バグで入れ替わる男女

廣瀬純七

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治験

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序章:異例の治験
治験。それは未来の医学を支えるために不可欠なステップだが、常にリスクを伴う。

ある日、製薬会社「ジェノファーム」が新たな薬の治験を発表した。その薬は、神経伝達の強化と修復を目的としたもので、重度の神経障害や記憶喪失を防ぐためのものだった。多くの治験者が集まる中、偶然にも参加することになったのが、カズキとミサキの二人だった。

カズキは26歳の営業マンで、常にストレスにさらされる忙しい日々を送っていた。少しの金銭的報酬と、治験という非日常的な経験に興味を持ち、参加を決めた。一方、ミサキは28歳のフリーランスデザイナーで、少しでも神経を活性化させてアイデアの閃きを得ようと考え、薬に期待を寄せていた。

二人はまったくの他人であり、治験の会場で顔を合わせることもなかった。注射による薬の投与は、特に大きな問題もなく進行していった。だが、その夜、カズキとミサキは共に奇妙な夢を見た――夢の中で、二人は互いに相手の視点から世界を見ていたのだ。

意識の転換
翌朝、カズキが目を覚ますと、周りの風景が何か違って感じられた。見覚えのない部屋、柔らかい感触のシーツ、そして自分の身体が異常に軽いことに気づいた。さらに、手を見下ろすと、それは自分のものではない、女性の手だった。

「…なんだ、これ?」

慌ててベッドから飛び起き、鏡を見たカズキは衝撃を受けた。そこには、ミサキの姿が映っていた。カズキは理解できないまま、頭を抱えて座り込んだ。

一方、ミサキもまた、自分の体に起こった変化に気づいていた。目覚めた瞬間、自分の声が低く、体が重くなったことに違和感を覚えた。彼女もまた鏡の前に立ち、自分が見知らぬ男性――カズキの身体に入っていることを確認した。

二人はパニック状態に陥ったが、しばらくして落ち着きを取り戻すと、治験で投与された薬が原因である可能性を考え始めた。

不慣れな日常
カズキ(ミサキの身体)は、急いで治験を行っていた病院に連絡を取ろうとしたが、受付では原因がわからず、すぐに解決する手段もないと言われてしまう。ミサキ(カズキの身体)も同様の対応を受け、途方に暮れる二人だったが、連絡を取り合い、互いの身体での生活を協力して乗り越えようと決めた。

しかし、簡単にいくはずがなかった。

カズキは女性の身体に慣れておらず、歩く姿さえぎこちない。細身のミサキの身体では、力が出ないどころか、普段の服装さえも違和感だらけだった。さらに、ミサキの仕事であるデザインのセンスやスキルを維持することができず、締め切りに間に合うかどうかさえ危うい状況になっていた。

一方で、ミサキもまた、カズキの仕事に悪戦苦闘していた。営業職という外回りが多い仕事で、体力は必要だし、男性としての社交術も要求される。ミサキは男性として振る舞おうとするものの、違和感が拭えない。さらには、カズキの同僚との会話に困惑し、普段の自分なら絶対にしないような言動に直面することになる。

意識のシフト
数日が過ぎ、二人はようやく少しずつ互いの身体に慣れてきた。カズキはミサキの繊細な感覚を活かして、彼女の仕事を手伝おうとし、デザインの基礎を学び始めた。逆に、ミサキはカズキの営業の仕事をこなすために、男性的な視点を取り入れ、少しずつ周りと打ち解けていくようになる。

互いに支え合う中で、二人はお互いの性別や生活スタイルの違いだけでなく、それぞれの考え方や感じ方にも気づき始めた。カズキはこれまで理解できなかった女性の視点や感情に寄り添うことを学び、ミサキは男性としてのプレッシャーや責任感を知るようになる。二人は次第に、ただ身体が入れ替わっただけでなく、精神的にも変化していることを感じていた。

解決とその後
一週間後、製薬会社の技術者がようやくこの異常事態を解明し、意識の入れ替わりを解消する方法を見つけた。薬によって、神経伝達の一部が誤って強制的にリンクされ、互いの意識が肉体を超えて結びついてしまったことが原因だった。

治療が施され、二人は無事に元の身体に戻ることができた。しかし、元に戻った後も、彼らはただ「元に戻った」というだけでは終わらなかった。

カズキは以前よりも感受性が豊かになり、周囲の人々に対してより深く配慮できるようになっていた。また、ミサキも男性としての視点を活かして、より大胆で積極的な行動を取るようになった。互いに肉体の違いを超えて得た新たな経験と視点は、彼らの日常に大きな影響を与え続けた。

二人はこの経験を通じて、単なる性別や身体の違い以上に、人間の意識や感覚がどれほど奥深いものであるかを理解するようになった。そして、再び会うことになったとき、微笑み合いながら「また何かあったら、お互いに助け合おう」と約束したのだった。
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