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恵一と美咲
しおりを挟む大学の近くにある喫茶店「シェア・ソウル」。その名の通り、心をシェアできる店だという噂が流れていた。特にカップルが恋人飲みをすると、身体が入れ替わるという都市伝説は、学生たちの間でひっそりと囁かれていた。
#### 登場人物
**恵一(けいいち)**:21歳の大学生。理系学部に通い、研究に没頭するタイプ。几帳面で計画的だが、感情を表に出すのが苦手。恋人の美咲のことは大切に思っているが、言葉で表現するのが下手。
**美咲(みさき)**:20歳。文系の学部に通い、恵一とは対照的に感受性豊かで、感情表現が得意。少しおおらかな性格で、恵一との関係に悩むことは少ないが、最近は彼の無表情さや冷静さに少し不満を感じていた。
そんな二人は、付き合って2年目の記念日を迎えた。美咲が「噂になってるあの店、行ってみようよ」と提案したのがきっかけで、「シェア・ソウル」に足を運ぶことになった。
#### 恋人飲みの挑戦
「ここが噂の店かぁ」と、恵一は店の外観を見上げた。外見は少し古びていて、こぢんまりとした趣のある喫茶店。カウンターには、落ち着いた雰囲気のマスターが座っていた。
美咲が明るく注文を済ませ、「シェア・ソウル・ジュース」が運ばれてくる。グラスには二本のストローが刺さっていて、淡いピンクの液体がキラキラと光っていた。
「ね、やってみようよ。もしかしたら、本当に何か起きるかも?」と美咲はいたずらっぽく笑った。
「馬鹿馬鹿しいよ」と言いながらも、恵一はストローを口に近づけた。
「せーの!」二人は同時にジュースを吸い込んだ。その瞬間、視界がぐるっと回転するような感覚に襲われ、目の前の世界が歪んだ。
#### 入れ替わりの朝
翌朝、恵一は目を覚まし、すぐに違和感を覚えた。ベッドから見える光景が普段と違う。何より、体が軽い。そして、自分の手を見た瞬間、目を疑った。見慣れない手…それは、繊細で女性らしい手だった。
「えっ!?」恵一は叫び声を上げたが、その声も自分のものではない。慌てて鏡の前に駆け寄ると、そこには美咲の姿が映っていた。
「俺が…美咲!?」
一方、美咲も同じように驚きながら恵一の家で目を覚ました。自分の体がなくなり、代わりに恵一の筋肉質な体がそこにあることに驚愕した。
「どうしよう…私、恵一になってる…!」美咲は困惑しながらも、その冷静な外見とのギャップに思わず笑い出してしまった。
二人はすぐに連絡を取り合い、カフェで落ち合うことにした。
#### 入れ替わった生活
「これ、本当に現実なんだね」と、美咲(恵一の体)はコーヒーを飲みながら呟いた。
「どうやらそうみたいだな。まさか、ジュース飲んだだけで入れ替わるなんて…」恵一(美咲の体)は深いため息をついた。
「でも、これって逆にチャンスじゃない?」美咲が笑みを浮かべる。「お互いの生活を体験して、もっとお互いのことを理解できるかもしれないよ!」
恵一は少し不安そうに頷いたものの、結局二人はこの状況を受け入れることにした。恵一は美咲として大学の授業に出席し、美咲は恵一として研究室へ向かうことになった。
#### 恵一の視点:美咲の生活
美咲の体で一日を過ごすことになった恵一は、まず彼女の授業に参加した。文系の講義は自分の専門とは全く違い、思った以上に抽象的で感情に訴える内容だった。いつも論理とデータを重視する彼にとって、感覚的な議論は難しく、初めて美咲の学びがどれだけ複雑で奥深いものかを理解することになった。
また、周囲の人々からの反応も新鮮だった。美咲は友達が多く、いつも誰かに囲まれていた。みんなが自然体で彼女に接する様子を見て、恵一は自分が普段、彼女にどれだけ支えられていたのかを痛感した。
#### 美咲の視点:恵一の生活
一方、美咲は恵一の体で研究室に向かった。研究の内容は難しく、専門的なデータを扱うのは彼女にとってかなりの挑戦だった。しかし、恵一がどれほどの集中力で日々研究に取り組んでいるかがわかり、普段あまり感情を表に出さない彼が、こんなにも多くの責任とプレッシャーを抱えていることに驚いた。
また、同僚たちとの会話から、彼がリーダーシップを発揮し、信頼を得ていることも知った。美咲は、彼が自分に表現する以上に周りから信頼され、愛されていることを知り、恵一の冷静さや慎重な性格の背景にある深い思慮を理解し始めた。
#### 元に戻る日
入れ替わってから一週間後、二人は再び「シェア・ソウル」で再会した。店内は相変わらず落ち着いた雰囲気で、マスターは静かに微笑んでいた。
「やっぱり、体が元に戻ってる…」美咲は、久しぶりに自分の体に戻った感覚にほっとした。
「うん、でもこの一週間、すごく色々学んだ気がする。美咲がどれだけ感受性豊かで、友達や周りに支えられてるか、初めてちゃんとわかった気がするよ」と恵一が真剣な表情で言った。
「私も、恵一がどれだけ頑張ってるか知ったよ。いつも冷静で、時々距離を感じてたけど、それは自分を守るためでもあったんだね。ごめんね、もっと理解してあげればよかった」美咲も目を伏せながら答えた。
二人はその後、以前よりも深い理解と信頼のもとで付き合いを続けることになった。互いの違いを尊重し、それを補い合うことで、さらに強い絆を感じるようになった。
そして「シェア・ソウル」は、その後も静かに佇み、訪れるカップルたちの心をシェアし続けているのかもしれない。
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