなかったセドリックが小さく呻きながらゆっくりと起き上がる。
「俺は、生きてるのか……ニロ?なぜここに……お前が俺を?」
「セドリック!!セドリックッ……もう、もうっ!!どれだけ心配したと思っ……!!いき……生きててよかっ……!!」
起き上がったばかりのセドリックにエリシアが縋りついてボロボロと涙を零す。
「エリシア……」
セドリックがおろおろしながらエリシアの肩に腕を回して慰める。
「心配かけてすまない……」
「本当よっ……セドリックにもしもの事があれば、私っ……」
「これからは気を付ける、だから泣き止んでくれ。エリシアに泣かれると、俺はどうしていいかわからなくなる」
その様子は何処からどう見ても相思相愛だ。
良かったねエリシアさん!!
ちょっと……いや、めちゃくちゃ羨ましいけどな!!空気読んで黙りますよ!!
俺は空気が読める子です!!
「…………さすがセドリックお兄さんだな。ニロ兄さん、足元にも及ばない」
「兄さん、それは言っちゃだめだよ。ニロ兄さんにはニロ兄さんの良い所がきっと……多分、あるはずだから」
こらっ!そこの獣人兄弟、聞こえてるからなっ!!
後ろでこそこそしている二人に内心で突っ込みを入れながら改めて周りを見ると、ここはダンジョン内部と言うより洞窟に作られた牢屋の様だ。
壁に設置された松明の明かりに照らされ、太い鉄格子が通路と俺達のいる場所を分断している。
「あの、そろそろ何があったか聞いてもいいですか?」
「あぁ、説明が必要だな」
エリシアが落ち着いたのを見計らって声をかけるとセドリックがエリシアと寄り添ったまま頷く。
…………当てつけか!?独り身の俺への当てつけなのか!?
心の中で叫ぶが決して口には出さない。
「エリシアが戻って来てすぐ、俺達はギルドから受けた依頼でダンジョン調査に向かった」
聞く所によると数時間前まで調査は順調に進んでいたらしい。
しかし、二十階層まで進んだあたりで事件は起きた。
各階層にはボス部屋があり、ボスの魔物を倒すことで次の階層に進むことが出来る。
十九階のボスを難なく倒し、二十階にやって来た【何でも屋】のメンバーはダンジョン内のセーフゾーンで休息をとることにした。ちなみにセーフゾーンとは魔物が入ってこれない区域の事だ。
セーフゾーンに入ると既に五人ほど人がいた。男性ばかりの冒険者パーティーだったらしい。
しかもその中にはエリシアが無理矢理婚約させられたロクデナシ男、ベンジャミンもいた。
まだ調査途中のダンジョンに人が、それもエリシアの婚約者がいるなんておかしい。
これは何かの企みがあるのではと考えた【何でも屋】のリーダー、ジャックは仲間達を連れ十九階に戻ろうとした。
しかし、ベンジャミンの仲間に回り込まれ魔法で集中攻撃を受けてしまう。
本来であれば【何でも屋】に戦闘で敵う者などそうそういない。しかしボス討伐の疲労が回復しきれていなかった事と、相手が魔力の増幅薬を口にしていた事で抵抗虚しく全員が捕まってしまった。
そしてエリシアとセドリックの二人、ジャックとレイチェルとデリックの三人に分断されダンジョン内に作られた牢屋に連れてこられた。
そこでベンジャミンはエリシアに婚約を受け入れ、自分と婚姻するように脅迫。
エリシアがそれを拒否すると一緒に閉じ込めていたセドリックの腹部を剣で貫きこう言った。
「間男が居なくなればお前も素直になれるだろ?」と。
魔法封じの手枷を嵌められたエリシアは治癒魔法が使えず、治癒のポーションもベンジャミンに奪われてしまった。
血溜まりに倒れたセドリックと青褪めて震えるエリシアを眺め満足したのか、ニヤつきながら「そいつが死体になったらまた来る」といって出て行ったらしい。
その直後に俺達が転移してきた、と。
かなりギリギリだった。
遅ければセドリックは殺されていたし、早ければベンジャミンに見つかって子供達にも何かされていたかもしれない。
間に合ったのはライネルの危険感知魔法と転移魔法のお陰だ、これは後で目いっぱい褒めてご褒美を用意しないとだな。
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