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時を超える序章
しおりを挟む健一はゆっくりと周りを見渡した。目の前に広がるのは、確かに大学の教室だったが、机や椅子、黒板のデザインがどこか古い。窓の外には、健一が知らない形の建物が立ち並び、人々の服装もどことなく時代がかった印象だった。
「これ、本当に2023年なのか……?」
おそるおそるポケットからスマートフォンを取り出した。しかし、画面には「圏外」の表示。ネットワークどころか、時計も正確な時を示していないようだった。
教室にいた学生たちがざわざわと動き始める中、健一はその中に紛れ込むようにして出口へと向かった。廊下を進むと、掲示板に貼られた大学の案内が目に入る。そこにはこう書かれていた。
**「平成5年(1993年) 春学期 クラス割り」**
健一は息を呑んだ。
「1993年……? まさか、本当に過去に……?」
信じられない思いで掲示板を見つめていると、後ろから誰かが話しかけてきた。
「おい、大丈夫か? 授業、そろそろ始まるぞ。」
振り返ると、丸眼鏡をかけた青年が立っていた。優しそうな顔立ちで、健一と同じ年くらいに見える。
「あ、ああ、ありがとう。でも……その、ここが何年なのか聞いてもいいかな?」
「何年って……平成5年だけど。もしかして寝ぼけてる?」
その言葉に健一はさらに困惑した。どうやら、本当に1993年に来てしまったらしい。
---
### 「新しい出会い」
授業の合間、健一はノートを取り出し、ページを開いた。相変わらず白紙のままだったが、最初のページの「西暦を記せ」という文字だけが奇妙に目立っている。
「本当に、このノートが原因なんだな……。」
健一がそう呟いていると、丸眼鏡の青年が近づいてきた。名前を聞くと「田中」と名乗り、話しているうちに、どうやら気さくで親切な性格であることがわかった。
「健一って言うのか。君、何か変わってるよな。さっきも変なこと聞いてきたし。」
「うん、まあ、ちょっと色々あって……。」
健一は軽く話を濁したが、田中は気にする様子もなく、健一を色々と案内してくれた。大学の構内やカフェテリア、さらには1993年ならではの流行や文化についても話してくれる。
「そっか、この時代にはスマホがないんだ……。」
田中の話を聞きながら、健一は1993年という時代に少しずつ馴染んでいく自分を感じていた。だが、心の中では一つの疑問がずっと消えなかった。
「このノートは、なぜ俺の元に来たんだ? そして、元の時代に戻るにはどうすればいい?」
---
### 「決意」
その夜、下宿先の古びたアパートの一室で、健一は再びノートを手に取った。机の上に広げ、ペンを持ちながら、考え込む。
「もし、このノートがただの偶然じゃなくて、何か意味があって俺のところに来たんだとしたら……。」
その意味を突き止めることが、この時代に来た理由なのかもしれない。
「とにかく、やれることをやってみよう。」
健一はペンを握りしめ、ノートに次の西暦を書き込むべきか悩みながらも、この不思議な出来事に立ち向かう決意を固めた。
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