村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎

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8.母の友人

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ウォルトさんを湖まで迎えに行った日、彼は私を家に迎え入れてくれると言ってくれた。

親子としてはまだお互いどう接していいか分からずぎこちないけれど、路頭に迷わず済んだのだからとてもありがたい。
ソニアさんからは私が寝かされていた部屋を自由に使っていいと言われた。

私は人の好意に生かされてると思う。


翌日は驚いたことに日の出と共に目が覚めた。
昨晩早く寝た訳でも、眠れなかった訳でもない。
今日から母の育った村で新しい生活が始まると思うと楽しみで目が覚めてしまったのだ。
我ながら子供っぽいと思う。

軽く身支度を整えていると誰かが廊下を歩く音が聞こえた。
ドアを開けてみるとソニアさんだ。

「おはようございますソニアさん!」
「おはよう、スザンナさん。随分と早起きだけどよく眠れたかしら?」
「はいっ!夢も見ないくらいぐっすりでした」

頷いて見せるとソニアさんはふわりと微笑み「それなら良かったわ」と頭を撫でてくれる。
それがまた嬉しい。

「朝御飯はこれから作るからもう少し待っていて」
「はい。でも、あの……もしソニアさんが良ければ私に料理を教えてくれませんか?」

公爵家では覚える必要がないと言われ出来なかったけれど、ここで生活するのなら学ぶべきだ。

私はもう公爵令嬢ではないのだから自分で出来ることを増やしていかなければならない。
その思いからソニアさんにお願いしてみると彼女は少し目を瞬かせてから頷いてくれた。

「もちろんよ。じゃあ早速キッチンに行きましょうか」
「はいっ!」

最初に作り方を教えてもらえたのはサラダだった。
野菜を綺麗に洗ってちぎって盛り付けて、調味料を混ぜ合わせたドレッシングをかけただけの簡単なもの。

料理と言えばてっきり包丁を使ったり火を使うものだと思っていたのだけれど、それは追々教えてくれるそうだ。
いつか美味しいものを作れるようになってソニアさんやウォルトさんに食べてもらえるように頑張りたい。

その後、起きてきたウォルトさんと三人で朝食を済ませた私はソニアさんと一緒にお隣に行くことになった。

お隣は食品から生活用品を売ったりする村唯一のお店だそうだ。
店主さんはリンダさんという女性で、女手一つで息子さんを育てながらお店を経営しているらしい。
リンダさんは母の友人でもあったらしく顔を見せておいた方がいいだろうと言われた。

ソニアさんと家を出て、すぐ隣にある家のドアをノックする。

すると中から「はーい」とよく通る明るい声がしてエプロン姿で赤毛をポニーテールにした女性が出てきた。
彼女がリンダさんなのだろう。

「あら、ソニアさんいらっしゃい!今日は小さいお客さんも一緒なのね?」
「こんにちはリンダさん。こちらはスザンナさんよ、私の孫なの。可愛いでしょう?」
「はじめまして、スザンナと言います。よろしくお願いします」

ソニアさんに紹介されぺこりと頭を下げるとガバッと肩を捕まれた。

「ちょっとやだ、クレアにそっくりじゃない!ソニアさんの孫ってことはクレアが帰ってきたの!?」
「その話をしようと思ってきたの。中に入ってもいいかしら?」
「そうね。お茶を入れるからどうぞスザンナちゃんも遠慮せずに入って入って」

招かれるまま足を踏み入れると中にはいくつも木の棚が置いてあり、所狭しといろいろな商品が並べられていた。可愛らしいぬいぐるみからリボン、布やボタンといった手芸用品や野菜や果物まで区画を分けて置いてある。
村唯一のお店というだけあって多様なものを取り扱っているのだろう。

リンダさんは私とソニアさんをお店の奥に案内してくれた。
そこは休憩スペースのようで小さな丸椅子と机が置いてある。

「息子に店番任せてくるから座って少し待っててね」

リンダさんはそう言うとお店の方に戻っていった。
薦められるままに丸椅子に腰掛けると大分古いのか軋む音がした。
一瞬壊したらどうしようと焦って腰を浮かせたが大人のソニアさんが座った椅子は壊れていない所を見ると、案外丈夫なのかも知れない。
改めて腰を下ろしたタイミングでリンダさんが戻ってきた。
手には湯気が立つカップを三つ乗せたトレーを持っている。

「お待たせ。よかったらこれどうぞ」
「ありがとうございます」

出されたカップを受け取ると紅茶の様だ。
口をつけるとほんのり花の香りがした。

「あら、いい香り」

頬を緩めた私とソニアさんを見てリンダさんは満足げに笑う。

「でしょ。で、早速だけどクレアの事を聞かせてくれる?」

真剣な顔つきになったリンダさんにソニアさんは私と出会った経緯と私が昨日話した内容を説明した。

時々私にも確認をとるように話を振ってくれたので、私の口からも母の事について話した。
公爵家での母の扱いを聞いた時は険しい顔をしていたリンダさんだったが、話を終えると深く息を吐いて顔を上げた。

「……スザンナちゃんがソニアさんに助けられたのは、クレアが力を貸してくれたお陰かもね」
「私も……そう、思います」

リンダさんの言葉に頷く。
きっと母が私をソニアさんの元に導いてくれたから私は本当の家族に会えたのだ。

「今まで貴族の生活してたんじゃここに慣れるのも大変かもしれないけど、何かあったら力になるからおいで。クレアの娘なら私の娘も同然よ」
「ありがとうございます」

暖かい言葉に頭を下げると柔らかい手に撫でられる。

「さて、それじゃ生活していくのに物入りだろう?早速用意しなきゃね」
「助かるわ。子供用の服がなくて困っていたの」
「それなら私に任せて、サイズ測ってぱぱっとつくちゃうから。クレアそっくりの美人さんだもの、服の作り概があるわ!」
「え、あ、あの……私……払えるお金はなくて……」

二人の気遣いも好意もとても有り難いが払えるお金がない。

ソニアさんのお家でお世話になってる分も払えないのでなんとか仕事を探さなければ。
ソニアさんは「そんな事気にしなくていいのに」と言ってくれるけれどそんな訳にもいかない。
リンダさんにそう伝えると彼女は楽しげに笑った。

「さすがクレアの娘だ。そう言うところはしっかりしてるね、うちの息子に爪の垢煎じて飲ませてやりたいよ。じゃあスザンナちゃん、家で働くのはどう?」
「いいんですか?」

思いもよらない提案に思わず問い返すと、リンダさんは笑いながら頷く。

「ここならソニアさんの家からすぐだし、村の人もよく来るから顔を覚えてもらえやすいだろう?それに人手があると私も楽になるし。スザンナちゃんほど美人さんが居てくれればうちの店も売り上げも上がるだろうしね。どうだい?」

是非働いてみたい。
けれどいきなりお店に立ってしっかりやれるのだろうかという不安もある。
私が即答できずにいるとソニアさんがそっと後押ししてくれた。

「不安もあるかもしれないけどまずやってみたらどうかしら?何事も挑戦よ」
「は、はいっ!リンダさん、よろしくお願いします!」

村で暮らしを始めて二日目にして私は職を得た。
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