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第一章
計画
しおりを挟む彩香は、クリームをバッグの中にそっとしまい、近くのカフェに入った。平日の昼下がりで、店内は適度に賑わっている。周りを見渡しながら席に着くと、彼女は少し背筋を伸ばし、気を引き締めた。
「まずは計画を立てないとね……」
彼女の中で、この性転換クリームがただの遊び道具以上の可能性を持っていると直感していた。どんな場面で使うべきか。どんな状況で自分にメリットがあるのか。誰にも知られずに試す方法は?
注文したアイスコーヒーを一口飲みながら、ふと気づいた。
**「仕事ではどうだろう?」**
彩香は広告代理店で働いていた。職場では時々、性別の違いが影響していると感じる理不尽な出来事に直面することがあった。会議で自分が提案しても軽く流されるのに、男性の同僚が同じ意見を言うと称賛されることもある。
「もし、このクリームを使えば、男性の立場で発言することで結果が変わるかもしれない……」
そのアイデアは、彩香の胸に妙な興奮を呼び起こした。しかし同時に、危険な賭けでもあると理解していた。
**「でも、職場で試す前に、もっと小さな場面でテストするべきよね。」**
---
彩香はその夜、自宅で鏡の前に立ち、クリームを小さな容器に移し替えた。手のひらにクリームを少量とり、今度は自分の顎に塗ってみた。じわじわとした熱感が広がり、目の前で自分の顔の輪郭が変化していく。
ほんの数秒で、彼女の柔らかな女性らしい顎が、骨ばった男性のものに変わった。さらに、少し声を出してみると――低く、深い男性の声が響いた。
**「これ……本当にすごい……!」**
驚きつつも、彩香は髪を後ろに束ねて帽子をかぶり、外見をさらに男性らしく整えた。そして、勇気を出して夜の街へ出てみることにした。
---
街は賑やかで、行き交う人々の視線が彼女に向けられることはなかった。彩香はまるで新しい人生を手に入れたような気分だった。
「この感覚、自由そのものだわ……」
しばらく歩いていると、路地裏で争う声が聞こえた。彩香は足を止め、そっと様子をうかがった。見れば、若い女性が二人の男に絡まれている。
**「えっ……助けなきゃ!」**
だが、これまでの彼女なら一歩踏み出せなかっただろう。しかし今は違う。自分の顔と声は男性そのものだ。彼女は思い切って声を張り上げた。
**「おい! 何してるんだ!」**
驚いた二人の男が振り返り、彼女を見るなり険しい表情を崩した。
**「チッ、なんだよ、兄ちゃん……」**
男たちは渋々その場を立ち去り、女性は「ありがとうございます!」と深くお辞儀をした。彩香は少し照れくさそうに「気をつけてね」と声をかけた。
---
その夜、帰宅した彩香は、初めての「男性としての体験」に胸が高鳴るのを感じていた。このクリームには、単なる遊び以上の力がある――それを確信した。
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