バーチャル女子高生

廣瀬純一

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バーチャルな私の家族

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陽介が仮想空間「アカシア学園」の中で「朝比奈ひより」という女子高生として生活を始めて数ヶ月が経った。学校生活にも慣れてきた頃、ある日ふと思った。

「ひよりの家って、どんな感じなんだろう?」

陽介はこれまで学園内での活動に夢中で、アバターの自宅を訪れたことがなかった。興味本位で地図アプリを開き、ひよりの住むアパートへ向かうことにした。

---

ひよりの家は、学校からほど近い場所にある可愛らしい1LDKのアパートだった。玄関のドアを開けると、明るく整った部屋が広がっていた。壁には花柄の壁紙が貼られ、小さなキッチンとシンプルな家具が並んでいる。

「結構いい部屋じゃないか…?」

そう思って部屋の中を歩いていると、ふと背後から声がした。

「えっ…誰?」

陽介は驚いて振り返る。そこに立っていたのは、ひよりそのもの。いや、厳密には、自分自身が操作していない「ひより」の姿だった。

---

「あなた、誰?どうして私の家にいるの?」

自分そっくりのひよりが警戒心を露わにしながら尋ねてくる。陽介は焦りつつも、何とか説明を試みた。

「えっと…その、僕もひよりなんだ。いや、本当は現実では別の人間で…」

自分の存在をどう説明するべきか迷う中、相手のひよりは目を細め、少し考え込んだ。

「なるほど…あなたが操作してる私ってこと?」

「そう!そうなんだよ!」

不思議と納得した様子のひよりは、肩の力を抜いて微笑んだ。

「なんだか、変な話ね。でも、まあいいわ。せっかく来たんだし、家を案内してあげる。」

---

部屋の隅々を見せてもらいながら、二人は打ち解けていった。アバターのひよりは、現実の陽介では思いつかないような趣味や特技を持っていた。

「これ、料理?ひよりって料理できるの?」

「当然よ。見て、私が作ったバーチャルケーキ!」

キッチンには精巧に作られたショートケーキが置かれていた。陽介は現実では料理が得意ではないため、そのスキルに驚いた。

「すごい…まさか、僕がこんなことできるなんて…」

---

しばらくして、玄関のドアが開き、元気な声が響いた。

「ただいまー!」

小さな女の子が駆け込んできた。彼女は小学4年生くらいの姿で、大きな瞳とポニーテールが印象的だった。

「お母さん、今日は早いね!あれ、この人誰?」

陽介は目を丸くした。

「お母さん…?」

「そうよ。この子は私の娘、菜々美。私たちのデータ上の子供ってわけ。」

「えっ、子供までいるのかよ!?」

仮想空間では、アバターがAIのサポートを通じて、家族や友人関係を築くことが可能だったらしい。陽介が知らない間に、ひよりは「娘」を育てていたのだ。

---

菜々美は陽介にもすぐに懐き、「お姉ちゃんみたい!」と無邪気に笑って手を引っ張る。陽介は戸惑いつつも、家族ごっこのような感覚に少し楽しさを覚えた。

「陽介として生きる現実」と「ひよりとして生きる仮想世界」のギャップが広がる中、陽介は心の中でこんなことを思った。

「現実じゃ経験できないけど…こんな関係も悪くないかもな。」

---

その日は、仮想の家族とともに菜々美の大好きなオンラインボードゲームをして、楽しい夜を過ごした。陽介はログアウトする前、ひよりに小さくつぶやいた。

「また来てもいいか?」

「もちろんよ。今度はもっとちゃんと母親らしく振る舞ってみせるわ。」

陽介は少し照れ笑いを浮かべながらログアウトした。

---

現実の世界に戻った陽介は、椅子に深く座り込んで思った。

「俺に家族ができるなんて、思いもしなかったな…」

仮想空間での生活は、次第に彼の心に新しい風を吹き込んでいくのだった。
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