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04-人助け

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それから一週間が過ぎた。

ライフラインがまだ止まりそうにないので生活には困っていない。
あれから粘土でいろいろミニチュアフードを作ってみたが、それらは全て本物になった。
ただ本物になるものは今のところ食べ物だけの様だ。
試しにミニチュアの家具を作ってみたがそれはいくら時間がたっても粘土のままだった。

他にも分かった事がある。

その一、粘土のミニチュアフードは完成してから本物になるのに数秒かかること。
出来立てのミニチュアフードを観察してたら数秒で淡く光り出し粘土から本物の食べ物へと変化していた。それはどの食べ物を作っても同じだった。

その二、材料は粘土を含めいくら使っても減らない。
樹脂粘土は乾いたら使いにくくなってしまう為、粘土は密封容器にいれて保管していたのだがそれがいくら使ってもなくならないのだ。
粘土だけでなく着色に使う絵の具なんかもかなり使っていたはずなのに全然減っていない。
これは無くなる事を心配しなくていいのでちょっと……いや、かなり嬉しい。

その三、粘土でできた食べ物には怪我を治す効果や元気になる効果がある。
二日ほど前に外を散策していた時、うっかり転んで落ちていた石で手を切ってしまった。しかし家に戻り粘土で作った金平糖を食べたところ、その怪我が治ったのだ。
これは凄すぎて素直に感動した。

以上の発見から俺はすっかり粘土の食べ物に抵抗が無くなっていた。

食べられるし、材料にも困らないし、怪我も治る!
不思議だけど良い事しかないからな……最初はどうにか元の場所に帰れないか周囲を探索してみたり、ネットや電話が繋がらない事に絶望していたけど見方を変えれば悪い事ではないのかも。
食べ物には困らないし、ライフラインは確保されてるし、仕事しなくても生きていける。
パワハラ上司に仕事を押し付けられることもなく面倒なクレーマーに怒鳴られる心配もない!
快適なスローライフってやつだな。

そんな風に開き直り家の前でのんびり体操をしていると、突然湖の方が騒がしくなった。
耳を澄ませてみると人の声がする。

(人だ……!)

この場所に来て初めての人との遭遇だ。
なるべく足音を立てない様に湖に向かい、木の陰からそっと様子を伺ってみるとそこには鎧や防具のようなものを身に着け武装した五人の男女がいた。

「レイチェル、しっかりしろ!水だ、飲めるか?」
「デリック、治癒魔法を……!」
「申し訳ありません……魔力不足でもう……」
「ポーションももうないっ……くそ、こんな時に限って!」

よく見てみると大きな剣を背負った少女が倒れていて、彼女を囲むように眼鏡でシスターのような服を来た女性が一人と鎧を着た男が二人、そして性別は分からないがとにかく美形の人物が一人いる。
この距離からでもわかるほど倒れている少女は衣服を真っ赤に染めている。おそらく大怪我をしているのだろう。
それを見た瞬間、考えるより先に体が動いていた。
家に戻ってタオルを掴み、作り置きしていた粘土金平糖をポリ袋に入れて急いで家を出る。

粘土の食べ物で怪我が治ったからあの少女ももしかしたら治るかもしれない。

「あのっ!これ、タオルと怪我に効く薬です!」

急いで彼らの元に行き、ずいっとタオルと金平糖を差し出す。
すると鎧の男が一人、仲間を庇うように俺の前に立ちはだかった。

「お前何者だ!」
「この近くに住んでるものです、皆さんの話し声が聞こえて……怪我人がいるみたいだったので家から薬を持ってきました!」
「そ、そうか……すまない、恩に着る」

俺が丸腰というのもあり警戒する必要はないと思ったのだろう、鎧の男は俺を連れて倒れている少女の傍に屈む。

「あなた、お医者様なの?」

俺に気が付いた眼鏡の女性に尋ねられ首を横に振る。

「ごめんなさい、医者ではないんです。でも応急処置くらいならできます」
「お願いするわ!」

近付いて分かったが怪我人の少女は肩に怪我をしているようだ。
肩の部分の衣服が切り裂かれ、そこから刃物で切り裂いたかのような切り傷が見えており出血していた。
止血するためにタオルを押し当てながらポリ袋から粘土金平糖を取り出し、痛みに苦しむ少女の口に押し込んだ。

「これは薬です、噛んで飲み込んでください!」
「んんっ!」

怪我の痛みに真っ青になりながら少女は口を開け金平糖を噛み砕いて飲み込んだ。
すると少女の肩が一瞬眩く光を放つ。

「なっ!?」
「眩しいっ!」
「レイチェル!?」
「うわっ!」

驚いて声を上げる少女の仲間たちを尻目に俺は安堵していた。
これは俺の怪我を治したのと同じ光だ。
光が消えるのを待って傷口からタオルを離すと、血で汚れてはいるもののそこに怪我は残っていなかった。

「どういうことだ……?」
「あんなに酷いけがだったのに治った……」

怪我のあった場所を覗き込んだ男性二人が目を見開いていると、倒れていた少女がむくりと何事もなかったかのように起き上がった。

「……あれ?あれあれ!?嘘みたい!あんなに、死ぬほど痛かったのにもう全然痛くないよ!」

怪我のあった場所をぺたぺたと触ったり肩をぐるぐる回しているのを見る限り、もう大丈夫そうだ。

助けられて本当に良かった……!

俺は心から安堵の息を吐いた。
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