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03 悪魔と聖女と人助け
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体が入れ替わった翌朝。俺は鼻唄を歌いながら廊下を掃除する自分の体を見つけて、深くため息をついた。
昨晩、俺は聖女の部屋で休息を取った。
教会の職員やシスターに見付からないように聖女の部屋まで行き、聖女の体を持つ俺は聖女のベッドで俺の体を持つ聖女は床に毛布を敷いて休んだのだ。
単純に他に休む場所がなかっただけで断じて邪な感情はない……いや、悪魔としてはあった方が正解なのだが自分の体相手にそんな気が起きるはずもないのだ。
聖女を困らせてやろうと思い、床で寝るのは嫌だと告げてみれば彼女は譲ることが当たり前のように自ら床に毛布を敷いて寝転がった。
あまりに無防備すぎる聖女に、これで大丈夫なのかとこの俺が心配するほどだ。
この女は警戒心というものが欠如しているとしか思えない……。
聖女を狙う輩がいると本人が言っていたが、それなのに何の警戒もしないのかと問えば彼女はやはり笑って『神様の加護があるから大丈夫ですよ』と答えるのだ。
本当に大丈夫だというならこいつと俺が入れ替わることなどないというのに……能天気すぎやしないだろうか。
そんな事を考えながら眠りにつき、朝起きてみれば聖女がいない。
自分の体に何かされては敵わないと慌てて聖女を探したのだが、心配を他所に彼女は箒で廊下を掃除していたのだった。しかも少々音痴な鼻唄つきで。
俺は脱力して廊下に座り込んだ。
「あら、悪魔さんおはようございます!素敵な朝ですね!……どうしました?」
聖女が心配そうに覗き込んでくるがどうでもいい。
人間を振り回す悪魔が聖女に振り回されているなんて滑稽すぎる。
人間に絶望を与え、それを面白おかしく干渉してこその悪魔だというのに。
「もー……マジでなんなんだよお前は……俺より悪魔の才能あるだろ、悪魔を振り回す聖女とか聞いたことないぞ……」
深いため息と共に吐き出せば聖女は楽しげに笑う。
「誉めてくださってありがとうございます」
「誉めてねぇよ!ばぁーか!」
「あうっ!」
こてりと首を傾けた聖女の額を小突くと驚いたのか簡単に尻餅をついた。
その姿にほんの少しだけ気分が落ち着く。
聖女に振り回されて落ち込むなど自分らしくもない、悪魔足るものそれを逆手にとって仕返しをし嘲笑ってこそだ。
「今に見てろ、お前のことなんかすぐに泣かせて絶望させて見せるからな!」
宣戦布告のようにびしっと指を突きつければ聖女は不思議そうに首をかしげた後「悪魔さんが元気になってよかったです」と微笑んだ。
こちらの言葉をまるで理解していない聖女を再び小突こうとした時、俺目掛けて小さな影が飛び出してきた。
「うぉ……っ!?」
反射的に受け止めるとそれは五歳くらいの男の子だ。
何かあったのか顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。
「聖女様助けて!ママが死んじゃう!」
嗚咽を漏らす男の子に素早く反応したのは聖女だった。
「アルフくん!お母さんがどうなさったんですか?」
名前を知っているという事は、聖女の顔見知りなのだろう。
アルフは俺にしがみついて聖女を見つめる。この子供から見れば俺の姿をした聖女は知らない男だから警戒するのは当然だろう。
「お兄さんだれ……?」
「えっと……聖女様の友達です。聖女様のお手伝いをしてます。よかったら、何があったのか聞かせてくれませんか?」
聖女が指先でアルフの涙をぬぐってやると彼はしゃくりあげながら話しはじめた。
今朝早く、アルフの母親は日課の薬草を取りに行くため自宅を出た。いつもならアルフが起きる前に帰ってくるのだが今日はなかなか帰ってこない。やっと帰ってきたと思いきや、母の顔は真っ青で片手が青紫色に大きく腫れていた。
母親が言うには薬草採取の途中で植物に紛れていた魔物に触れてしまい呪いをかけられたのだとか。帰宅後、すぐに母は寝込んでしまった。
父は商人で遠くの町に出稼ぎに行っていろのでいつ戻るか分からない。母を助けられるのは自分だけだ。
このままでは母が呪いで死んでしまうと聖女を頼ってやってきたらしい。
「呪いの浄化ねぇ……」
「のんびりしてる暇はありませんよ!さ、アルフくん、お家に案内してください。今すぐ聖女様が助けにいくそうです」
「ほんと!?ありがとう!聖女様、お兄さん!」
ご都合主義の『神様の加護』により最後の言葉だけを耳にしたアルフはごしごしと涙をぬぐうと俺と聖女の手を引っ張る。
「おい、なんで俺まで……」
「今は悪魔さんが聖女様ですから。ほらほら早くいきますよ」
アルフだけでなく力の強い悪魔の体に引っ張られてはか弱い聖女の体に抵抗する術はない。
「めーんどくせー……」
俺は思い切り顔をしかめながら渋々と同行することにした。
昨晩、俺は聖女の部屋で休息を取った。
教会の職員やシスターに見付からないように聖女の部屋まで行き、聖女の体を持つ俺は聖女のベッドで俺の体を持つ聖女は床に毛布を敷いて休んだのだ。
単純に他に休む場所がなかっただけで断じて邪な感情はない……いや、悪魔としてはあった方が正解なのだが自分の体相手にそんな気が起きるはずもないのだ。
聖女を困らせてやろうと思い、床で寝るのは嫌だと告げてみれば彼女は譲ることが当たり前のように自ら床に毛布を敷いて寝転がった。
あまりに無防備すぎる聖女に、これで大丈夫なのかとこの俺が心配するほどだ。
この女は警戒心というものが欠如しているとしか思えない……。
聖女を狙う輩がいると本人が言っていたが、それなのに何の警戒もしないのかと問えば彼女はやはり笑って『神様の加護があるから大丈夫ですよ』と答えるのだ。
本当に大丈夫だというならこいつと俺が入れ替わることなどないというのに……能天気すぎやしないだろうか。
そんな事を考えながら眠りにつき、朝起きてみれば聖女がいない。
自分の体に何かされては敵わないと慌てて聖女を探したのだが、心配を他所に彼女は箒で廊下を掃除していたのだった。しかも少々音痴な鼻唄つきで。
俺は脱力して廊下に座り込んだ。
「あら、悪魔さんおはようございます!素敵な朝ですね!……どうしました?」
聖女が心配そうに覗き込んでくるがどうでもいい。
人間を振り回す悪魔が聖女に振り回されているなんて滑稽すぎる。
人間に絶望を与え、それを面白おかしく干渉してこその悪魔だというのに。
「もー……マジでなんなんだよお前は……俺より悪魔の才能あるだろ、悪魔を振り回す聖女とか聞いたことないぞ……」
深いため息と共に吐き出せば聖女は楽しげに笑う。
「誉めてくださってありがとうございます」
「誉めてねぇよ!ばぁーか!」
「あうっ!」
こてりと首を傾けた聖女の額を小突くと驚いたのか簡単に尻餅をついた。
その姿にほんの少しだけ気分が落ち着く。
聖女に振り回されて落ち込むなど自分らしくもない、悪魔足るものそれを逆手にとって仕返しをし嘲笑ってこそだ。
「今に見てろ、お前のことなんかすぐに泣かせて絶望させて見せるからな!」
宣戦布告のようにびしっと指を突きつければ聖女は不思議そうに首をかしげた後「悪魔さんが元気になってよかったです」と微笑んだ。
こちらの言葉をまるで理解していない聖女を再び小突こうとした時、俺目掛けて小さな影が飛び出してきた。
「うぉ……っ!?」
反射的に受け止めるとそれは五歳くらいの男の子だ。
何かあったのか顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。
「聖女様助けて!ママが死んじゃう!」
嗚咽を漏らす男の子に素早く反応したのは聖女だった。
「アルフくん!お母さんがどうなさったんですか?」
名前を知っているという事は、聖女の顔見知りなのだろう。
アルフは俺にしがみついて聖女を見つめる。この子供から見れば俺の姿をした聖女は知らない男だから警戒するのは当然だろう。
「お兄さんだれ……?」
「えっと……聖女様の友達です。聖女様のお手伝いをしてます。よかったら、何があったのか聞かせてくれませんか?」
聖女が指先でアルフの涙をぬぐってやると彼はしゃくりあげながら話しはじめた。
今朝早く、アルフの母親は日課の薬草を取りに行くため自宅を出た。いつもならアルフが起きる前に帰ってくるのだが今日はなかなか帰ってこない。やっと帰ってきたと思いきや、母の顔は真っ青で片手が青紫色に大きく腫れていた。
母親が言うには薬草採取の途中で植物に紛れていた魔物に触れてしまい呪いをかけられたのだとか。帰宅後、すぐに母は寝込んでしまった。
父は商人で遠くの町に出稼ぎに行っていろのでいつ戻るか分からない。母を助けられるのは自分だけだ。
このままでは母が呪いで死んでしまうと聖女を頼ってやってきたらしい。
「呪いの浄化ねぇ……」
「のんびりしてる暇はありませんよ!さ、アルフくん、お家に案内してください。今すぐ聖女様が助けにいくそうです」
「ほんと!?ありがとう!聖女様、お兄さん!」
ご都合主義の『神様の加護』により最後の言葉だけを耳にしたアルフはごしごしと涙をぬぐうと俺と聖女の手を引っ張る。
「おい、なんで俺まで……」
「今は悪魔さんが聖女様ですから。ほらほら早くいきますよ」
アルフだけでなく力の強い悪魔の体に引っ張られてはか弱い聖女の体に抵抗する術はない。
「めーんどくせー……」
俺は思い切り顔をしかめながら渋々と同行することにした。
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