上 下
13 / 27

13-ニロの価値

しおりを挟む
「ニロの世界の服って動きやすいわね。でもちょっとセンスが独特……まあ、お世話になるんだしいいけどね。でもサイズが合わないから袖が長すぎるわね」

そう呟くのは少しサイズが大きめのティーシャツとジャージに身を包んだエリシアだ。
袖から指先が可愛らしく覗く萌袖を期待していたのだが現実は厳しいもので……エリシアは長めの袖が邪魔だと捲ってしまった。

それはそれでありなんだけど俺としては萌袖が見たかったですっ……!!

残念ではあるが嫌がらず着てもらえただけでも喜ぶべきだろう。
母にあげるつもりで置いていただけと説明するまで、何とも言えない眼差しを向けられていたけど。

俺は女性物の服を大事にしまっておくような変態じゃ……!!ごめんなさい、ホントは少しだけ考えました!!彼シャツを女性に着てほしいと言う願望がありました!!

内心で自分の邪な欲望を謝罪しながら淹れなおした紅茶をエリシアに差し出す。

「どうぞ。喉が乾いたら自由に飲んでください。あっちがキッチンで……あ、あとで道具の使い方とか教えますね。覚えてもらえたら自由に紅茶とか飲めますし……それからエリシアさんが使う部屋も片づけてあるんで後で案内します」
「ありがとう。何から何まで悪いわね……やっぱり後で追加料金払うわ。王都の宿屋よりサービスが良いんだもの」
「でもそれは……」
「いいから受け取って。私の気持ちってことで」

エリシアは譲るつもりがない様なので俺は渋々頷く。
まあいつかは買い物しに、この世界の街にも行ってみたいしお金はあっても損はないだろう。

そう結論を出したところで、寛いでいたエリシアが急に立ち上がった。

「エリシアさん?どうしました?」

驚いて声をかけると彼女は「しっ」と唇に人差し指を当て音を立てない様にとジェスチャーしてくる。
良くわからないが何か起きたのだろうかと息をひそめじっとしていると、不意に外から話し声が聞こえているのに気が付いた。

「外に誰かいるわ……三、いや四人ね」

囁くような声でエリシアが呟く。

「分かるんですか?」

同じように囁く程度の声量で尋ねると彼女はこくんと頷き人差し指で空中に円を描く。するとその場所に魔法陣がぼんやりと浮かび上がり続いて四人の男女が映し出される、冒険者なのか武装している。
映像を空中に映し出すのはどうやらエリシアの魔法みたいだ。

「さっきお邪魔した時、外からこの家は見つからない様に隠蔽魔法をかけておいたの。だから見つからないとは思うけど防音魔法まではかけてなかったから彼らが離れるまではなるべく静かにしていて」

小声のエリシアの言葉にこくりと頷く。
魔法、何でもありだな。

暫く物音を立てない様に静かにしていると十分くらいで近付づいていた男女は離れて行った。

「ふう。もういいわよ。彼らが戻ってこないうちに防音魔法もかけておくわ」

そいうってエリシアは空中に円を描きさっきとは違う魔方陣を発動させた。
魔法陣は大きく広がると部屋の壁をすり抜け家をすっぽりと包み込む。これが防音の魔法らしい。

「ありがとうございます、魔法かけてもらって……でも、俺の家って見つかったらそんなにマズイですか?」

まだ見ぬ異世界の住宅とは違うのかもしれないが、珍しい建物だな、くらいで済むと思うんだが。
俺がそう告げるとエリシアは眉間に皺を寄せた。

「当然でしょ!最初にニロと出会ったのが私達だったから良かったものの、ガラの悪い奴らに見つかってたら今頃ニロはこの家を奪われたり誘拐されたりしてたわ!この家も、貴方も、それだけの価値があるのよ」
「価値……ですか?」

家の価値ならまあ分からなくもない。
だけど俺に価値?俺はただの一般市民なんだけどな……。

「そうよ。ニロの作る食事は正直貴族の屋敷で出てくる料理を上回るわ。出してくれるお菓子だってどれも絶品で珍しいし、お金になるの。それを金儲けに利用しようって人間は少なくなわ、自分が利益を得るために職人を買収したり誘拐して無理矢理働かせたりする悪人だっている。だからもっと危機感をもって生きなきゃだめよ!」
「は、はい。気を付けます」
「よろしい。今回は私が家を隠す魔法をかけてあげたから暫くは大丈夫だけどね」
「暫くって……どのくらいですか?」
「んー……この大きさなら一ヶ月ってとこかしら。もし魔法の効果が切れたらその時は私に言えばかけ直してあげるわよ、有料だけど」

しっかりお金はとるらしいが月額の防犯対策と思えば問題ない。

「わかりました。その時はお願いします」
「ん、任せて」

その他にもエリシアにこの世界の治安について話を聞いていると再び家の外で話し声が聞こえてきた。
思わず声を抑えた俺に、エリシアはくすくす笑う。

「もう静かにしなくていいのよ、防音魔法が掛かかってるんだから」
「あ、そうでした」

苦笑いを浮かべ今度はどんな人が来たのだろうと窓を覗くとそこには五、六歳の男の子が二人、手を繋ぎながら歩いてるのが見える。
粗末な服を着て頭には黒くて丸い獣耳が付いていた。

「エリシアさん、あの子たちって……?」

エリシアを窓辺に呼び見てもらう。
ここは異世界だしやはりファンタジー定番の獣人だろうか?

「あら、珍しい。あの黒くて丸い耳はパンダ獣人の特徴よ」
「パンダ獣人……」

この世界にもパンダが居るらしい。

「でもこんなところに子供が二人だけなんて……変ね」

エリシアがそう呟いた時、森の奥から如何にもガラが悪そうな武装した男が五人ほど現れた。

「いたぞ!捕まえろ!」
「逃げるな奴隷め!!」

野太い声が聞こえ、逃げ出した子供達に追いついた男がひとりを捕まえた。

「兄さん!」
「弟を離せ!」

捕まった男の子が悲鳴を上げると、もう一人が太い木の棒を手に男たちに立ち向かう。

あんな子供が大人の男五人に勝てるはずがない!

「ちょっとニロ!?」

気が付くと俺はエリシアの制止を振り切って家を飛び出していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

辺境の農村から始まる俺流魔工革命~錬金チートで荒れ地を理想郷に変えてみた~

昼から山猫
ファンタジー
ブラック企業に勤め過労死した俺、篠原タクミは異世界で農夫の息子として転生していた。そこは魔力至上主義の帝国。魔力が弱い者は下層民扱いされ、俺の暮らす辺境の農村は痩せた土地で飢えに苦しむ日々。 だがある日、前世の化学知識と異世界の錬金術を組み合わせたら、ありふれた鉱石から土壌改良剤を作れることに気づく。さらに試行錯誤で魔力ゼロでも動く「魔工器具」を独自開発。荒地は次第に緑豊かな農地へ姿を変え、俺の評判は少しずつ村中に広まっていく。 そんな折、国境付近で魔物の群れが出現し、貴族達が非情な命令を下す。弱者を切り捨てる帝国のやり方に疑問を抱いた俺は、村人達と共に、錬金術で生み出した魔工兵器を手に立ち上がることを決意する。 これは、弱き者が新たな価値を創り出し、世界に挑む物語。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...