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涼介と花
しおりを挟む街の片隅にある古びた喫茶店「シェア・ソウル」。その店には、噂があった。恋人同士が1つのジュースを2本のストローで一緒に飲むと、1週間だけ身体が入れ替わるというものだった。信じる人もいれば、単なる都市伝説と笑い飛ばす人もいる。
そんなある日、店の扉を押して一組のカップルが入ってきた。
#### 登場人物
**亮介(りょうすけ)**:26歳の会社員。どちらかというと無口で真面目。恋人の花と付き合って1年になるが、まだ彼女の心を完全には理解できていないと感じている。
**花(はな)**:25歳の美容師。明るく社交的で、恋人の亮介に対して少し不満を感じていた。彼が自分の気持ちをもっと理解してくれたらと思っているが、なかなか口に出せない。
二人はその日、たまたま「シェア・ソウル」を見つけ、特に何も考えずに入ってみた。店内は落ち着いた雰囲気で、どこか懐かしい香りが漂っていた。カウンターの奥に立つマスターは、優しい微笑みを浮かべていた。
「何を注文しましょうか?」と、マスターが尋ねる。
「せっかくだし、特別なジュースとかある?」と花が訊ねた。
マスターは一瞬だけ、いたずらっぽい笑みを見せたが、すぐに真面目な顔に戻り、メニューを渡す。
「こちらのスペシャルドリンク『シェア・ソウル・ジュース』をどうぞ。おすすめです。」
「なんか面白そうだね、これにしよう!」と花が明るく提案すると、亮介も軽く頷いた。
ジュースが運ばれてきた。グラスには鮮やかなピンク色の液体が満たされ、二つのストローが仲良く並んで差し込まれていた。
「恋人飲み、しようか?」と花が言い、二人はお互いに微笑み合った。
「恥ずかしいけど、まぁ、たまにはこういうのもいいか」と亮介は照れながらもストローに口をつけ、二人で同時にジュースを吸った。
一瞬、二人は目を見合わせ、そして…
#### 入れ替わり
翌朝、亮介は目を覚ますと、何かが違うことに気づいた。体が軽い。いや、違う、体が小さい。彼は自分の手を見つめ、驚愕した。手は彼のものではなかった。まるで…花の手だった。
「何だこれは!?」
隣で寝ていた自分の体がもぞもぞと動き、花の声で叫んだ。「ちょ、ちょっと待って、亮介、これって…!?」
二人はすぐに事態を理解した。身体が入れ替わっている。まさか、昨日の「シェア・ソウル・ジュース」のせいでこんなことに…?
#### 入れ替わった生活
最初は戸惑い、混乱した二人だったが、次第にこの奇妙な状況を利用してみることにした。亮介は花の生活を通じて、彼女がどれだけ忙しく、またどれだけ人間関係に気を遣っているかを身をもって知った。一方、花は亮介の仕事の大変さや、彼が自分の気持ちを言葉にするのが苦手な理由を理解するようになった。
仕事中、亮介(中身は花)は同僚からの無言のプレッシャーを感じ、普段亮介がいかにストレスを抱えていたかを痛感する。一方、花(中身は亮介)は美容院での慌ただしい日常に圧倒され、体力と集中力がどれほど必要かを理解した。
夜、家に帰ると二人はお互いの一日を共有した。今まで知り得なかったことを知ることで、次第にお互いに対する理解が深まっていった。
#### 元に戻る日
入れ替わってからちょうど一週間が経った朝、亮介と花は再び自分たちの体に戻っていた。元に戻ったことにほっとする一方で、二人の心には新たな感情が芽生えていた。
「花、今まで君がどれだけ頑張っていたか、全然気づいていなかった。本当にすごいよ。」亮介は素直に感謝の気持ちを伝えた。
「亮介も、私よりずっと大変だったんだね。私、あなたのこと、もっと理解できるように努力するよ。」花は微笑んだ。
その後、二人は以前よりも深い絆で結ばれるようになった。喧嘩も減り、お互いのことをもっと大切にするようになった。
あの不思議な体験がなかったら、二人は今ほどお互いを理解し合えなかったかもしれない。恋人飲みで身体が入れ替わるなんて、誰が信じるだろう?でも、二人にとってそれは何よりも大切な思い出となった。
そして今日も「シェア・ソウル」では、新たなカップルが1つのジュースを2本のストローでシェアしている…
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