とある会社の秘密の研修

廣瀬純七

文字の大きさ
9 / 51

リアルの性別とバーチャルの性別

しおりを挟む
 
翌朝——。  

結衣は、まだ夢の中にいるようなぼんやりした頭で目を覚ました。  

昨日の寮長との会話がずっと頭から離れない。  

**「この世界にはNPC(AI)が混ざっている……?」**  

今まで普通に話していた相手が、本当に生身の人間なのか、それともコンピューターが生み出した存在なのか——その境界が分からなくなる。  

結衣はそんなモヤモヤを抱えたまま、社員寮の食堂へ向かった。  

### **◆**  

食堂では、すでに何人かの社員が朝食をとっていた。  

「あ、中村さん、おはよう!」  

昨日、お風呂で会った先輩社員が手を振ってくれる。  

「お、おはようございます……!」  

ぎこちなく返事をしながら、結衣は席に着いた。  

食事を取りながら考えるのは、やはり昨日のこと。  

——あの先輩はNPCなのか?  
——高橋先輩は本物の人間なのか?  

**「……もし、AIだったら?」**  

そう考えた瞬間、急にこの世界が別のものに見えてきた。  

まるで映画やゲームの中にいるみたいに、どこまでがリアルでどこまでが作られたものなのか分からない。  

「ふふっ、そんなに難しい顔をして、どうしたの?」  

突然、背後から柔らかい声がした。  

振り返ると、そこには昨日の寮長が立っていた。  

「寮長さん……。」  

「ちょっとお話ししない?」  

促されるままに、結衣は食堂の隅の席へと移動した。  

### **◆**  

「昨日の話、まだ気になっているみたいね?」  

寮長はそう言って、優しく微笑んだ。  

結衣は頷いた。  

「……どうしても気になってしまって。誰が本物の人間で、誰がNPCなのか……。」  

「そうね、それは研修を受ける上で重要なポイントかもしれないわね。」  

寮長はコーヒーを一口飲むと、続けた。  

「でもね、中村さん。もう一つ大事なことがあるのよ。」  

「大事なこと……?」  

「それは、**リアルの人間が操っているものでも、あなたのようにリアルの性別とは逆になっている場合がある**ということよ。」  

「——えっ?」  

結衣は思わず息をのんだ。  

「……それって、どういうことですか?」  

「そのままの意味よ。この世界には、リアルの男性がバーチャルでは女性として活動することもあるし、その逆もあるの。」  

「!!」  

衝撃が走った。  

「私みたいに……?」  

「そう。あなたはリアルでは男性だけど、ここでは中村結衣という女性。でも、他にも同じような人がいるかもしれないわよ?」  

「……!」  

**——じゃあ、昨日お風呂で会ったあの先輩は?**  
**——研修で指導をしてくれる高橋先輩は?**  

彼らは見た目の性別通りの人間なのか?  
それとも、リアルでは別の性別で、この世界では違う姿をしているのか?  

「……そんなの、見分けがつかない……。」  

結衣が小さくつぶやくと、寮長は微笑んだ。  

「そうね。でも、それがこのバーチャル研修の面白いところなのよ。」  

「面白い、ですか……?」  

「リアルでの性別に関係なく、あなたはこの世界で“中村結衣”として過ごす。そして、他の人もまた、リアルの自分とは違う形でここにいるかもしれない。」  

「……。」  

「つまりね、大事なのは**『その人が誰なのか』ではなく、『どんな人なのか』ということ**よ。」  

結衣は、その言葉を反芻した。  

**——リアルの性別ではなく、バーチャルでの自分がどうあるか。**  

今まで意識していなかったが、それはとても重要なことなのかもしれない。  

「……私にとっての“中村結衣”は、どんな人なんでしょうか。」  

ポツリとつぶやくと、寮長は優しく微笑んだ。  

「それは、あなたがこれから見つけることね。」  

結衣はそっと、自分の手を握りしめた。  

この三か月間の研修で、自分は何を見つけることができるのだろうか——。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

リアルメイドドール

廣瀬純七
SF
リアルなメイドドールが届いた西山健太の不思議な共同生活の話

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

ボディチェンジウォッチ

廣瀬純七
SF
体を交換できる腕時計で体を交換する男女の話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

大東亜架空戦記

ソータ
歴史・時代
太平洋戦争中、日本に妻を残し、愛する人のために戦う1人の日本軍パイロットとその仲間たちの物語 ⚠️あくまで自己満です⚠️

処理中です...