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06-異世界と妖精族
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「それで、そちらの名前を聞いてもいいだろうか?」
「あ、そうでした。名乗り遅れてすみません、俺はニロです」
「ニロ?変わった名前だな」
「あはは、よく言われます」
何かの小説で異世界などで苗字を持つのは貴族だけ、というのを読んだことがある。
だからフルネームを名乗るのは避けた方がいいだろうと俺は考えた。
だが俺は自分の下の名前が嫌いだ。子供の頃、よく名前をいじった悪口に近い変なあだ名をつけられて嫌がらせを受けていたから。
だから苗字の方だけ名乗ることにした。
それが‘ニロ‘だ。
「で、ニロは情報が欲しいんだったな」
「はい。急にこの世界に来たんでなにも知らなくて」
「分かった。俺達で説明できることなら教えよう」
【なんでも屋】のパーティーから得た情報を纏めるとこうだ。
この世界は魔法や魔物だけでなく、エルフやドワーフなど様々な人種が存在するいかにもなファンタジーの世界である。
そして俺が家ごと転移してきたこの場所はレイブンと呼ばれる王国内にある魔物が住む森。
ただ、この辺りは近くにある湖を中心に魔物が近寄らない清らかな聖域となっており冒険者たちにとっては休息できる唯一の場所なんだとか。
他にもこの国の文化などについていろいろ話を聞いてるうちに外はあっという間に薄暗くなってしまった。
「本当に済まない、食事をご馳走になった上に一晩の宿まで」
ジャックが大きな体を小さく縮め頭を下げる。
「いえ、気にしないでください」
日が沈む前に野営の湖のほとりで野営の準備をすると言いだした彼らに、食事も寝床も提供するからもっと話を聞かせてくれとせがんだのは俺だ。このくらいは何でもない。
提供した食事は賞味期限が近付いていた冷蔵庫の残り物を温めただけだし、寝床といってもリビングのテーブルやイスを隅に寄せて予備の布団を敷いただけの簡易的な寝床だ。あとはそれぞれに毛布を渡しただけ。
女性陣には俺の寝室でベッドを使って貰って、俺はソファで寝ることも考えたが……最近シーツを洗濯してない事を思い出して予備の布団で寝てもらう事にした。
……ほら、洗ってないシーツに寝かせるとか最悪だし俺もそろそろ匂いとか気になる年頃だからね、うん。
「いつもは野宿だし、屋根のあるところで寝られるのは嬉しいよ!」
「本当よね、しかもこの寝具手触りもいいし」
「確かに質の良い寝具ですね」
レイチェルは早速布団の上で寛いでいるしエリシアもデリックも嬉しそ……デリックさん、あなたは結局どっちなんですかね?俺にはいまだに見分けがつきません!
デリックの無性別に翻弄されながら俺は思いだしたように彼らに声をかける。
「皆さん良ければシャワーも使ってください、少しは疲れが取れると思いますよ」
「「「シャワーがあるの《ですか》!?」」」
女性陣+デリックの声が重なる。
「あ、はい。狭いんで一人ずつになりますけど」
「「「案内して《ください》!!」」」
「は、はいっ!」
食いつきが凄い三人に頼まれそのまま浴室に案内する。
シャワーやシャンプー、ボディソープなどの使い方を教えて戻ると寝支度をしていたジャックとセドリックが笑っていた。
「あいつらの食いつき凄かったな」
「あの三人は綺麗好きだから当然だろう」
「よかったらジャックさんたちもシャワー使ってください。あちらの三人の後になるかもしれませんが」
「ありがとう、使わせてもらう」
「何から何まですまないな」
「いえ、お気になさらず。ところで……その、ずっと聞いていいのか悩んでいたんですが」
「ん?どうした?」
他の人に聞いていいのかわからないがどうしても気になるので俺は思い切ってジャックたちに聞いてみることにした。
「デリックさんて……男性なんですか?女性なんですか?」
「あぁ、それは――」
「私に性別は無いんですよ」
「うわっ!?」
ジャックが答えようとした時、急に俺の後ろで声がして思わず飛び上がる。
「はははっ!ニロ、驚きすぎだ!」
「まったくだ、ニロはリアクションがいいな」
爆笑しているジャックとセドリックが少し恨めしい……
デリックが後ろにいたのに気が付いていたなら教えくれれば良かったのに!
「ふふ、いい反応ですね。私は妖精族なんですよ、妖精族には元から性別がないんです」
本人に聞かず他の人から聞こうとしていたのに怒ったような素振りはない。
寧ろ丁寧に説明してくれた。
妖精族とはドワーフやエルフと言ったように人に近い姿をした長寿の一族である。
妖精、という名称がついてはいるが羽がはない。だが魔法が得意で、人間やエルフにすら使えない様な高度な魔法を難なく使うことが出来るそうだ。
そして最大の特徴が妖精族は卵から孵化という形で生まれるという事。
妖精族の国には彼らが守る『神秘の大樹』という大きな気がありその大樹に妖精族が伴侶と魔力を注ぎ込むと卵が与えられそこから子供が生まれるのだとか。
つまり木が卵を産んで、それが妖精族になるってことか……んん、よくわからないけど分かった。
ここは異世界なんだから、俺の常識で深く考えても理解できるはずがないことが。
よし、そういうものだと思おう、そうしよう。
「……なるほど、つまりデリックさんはデリックさんという事ですね!それが分かれば充分です!」
性別なんか関係なくデリックはデリックという存在なんだと俺は結論付ける。
「そう、ですね。えぇ、私は私です」
俺の言葉にデリックは少し目を待たたせた後にこりと微笑んだ。
その微笑みは性別どうこうなんて関係なくとても綺麗なものだった。
「あ、そうでした。名乗り遅れてすみません、俺はニロです」
「ニロ?変わった名前だな」
「あはは、よく言われます」
何かの小説で異世界などで苗字を持つのは貴族だけ、というのを読んだことがある。
だからフルネームを名乗るのは避けた方がいいだろうと俺は考えた。
だが俺は自分の下の名前が嫌いだ。子供の頃、よく名前をいじった悪口に近い変なあだ名をつけられて嫌がらせを受けていたから。
だから苗字の方だけ名乗ることにした。
それが‘ニロ‘だ。
「で、ニロは情報が欲しいんだったな」
「はい。急にこの世界に来たんでなにも知らなくて」
「分かった。俺達で説明できることなら教えよう」
【なんでも屋】のパーティーから得た情報を纏めるとこうだ。
この世界は魔法や魔物だけでなく、エルフやドワーフなど様々な人種が存在するいかにもなファンタジーの世界である。
そして俺が家ごと転移してきたこの場所はレイブンと呼ばれる王国内にある魔物が住む森。
ただ、この辺りは近くにある湖を中心に魔物が近寄らない清らかな聖域となっており冒険者たちにとっては休息できる唯一の場所なんだとか。
他にもこの国の文化などについていろいろ話を聞いてるうちに外はあっという間に薄暗くなってしまった。
「本当に済まない、食事をご馳走になった上に一晩の宿まで」
ジャックが大きな体を小さく縮め頭を下げる。
「いえ、気にしないでください」
日が沈む前に野営の湖のほとりで野営の準備をすると言いだした彼らに、食事も寝床も提供するからもっと話を聞かせてくれとせがんだのは俺だ。このくらいは何でもない。
提供した食事は賞味期限が近付いていた冷蔵庫の残り物を温めただけだし、寝床といってもリビングのテーブルやイスを隅に寄せて予備の布団を敷いただけの簡易的な寝床だ。あとはそれぞれに毛布を渡しただけ。
女性陣には俺の寝室でベッドを使って貰って、俺はソファで寝ることも考えたが……最近シーツを洗濯してない事を思い出して予備の布団で寝てもらう事にした。
……ほら、洗ってないシーツに寝かせるとか最悪だし俺もそろそろ匂いとか気になる年頃だからね、うん。
「いつもは野宿だし、屋根のあるところで寝られるのは嬉しいよ!」
「本当よね、しかもこの寝具手触りもいいし」
「確かに質の良い寝具ですね」
レイチェルは早速布団の上で寛いでいるしエリシアもデリックも嬉しそ……デリックさん、あなたは結局どっちなんですかね?俺にはいまだに見分けがつきません!
デリックの無性別に翻弄されながら俺は思いだしたように彼らに声をかける。
「皆さん良ければシャワーも使ってください、少しは疲れが取れると思いますよ」
「「「シャワーがあるの《ですか》!?」」」
女性陣+デリックの声が重なる。
「あ、はい。狭いんで一人ずつになりますけど」
「「「案内して《ください》!!」」」
「は、はいっ!」
食いつきが凄い三人に頼まれそのまま浴室に案内する。
シャワーやシャンプー、ボディソープなどの使い方を教えて戻ると寝支度をしていたジャックとセドリックが笑っていた。
「あいつらの食いつき凄かったな」
「あの三人は綺麗好きだから当然だろう」
「よかったらジャックさんたちもシャワー使ってください。あちらの三人の後になるかもしれませんが」
「ありがとう、使わせてもらう」
「何から何まですまないな」
「いえ、お気になさらず。ところで……その、ずっと聞いていいのか悩んでいたんですが」
「ん?どうした?」
他の人に聞いていいのかわからないがどうしても気になるので俺は思い切ってジャックたちに聞いてみることにした。
「デリックさんて……男性なんですか?女性なんですか?」
「あぁ、それは――」
「私に性別は無いんですよ」
「うわっ!?」
ジャックが答えようとした時、急に俺の後ろで声がして思わず飛び上がる。
「はははっ!ニロ、驚きすぎだ!」
「まったくだ、ニロはリアクションがいいな」
爆笑しているジャックとセドリックが少し恨めしい……
デリックが後ろにいたのに気が付いていたなら教えくれれば良かったのに!
「ふふ、いい反応ですね。私は妖精族なんですよ、妖精族には元から性別がないんです」
本人に聞かず他の人から聞こうとしていたのに怒ったような素振りはない。
寧ろ丁寧に説明してくれた。
妖精族とはドワーフやエルフと言ったように人に近い姿をした長寿の一族である。
妖精、という名称がついてはいるが羽がはない。だが魔法が得意で、人間やエルフにすら使えない様な高度な魔法を難なく使うことが出来るそうだ。
そして最大の特徴が妖精族は卵から孵化という形で生まれるという事。
妖精族の国には彼らが守る『神秘の大樹』という大きな気がありその大樹に妖精族が伴侶と魔力を注ぎ込むと卵が与えられそこから子供が生まれるのだとか。
つまり木が卵を産んで、それが妖精族になるってことか……んん、よくわからないけど分かった。
ここは異世界なんだから、俺の常識で深く考えても理解できるはずがないことが。
よし、そういうものだと思おう、そうしよう。
「……なるほど、つまりデリックさんはデリックさんという事ですね!それが分かれば充分です!」
性別なんか関係なくデリックはデリックという存在なんだと俺は結論付ける。
「そう、ですね。えぇ、私は私です」
俺の言葉にデリックは少し目を待たたせた後にこりと微笑んだ。
その微笑みは性別どうこうなんて関係なくとても綺麗なものだった。
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