上 下
4 / 25

04

しおりを挟む
ケビンが連れてきたその男性は20代後半から30代前半くらい。
身長は高めで短い黒髪と鋭い赤い瞳をもったとんでもない美形だった。
あまりに美しすぎて怖い。
私は思わずクローケンの影に身を潜める。

「……ルヴィアナの中身が別人になったとはどういうことだ」

低く冷たい声にまた胃がキュッと痛くなる。
この人が旦那様と呼ばれる人物だとして、ルヴィアナというのはこの体の名前だろうか。
そしてこの美幼女とよく似てる顔立ち。つまりこの旦那様は美幼女の身内だ。
こんなに愛らしい姿の身内だから、さぞ大切にしていたのだろう。
クローケンも言っていた。この体の女の子は主人、つまり旦那様にとって大事な人だと。
つまり大事な人の体を、わざとではないにしろ乗っ取った私を許すはずがない。
殺されると思った。
シーツを掴んだ手が小さく震える。
それを感じ取ったのか、クローケンが私を庇うように男性と向き合った。

「旦那、落ち着け。お嬢の中にいるのは何も知らない子供だ」
「落ち着いていられるか。本物のルヴィアナはどうした?どこへ行ったというんだ」
「それは分からない。少なくともこの国……いや、この世界からお嬢の魂の気配は一切感じられない。おそらく魂はもう……」
「ふざけるな!これから、これからだったんだ!私はこれから、あの子のために……っ!」

クローケンが宥めようとするが男性は段々声を荒らげていく。
そして近付いてきたかと思うと私をギロリと見つめ、いきなり首を掴まれた。

「っ……う」
「旦那!やめろ!」
「うるさいっ!」

驚いて息ができずに藻掻く私をクローケンが助けようとするが男性は片手で思い切り突き飛ばす。
クローケンの体は壁まで吹き飛ぶとドサリと床に落ちた。

「クローケン!」

ケビンが慌ててクローケンに駆け寄り怪我を確認すると「大丈夫だ」とか擦れた声が聞こえた。

「お前を、もう一度殺せばあの子が戻ってくるのか?もしそうなら……殺してやる偽物め」

ケビンとクローケンの事など眼中にないように男性は私の首を両手で締め上げる。
しかしギリギリ呼吸が出来る力加減だ。そこで初めて男性の手が震えているのに気がついた。殺したいのに殺すことを躊躇っているようで。

「わたし、だって……好きで、ここに来たんじゃ……ないっ!」

殺されまいと男性の手を掴み、首から離そうとしながら必死に言葉を吐き出す。
子供の体ではびくともしないが、諦めたくない。
大事なご家族の体を乗っ取ってしまったのは申し訳ないが、だからといって大人しく殺されてたまるか。

「……っ!」

精一杯の抵抗として睨みつけると、男性は一瞬悲しげな顔になり私の首から腕を離した。
急に呼吸が楽になり慌てて息を吸ったせいでむせてしまう。

「……偽物のくせに、ルヴィアナと同じ目で見るな」

ポツリと呟きを残して男性は足早に部屋を出ていった。

「だ、旦那様……っ!」

こちらを気にしながらケビンが追い掛ける。

「大丈夫か!?」

静かになった部屋で、壁に打ち付けられたダメージなどなかったかのようにクローケンが駆け寄ってきた。
私は呼吸を整えてこくこくと頷く。

「すまねぇ……旦那も、辛い立場にいるんだ」

申し訳無そうにしながらクローケンはあの男性が何者でルヴィアナという女の子がどういう子だったのか話はじめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺TUEEE出来るって常識だよね?

チガーイ
ファンタジー
 ただのアニメが好きなどこにでもいる高校生【落合秀吉17歳】  そんな彼は、事件や事故に巻き込まれた訳でもなく、ワケもわからないまま異世界に転移されてしまった。 「異世界と言えば」  などと、アニメの知識を元に先走り異世界に来て早々に失敗⋯⋯異世界はそんなに甘いものじゃなかった。 宿屋に停まる為に綺麗な土下座からスタートした異世界生活だが、仲間の助けもあって現実を受け入れて自己鍛練に励む。  なぜこの世界に呼ばれたのか。そして元の世界に戻るためには何をする必要があるのか。 目指すはこの世界にそびえ立つ百階層の塔。  踏破すれば元の世界へと帰れる。  その言葉を信じた秀吉はユキという少し変わったパートナーと共に塔へ挑む。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

うちの兄がヒロインすぎる

ふぇりちた
ファンタジー
ドラモンド伯爵家の次女ソフィアは、10歳の誕生日を迎えると共に、自身が転生者であることを知る。 乙女ゲーム『祈りの神子と誓いの聖騎士』に転生した彼女は、兄ノアがメインキャラの友人────つまり、モブキャラだと思い出す。 それもイベントに巻き込まれて、ストーリー序盤で退場する不憫な男だと。 大切な兄を守るため、一念発起して走り回るソフィアだが、周りの様子がどうもおかしい。 「はい、ソフィア。レオンがお花をくれたんだ。 直接渡せばいいのに。今度会ったら、お礼を言うんだよ」 「いや、お兄様。それは、お兄様宛のプレゼントだと思います」 「えっ僕に? そっか、てっきりソフィアにだと………でも僕、男なのに何でだろ」 「う〜ん、何ででしょうね。ほんとに」

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

処理中です...