フェイススワップ

廣瀬純一

文字の大きさ
上 下
6 / 7

紗季と亮太

しおりを挟む
### 顔を交換した夜

大学のキャンパスの片隅にある古いアパート、その一室に、二人の大学生がいた。男の子は亮太、女の子は紗季。二人は同じサークルに所属しており、今日はその打ち上げの後、二人で亮太の部屋に来ていた。

「ねえ、最近見たんだけどさ、顔を交換するやつ、知ってる?」  
紗季が突然そんなことを言い出した。彼女はスマホをいじりながら、興奮気味に亮太に話しかけた。

「顔を交換?なんだよ、それ。まさかアプリの話とかじゃないだろうな?」  
亮太は半ば笑いながら彼女を見た。紗季の好奇心旺盛なところは好きだったが、時々信じられないようなことを言い出すから、冗談かと思ったのだ。

「違う違う、ちゃんとした技術だよ。なんか、クリームを塗ると顔を交換できるってやつ。最近ネットで話題になってるんだって。」  
紗季はスマホでそのクリームの広告を亮太に見せた。

「へえ、本当にそんなのあるのか。で、まさか…やってみたいってこと?」  
亮太は少し興味を引かれながらも、まだ半信半疑だった。

「もちろん!こんなの面白そうじゃん!私たちで試してみようよ!」  
紗季は楽しそうに笑って、カバンからそのクリームの入った小さな瓶を取り出した。

「お前、もう買ってきてるのかよ!」  
亮太は笑って呆れたが、好奇心には勝てなかった。いつもこうやって無茶なことを提案してくる紗季に、彼はいつも付き合ってしまう。

「まあ、せっかくだし、やってみるか。」  
亮太は観念して、紗季の提案に乗ることにした。

二人は顔を洗い、クリームをそれぞれの顔に塗り始めた。ひんやりした感触が肌に広がり、徐々に顔が緩んでくるのを感じた。

「ねえ、顔って、ほんとにこうやって外れるんだね。」  
紗季は、自分の顔をそっと触りながら驚きの表情を浮かべた。少しずつ、顔が浮き上がってきて、まるでマスクを剥がすかのように、顔が外れていった。

「おお、ほんとだ!すげえ!」  
亮太も自分の顔を外し、鏡に映る顔のない自分の姿に驚いていた。二人は顔を交換するために、慎重にお互いの顔を手渡し合った。

「じゃあ、いくよ。顔、もらうね!」  
紗季が嬉しそうに言って、亮太の顔を自分の顔に押し付けた。亮太も同じように紗季の顔を自分の顔に装着した。

顔を交換し終えた瞬間、亮太は鏡を見て、思わず声をあげた。「うわ、これほんとにお前の顔になってるじゃん!」  
鏡に映るのは紗季の顔だが、声や体は亮太のままだ。紗季の特徴的な目や唇が自分のものになっているのは、奇妙で新鮮な感覚だった。

「ふふ、似合ってるよ、亮太!」  
紗季も鏡に映る「亮太」の顔を見ながら笑った。彼の顔をした紗季は、普段とは違う仕草で髪をかき上げ、亮太の顔で照れ笑いをしてみせる。

「なんか不思議だな。自分が女の子になったみたいだ。」  
亮太は鏡の前で、自分の新しい顔を何度も確かめていた。普段見慣れた紗季の顔が、自分の体についているというこの感覚が、奇妙で楽しかった。

「ねえ、亮太、これで外に出たらみんなびっくりするかな?」  
紗季がいたずらっぽく尋ねた。

「いやいや、さすがに外は無理だろ。バレるに決まってるって!」  
亮太は慌てて答えたが、心のどこかで少し興味が湧いた。こんな状況、普通じゃあり得ないし、ちょっとくらいなら外に出てもいいかもしれない、と。

「まあ、ちょっとだけならいいか…」  
亮太が渋々答えると、紗季は「やった!」と小さくガッツポーズをした。

二人はそのまま、顔を交換した状態で夜の街に出た。お互いの顔をしていることで、まるで新しい自分に生まれ変わったかのような気分になり、二人は人目を気にせず、街を歩いた。知り合いに出くわさないかと少しドキドキしながらも、二人はそのスリルを楽しんでいた。

「ねえ、私の顔で何かやってみてよ!」  
紗季が亮太に挑発するように言った。

「え、どういうこと?」  
亮太は戸惑いながらも、紗季の顔で何をすればいいのか分からなかった。

「例えば、女の子っぽく歩くとかさ!」  
紗季は亮太に無理難題を吹っかける。亮太は少し照れくさそうに、紗季の顔で女の子っぽく歩こうとしたが、どうしてもぎこちなくなってしまう。

「ぷっ、やっぱり無理だよね!」  
紗季は大笑いしながら、亮太の顔で男らしく大きな笑い声をあげた。

そんなふうにして、二人はしばらく顔を交換したまま、街で遊び続けた。普通なら絶対にできないようなことを、顔を交換したことで楽しめるという不思議な感覚に、二人は夢中になっていた。

その後、夜も更けてきた頃、二人は亮太の部屋に戻り、クリームを使って元の顔に戻ることにした。クリームを塗って、顔を再び剥がし、お互いの顔を返す。最初は簡単に外れた顔が、再び自分のものに戻ると、少しホッとしたような気分になった。

「ふーん、元に戻るとちょっと寂しいな。」  
紗季が元の顔に戻りながら、少し名残惜しそうに言った。

「まあ、たまにはこういうのも悪くないかもな。」  
亮太も微笑んで頷いた。

その夜、顔を交換したことで、二人はただの友達以上に、お互いのことを深く理解したような気がした。顔を変えるだけで、世界が違って見える。そんな不思議な体験を共有したことで、二人の関係もまた、少しだけ変わったのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の浮気

廣瀬純一
大衆娯楽
浮気癖のある夫と妻の体が入れ替わる話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

同僚くすぐりマッサージ

セナ
大衆娯楽
これは自分の実体験です

入れ替わった二人

廣瀬純一
ファンタジー
ある日突然、男と女の身体が入れ替わる話です。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

人妻の日常

Rollman
恋愛
人妻の日常は危険がいっぱい

お漏らし・おしがま短編小説集 ~私立朝原女学園の日常~

赤髪命
大衆娯楽
小学校から高校までの一貫校、私立朝原女学園。この学校に集う女の子たちの中にはいろいろな個性を持った女の子がいます。そして、そんな中にはトイレの悩みを持った子たちも多いのです。そんな女の子たちの学校生活を覗いてみましょう。

処理中です...