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男の水着
しおりを挟む夏の海は、何かが始まる予感を秘めていた。私は砂浜に座り、軽く潮風を感じながら、隣にいる幼馴染の修介をちらりと見た。彼は黙って波打ち際を見つめている。
「ねぇ、これ着てみない?」突然、修介が私に一枚の男性用水着を差し出した。鮮やかな青と白のボーダー柄で、私が普段選ぶような女性的なデザインではない。
「えっ、冗談でしょ?なんで私が男物の水着を…」私は困惑しながらも、彼の顔を伺った。いつもは冗談ばかり言っている修介が、今日はどこか真剣な表情をしている。
「ちょっとした冒険だと思って。着てみてほしいんだ」彼の声には、どこかしら緊張感が漂っていた。私は何も言い返せず、ただ彼の提案に従うことにした。
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私は更衣室に入り、水着を手に取った。違和感を覚えつつ、女性らしいワンピースタイプの水着を脱ぎ捨て、目の前の男性用水着に足を通した。その瞬間、何かが体中を駆け巡った。
筋肉が引き締まる感覚。胸が平らになり、腕や肩が少しずつたくましくなっていく。鏡を見つめると、そこには短髪で鋭い目つきをした一人の青年が立っていた――自分とは全く違う姿。いや、まさに「僕」だった。
「嘘…これ、私?」震える声で呟くが、声もまた低くなっていた。動揺し、手を顔に当ててみると、触れる肌の感触もどこか粗く、硬い。以前の自分はどこにも見当たらない。
「どうしてこんなことに…」
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更衣室から出ると、修介が待っていた。私の姿を見ると、彼は満足そうに微笑んだ。
「やっぱり、君もこうなると思ったよ」
「修介、これどういうこと?私、男になっちゃった…」戸惑いながらも、自分が完全に男性として振る舞っていることに驚いた。立ち姿、声の響き、何もかもが自然に「男」としての自分を作り出している。
「その水着には、特別な力があるんだ。着た人を男性に変えるんだよ。君もそうだけど、僕も同じ水着を着ている」修介は自身の体を示しながら言った。
「え?君も?」私は驚いて彼を見つめたが、彼は変わらず自分の姿だった。
「僕の場合は元々男だけど…君には一度、こっち側の感覚を知ってほしかったんだ。どんな風に世界が見えるのか、どんな風に感じるのか…」
その言葉には何か深い意味があるように感じた。今までずっと、私は女性として生きてきた。でも、彼の言う「こっち側」という言葉が胸に響く。まるで私が知らないもう一つの世界が、そこに広がっているかのようだった。
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午後の海風が吹く中、私は修介と並んで歩いていた。自分の足音がどこか重く、地面にしっかりと根を張るように響くのが感じられる。体の動き一つひとつが力強く、視界も以前より広がっている気がした。
「どう?気持ちが変わった?」修介が静かに尋ねてきた。
「うん…なんだか、自分が強くなった気がする。体だけじゃなくて、心もね。今までとは違う視点で世界を見てるみたい」私は自分でも驚くほど、自然にその変化を受け入れていた。
「そうだろう。男であることも、女であることも、それぞれが持つ感覚が違うんだ。でもその違いを理解することは、すごく大事なことだと思うんだよ」
修介の言葉が、今ははっきりと分かる。男性としての体を通して、私は新たな一面を知った。そして、それは決して悪いものではなかった。むしろ、これまで知らなかった自分に出会えたような気がした。
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夕方、私は再び女性の水着に戻り、元の姿に戻った。しかし、あの短い時間の間に体験したことは、私の心に深く刻まれていた。
「ありがとう、修介。なんだか新しい自分を見つけた気がする」
修介は笑顔で頷いた。「また、いつでも試してみたくなったら言ってくれよ。君にはその選択肢があるからね」
私は海に沈む夕陽を見つめながら、深く息を吸い込んだ。そして、いつか再びこの不思議な感覚を味わってみたいと思った。その時、私はまた新しい自分を発見するのだろう。
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