性別を選択する銭湯

廣瀬純一

文字の大きさ
上 下
7 / 10

恋魂の湯

しおりを挟む
ある山奥に、不思議な伝説が残る温泉があった。その温泉は「恋魂の湯」と呼ばれ、昔から「両想いのカップルがこの温泉に入ると、男女の体が入れ替わる」と語り継がれていた。カップルの愛を試す温泉として、興味本位で訪れる人もいれば、恐れて近づかない者もいた。しかしその噂を信じる者は少なく、伝説はまるで昔話のように扱われていた。

そんなある日、付き合って3年目のカップル、亮太と美咲は週末の旅行先でこの「恋魂の湯」のことを知った。二人はお互いに忙しい日々を過ごしており、久しぶりの旅行でリラックスするためにこの温泉宿を訪れた。伝説の話を聞いた美咲は、半分冗談のように亮太に提案した。

「ねえ、せっかくだし、入ってみない?体が入れ替わるなんて、面白そうじゃない?」

亮太は最初は笑って聞き流していたが、美咲が本気で入るつもりだとわかると、少し戸惑いながらも興味が湧いてきた。

「まあ、そんなことあるわけないだろう。でも、せっかく来たんだし、試してみるか。」

二人は旅館の奥にある混浴露天風呂「恋魂の湯」へと向かった。山間にひっそりと佇むその温泉は、木々に囲まれ、静かな雰囲気に包まれていた。湯気がゆらゆらと立ち昇る湯船に、二人は一緒に足を踏み入れた。

「本当に何か起こるのかな?」美咲は軽く笑いながら、湯に浸かっていたが、亮太も同じように湯に身を沈めた瞬間、突然不思議な感覚に襲われた。湯の温かさが全身を包み込むと、視界がぼやけ、頭がぐるぐると回るような感覚が広がった。

「え、なにこれ…!」亮太が叫び声を上げようとした瞬間、彼は自分の声が妙に高くなっていることに気付いた。そして、目の前にいる美咲を見ると、彼女の表情も驚愕に満ちていた。

「亮太…?あれ、私…おかしい…!」美咲の声が低くなっている。

二人は自分たちの体を確認しようと湯の中で動揺した。亮太は自分の手を見ると、それは細く、滑らかな美咲の手になっていた。一方、美咲はたくましい亮太の体を見て、目を見開いた。

「本当に、体が入れ替わってる…!」

混乱の中で、二人は一旦温泉から出て、裸で向き合った。亮太は美咲の体になっており、美咲は亮太の体になっていた。最初はショックと戸惑いでお互いどうしていいかわからず、黙り込んでいたが、次第にその状況が現実だと理解し、少しずつ落ち着きを取り戻していった。

「え、じゃあ今、私が亮太で、亮太が私なの?」美咲は、自分の低い声に慣れず、驚いた様子で言った。

「そうみたいだな…。でも、これ、どうやって元に戻るんだ?」

二人はしばらくお互いの体を不思議そうに眺めていたが、次第にその状況を楽しみ始めた。亮太は美咲の体で、普段気にしていなかった体の動きや仕草が新鮮で面白かった。美咲もまた、亮太の体を使って男性の視点や感覚を体験し、普段の亮太の気持ちに少し近づけたような気がした。

「こうやって男の体って動いてるんだね。なんか不思議だけど、ちょっと面白いかも。」と美咲が言うと、亮太も「お前の体、こんなに柔らかいんだな…。普段は気づかないことだらけだな」と照れくさそうに答えた。

その後、二人は旅館に戻り、温泉での体験を話そうとしたが、伝説が現実になったことを話すのは少し恥ずかしかった。どうやら元に戻る方法は、二人が心からお互いを理解し、愛を再確認することだと古い旅館の本に書かれていた。

「お互いのことをもっと知って、深い理解を持てば元に戻るってことか…。なんか、やっぱりこの温泉、ただの温泉じゃないんだな。」と亮太が言うと、美咲は笑顔で頷いた。

その夜、二人はお互いの体験や気持ちについてじっくりと語り合った。普段言えなかったこと、些細な気持ちのすれ違い、そして相手に対する本当の思いやりを感じ取る時間となった。

翌朝、再び「恋魂の湯」に浸かると、不思議なことに二人は元の体に戻っていた。温泉の魔法が解けた瞬間だった。

「やっぱりこの温泉、すごいな…。でも、何よりもお前ともっと深く繋がれた気がする。」亮太はそう言って、美咲の手をそっと握った。

美咲も微笑んで「うん、これからはもっとお互いを大事にしようね」と答えた。

「恋魂の湯」は、二人にとって特別な場所となり、体が入れ替わった経験は、二人の絆をより深めるものとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

不思議な水着

廣瀬純一
ファンタジー
水着を着ると性転換する話です。

性転換スーツ

廣瀬純一
ファンタジー
着ると性転換するスーツの話

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

おもらしの想い出

吉野のりこ
大衆娯楽
高校生にもなって、おもらし、そんな想い出の連続です。

ジェンダーレス社会

廣瀬純一
SF
性転換が手軽にできる社会の話

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

処理中です...