夫の浮気

懲りない夫

再び洋介の帰宅が遅くなり始めた。沙織は、以前と同じ香水の残り香や、少しだけよそよそしい態度に気づき、胸が締め付けられるような不安を覚えた。もしかしたら、あのときの警告は無意味だったのだろうか…。そう思うと、彼を問い詰めることもできず、悶々とした気持ちで夜を過ごしていた。

**再びの入れ替わり**

ある夜、遅く帰宅した洋介が眠りについたその翌朝、沙織が目を覚ますとまたしても視界に異変があった。今度も、彼の視点で、自分の顔がすぐ目の前に見えていた。「また…？」と困惑しながらも、同じように入れ替わってしまったことに気づいた。

二人は朝のうちに向かい合い、話し合おうとしたが、どうしても腑に落ちない何かが胸に引っかかっていた。以前と違って、どこか不安定な感覚が体にまとわりついているのだ。

「今回は…どうすれば元に戻れるんだ？」

洋介が不安げに言葉を口にすると、沙織も同じ疑問が浮かんでいた。以前の入れ替わりは、数時間後には自然に戻っていた。だが、今回は一日が経っても、二人の体は元に戻る気配がないままだった。もしかして、これは単なる「浮気への警告」以上のものなのではないかと、二人の心に薄暗い予感がよぎった。

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**葛藤と告白**

日が経つにつれ、二人は日常生活の中で、それぞれの立場を通じてお互いの感情や心の奥底にある思いを深く知ることになった。沙織は洋介の職場での人間関係のストレスや責任の重圧を痛感し、洋介は沙織が日常生活で抱える小さな不安や、家庭への尽力がどれほど大変かを身をもって理解した。

それでも、なぜ体が元に戻らないのか、疑問は消えなかった。ある夜、二人は真剣に向き合い、初めて本当の気持ちを話し合った。

「正直、浮気をしたのは、仕事の息抜きというか、ちょっとした逃げ場がほしかったからなんだ…。でも、それは沙織には言えなくて…。」

洋介の告白に、沙織は沈黙しながらも、彼の心の弱さと向き合っている自分を感じた。彼の言葉は許しがたいものであったが、同時に彼の孤独を理解できる気もしていた。

「でも、私は洋介がどうであれ、私たちがこれまで築いてきたものを守りたかったの。だけど、もしもこれが『本当のあなた』なら…私もこれ以上は耐えられない」

沙織がその言葉を口にした瞬間、二人は静かに涙を流していた。そしてその夜、二人は本当の意味で互いに理解し合い、初めてお互いの心の底からの告白を果たした。

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**新たな現実として**

しかし、二人が心を開き合ったとしても、元に戻る兆しは見えなかった。数週間が過ぎ、二人はそれぞれの体で生活を続けることに慣れ始め、周囲の人々にも少しずつ自分たちの変化を隠さずに説明し始めた。ある日、洋介の職場の同僚が、「なんだか性格が丸くなったみたいですね」と話しかけてくるのを聞いた沙織は、ふと苦笑いしながら答えた。「変わったことを認めると、案外、人は受け入れてくれるものなのかもしれない」と思うようになった。

二人は今の姿のまま、それぞれ新たな視点で人生を歩み始めた。この入れ替わりは決して元に戻ることはないかもしれないが、沙織も洋介も、それをただ「受け入れる」という選択をするほかなくなっていた。

もしかすると、これは二人に与えられた「最終的な形」なのかもしれない。沙織は新しい洋介としての役割を見つけ、洋介もまた沙織としての生活に充実を見出し始めた。彼らの関係は新しい形で再構築されていき、体を入れ替えたままの人生は、二人にとって新しい愛の表現の一つとして、少しずつ確かなものになっていった。