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24.恋の自覚
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昨晩は寝付けなかった。
横になって目を閉じるがジークさんとマリーナが寄り添っている光景が目に浮かんでしまい中々寝られなかったのだ。
少しでも気分を変えるようと小屋の隅にある水瓶の水で顔を洗い、外の空気を吸うためにドアを開けた。
今はまだ朝日が登り始めた薄暗い時間帯だ。
この時間に起きるのは村で飼育してる動物くらいだろう。
小屋から数歩外に出て思い切り深呼吸すると朝露に濡れた葉っぱや土の匂いが胸一杯に広がる。
ほんの少しだけもやもやしていた気持ちも緩やかになった気がした。
(少しだけ気分転換も兼ねてこの近くを散歩でもしようかな)
小屋に籠ってばかりいるからもやもやしてしまうのだ。
少しくらいなら誰にも見つからないし、平気だろう。
そう思い歩き出そうとすれば急に近くの木の枝がガサリと不自然に揺れた。
熊でも出たのかと慌てて視線を向ければそこにいたのはジークさんだった。
「……スザンナ……?随分早いんだな」
ジークさんは私の姿に驚いたのか目を見開いている。
「私が早くに起きてようとジークさんには関係ないと思いますけど」
ジークさんに会った時は普通に挨拶して会話をしようと思っていたのに、私の口から出たのは可愛いげのない言葉とあからさまに不機嫌と分かる声色だった。
「そうかもしれないが……怒ってるのか?俺は何か気に触る事をしてしまっただろうか」
「……別に何でもないです。ジークさんは私よりマリーナの方に行った方がいいんじゃないですか?」
けしてジークさんを困らせたい訳ではないのに昨日リエナから聞いた話が頭をぐるぐる巡ってつい嫌な言い方をしてしまう。
なぜこんな言い方をしてしまうのか自分でもよくわからなかった。
「マリーナ?なぜ彼女の名前が出てくる」
「……ある人に聞きました、マリーナはジークさんに気があってジークさんも満更じゃないって」
「は?」
「別に私の事なんて気にしなくていいんですよ?マリーナとジークさんが上手くいって恋人になってくれれば、マリーナだって私の事を諦めるかもしれないし。そうすれば私だって村に戻ってまたお父さんたちと暮らせるし」
「待て、落ち着けスザンナ」
「とにかくジークさんとマリーナの事は私も応援しますから早く――」
「俺の話を聞け!」
私の言葉を遮る様に鋭い声を上げられびくりと肩が震える。
驚いて顔を上げるとジークさんは悲しそうな顔をしていた。
「……俺があの子と恋人になればいいと、本気で思っているのか?」
その質問に私は肯定も否定も出来なかった。
本気で思ってるわけない、寧ろ逆だ。
ジークさんとマリーナが二人きりで仲良くしているのを想像するだけで胸の中はモヤモヤして嫌な気持ちになる。
だけどジークさんがマリーナを好きだと言うのなら、私にはそれを邪魔する権利もジークさんを引き留める権利もない。
「……そうか、分かった」
「え……」
「ここには、もう来ない」
「ジークさん!?」
沈黙を肯定と捉えたのかジークさんは背を向けると呼び止める声に振り返る事もなく村へと戻ってしまった。
取り残された私はモヤモヤした気持ちが鈍い痛みに変わるのを感じながら、ジークさんの去っていった方を見つめただ立ち尽くしていた。
それからどれくらいの時間が過ぎただろう。
気が付くと私は木屋の隅で足を抱えて座っていた。
いつ木屋の中に戻ったのか覚えていない。
それくらいジークさんにここへ来ないと言われた事がショックだった。
そのままぼんやりしていると木屋のドアが四回ノックされた。
ドアを開けるとそこにいたのはリエナだ。
「スザンナお嬢様、差し入れにクッキーをお持ちしました。よろしければ一緒に……お嬢様?」
クッキーと紅茶の茶葉が入ったバスケットを下げたリエナを見た途端、私の視界は大きく歪み目からぽろと涙が溢れだした。
「お、お嬢様!?どうなさいました?お加減でも悪いのですか!?」
「……リエナ……私、どうしたら……」
リエナの姿を見た途端気が緩んだのかもしれない。
涙はぽろぽろ溢れて止まらなくなった。
「大丈夫ですよ、スザンナお嬢様。私がついていますから」
リエナは泣き止まない私の手を引いて椅子に座らせると、優しく背中を擦ってくれた。
「何があったのかお聞きしても?」
優しく声をかけてくれるリエナに私はジークさんとの事を話した。
それだけでなくリエナの話を聞いてからずっとジークさんとマリーナの事でモヤモヤしていた事も。
リエナは最後まで私の話を聞き終えると優しく微笑み、持ってきた茶葉で紅茶を淹れてくれた。
泣いて渇いた喉にはとてもありがたい。
紅茶を飲み干して落ち着いたころ、リエナはおもむろに口を開いた。
「私が思うにスザンナお嬢様はジーク様に恋をしているのではないでしょうか」
「こい……?」
「えぇ」
(私が……ジークさんに、こい……)
何を言われているのか理解するまでに数秒かかった。
(……恋!?)
そして理解した瞬間、頬が一気に熱くなり大きく心臓が跳ねた。
「え、いや……だってジークさんはっ……村の皆の人気者で……!!私はただの知り合いというか……友達、というか……」
「けれどマリーナお嬢様とジーク様が一緒にいる所を想像するとモヤモヤなさるのでしょう?」
「……する」
「ジーク様を取られたくない、という気持ちがあるのでは?」
動揺する私を見てリエナは諭すように尋ねてくる。
「ある、かも」
「ではジーク様に自分だけを見て欲しいという気持ちは?」
「…………多分、ある」
リエナに問われ考えてみれば確かに私の中にはジークさんを取られたくないという気持ちやジークさんに自分を見てもらいたいという気持ちがあるのに気が付いた。
「その気持ちはきっと、お嬢様がジーク様に恋をしているから感じる気持ちではないでしょうか」
「……そうなの、かな」
恋なんてしたことがないから私には分からない。
分からないけれどジークさんの事で心が動かされるのは確かだと思う。
兄の様に思う気持ちもあったがそれは今私が抱えてる気持ちとは違う気がした。
色々考えて頭を使ったせいかリエナと話してるうちに私はだんだん眠くなってきた。
眠気は次第に強くなっていき、私はリエナに断りを入れて少しだけ休むことにした。
「きっとスザンナお嬢様には休息が必要なのですよ。片付けは私がしておきますからお休みになってください。少ししたら起こしますからご安心を」
「ん、ありがとうリエナ」
微笑むリエナの言葉に甘えて私は大人しくベッドに横になる。
頭はよっぽど休息を求めていたのか私は横になってすぐ眠りにつくことが出来た。
横になって目を閉じるがジークさんとマリーナが寄り添っている光景が目に浮かんでしまい中々寝られなかったのだ。
少しでも気分を変えるようと小屋の隅にある水瓶の水で顔を洗い、外の空気を吸うためにドアを開けた。
今はまだ朝日が登り始めた薄暗い時間帯だ。
この時間に起きるのは村で飼育してる動物くらいだろう。
小屋から数歩外に出て思い切り深呼吸すると朝露に濡れた葉っぱや土の匂いが胸一杯に広がる。
ほんの少しだけもやもやしていた気持ちも緩やかになった気がした。
(少しだけ気分転換も兼ねてこの近くを散歩でもしようかな)
小屋に籠ってばかりいるからもやもやしてしまうのだ。
少しくらいなら誰にも見つからないし、平気だろう。
そう思い歩き出そうとすれば急に近くの木の枝がガサリと不自然に揺れた。
熊でも出たのかと慌てて視線を向ければそこにいたのはジークさんだった。
「……スザンナ……?随分早いんだな」
ジークさんは私の姿に驚いたのか目を見開いている。
「私が早くに起きてようとジークさんには関係ないと思いますけど」
ジークさんに会った時は普通に挨拶して会話をしようと思っていたのに、私の口から出たのは可愛いげのない言葉とあからさまに不機嫌と分かる声色だった。
「そうかもしれないが……怒ってるのか?俺は何か気に触る事をしてしまっただろうか」
「……別に何でもないです。ジークさんは私よりマリーナの方に行った方がいいんじゃないですか?」
けしてジークさんを困らせたい訳ではないのに昨日リエナから聞いた話が頭をぐるぐる巡ってつい嫌な言い方をしてしまう。
なぜこんな言い方をしてしまうのか自分でもよくわからなかった。
「マリーナ?なぜ彼女の名前が出てくる」
「……ある人に聞きました、マリーナはジークさんに気があってジークさんも満更じゃないって」
「は?」
「別に私の事なんて気にしなくていいんですよ?マリーナとジークさんが上手くいって恋人になってくれれば、マリーナだって私の事を諦めるかもしれないし。そうすれば私だって村に戻ってまたお父さんたちと暮らせるし」
「待て、落ち着けスザンナ」
「とにかくジークさんとマリーナの事は私も応援しますから早く――」
「俺の話を聞け!」
私の言葉を遮る様に鋭い声を上げられびくりと肩が震える。
驚いて顔を上げるとジークさんは悲しそうな顔をしていた。
「……俺があの子と恋人になればいいと、本気で思っているのか?」
その質問に私は肯定も否定も出来なかった。
本気で思ってるわけない、寧ろ逆だ。
ジークさんとマリーナが二人きりで仲良くしているのを想像するだけで胸の中はモヤモヤして嫌な気持ちになる。
だけどジークさんがマリーナを好きだと言うのなら、私にはそれを邪魔する権利もジークさんを引き留める権利もない。
「……そうか、分かった」
「え……」
「ここには、もう来ない」
「ジークさん!?」
沈黙を肯定と捉えたのかジークさんは背を向けると呼び止める声に振り返る事もなく村へと戻ってしまった。
取り残された私はモヤモヤした気持ちが鈍い痛みに変わるのを感じながら、ジークさんの去っていった方を見つめただ立ち尽くしていた。
それからどれくらいの時間が過ぎただろう。
気が付くと私は木屋の隅で足を抱えて座っていた。
いつ木屋の中に戻ったのか覚えていない。
それくらいジークさんにここへ来ないと言われた事がショックだった。
そのままぼんやりしていると木屋のドアが四回ノックされた。
ドアを開けるとそこにいたのはリエナだ。
「スザンナお嬢様、差し入れにクッキーをお持ちしました。よろしければ一緒に……お嬢様?」
クッキーと紅茶の茶葉が入ったバスケットを下げたリエナを見た途端、私の視界は大きく歪み目からぽろと涙が溢れだした。
「お、お嬢様!?どうなさいました?お加減でも悪いのですか!?」
「……リエナ……私、どうしたら……」
リエナの姿を見た途端気が緩んだのかもしれない。
涙はぽろぽろ溢れて止まらなくなった。
「大丈夫ですよ、スザンナお嬢様。私がついていますから」
リエナは泣き止まない私の手を引いて椅子に座らせると、優しく背中を擦ってくれた。
「何があったのかお聞きしても?」
優しく声をかけてくれるリエナに私はジークさんとの事を話した。
それだけでなくリエナの話を聞いてからずっとジークさんとマリーナの事でモヤモヤしていた事も。
リエナは最後まで私の話を聞き終えると優しく微笑み、持ってきた茶葉で紅茶を淹れてくれた。
泣いて渇いた喉にはとてもありがたい。
紅茶を飲み干して落ち着いたころ、リエナはおもむろに口を開いた。
「私が思うにスザンナお嬢様はジーク様に恋をしているのではないでしょうか」
「こい……?」
「えぇ」
(私が……ジークさんに、こい……)
何を言われているのか理解するまでに数秒かかった。
(……恋!?)
そして理解した瞬間、頬が一気に熱くなり大きく心臓が跳ねた。
「え、いや……だってジークさんはっ……村の皆の人気者で……!!私はただの知り合いというか……友達、というか……」
「けれどマリーナお嬢様とジーク様が一緒にいる所を想像するとモヤモヤなさるのでしょう?」
「……する」
「ジーク様を取られたくない、という気持ちがあるのでは?」
動揺する私を見てリエナは諭すように尋ねてくる。
「ある、かも」
「ではジーク様に自分だけを見て欲しいという気持ちは?」
「…………多分、ある」
リエナに問われ考えてみれば確かに私の中にはジークさんを取られたくないという気持ちやジークさんに自分を見てもらいたいという気持ちがあるのに気が付いた。
「その気持ちはきっと、お嬢様がジーク様に恋をしているから感じる気持ちではないでしょうか」
「……そうなの、かな」
恋なんてしたことがないから私には分からない。
分からないけれどジークさんの事で心が動かされるのは確かだと思う。
兄の様に思う気持ちもあったがそれは今私が抱えてる気持ちとは違う気がした。
色々考えて頭を使ったせいかリエナと話してるうちに私はだんだん眠くなってきた。
眠気は次第に強くなっていき、私はリエナに断りを入れて少しだけ休むことにした。
「きっとスザンナお嬢様には休息が必要なのですよ。片付けは私がしておきますからお休みになってください。少ししたら起こしますからご安心を」
「ん、ありがとうリエナ」
微笑むリエナの言葉に甘えて私は大人しくベッドに横になる。
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