フェイススワップ

廣瀬純一

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変わりゆく私たち

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「これで、交換完了。」  
私たちは笑いながら鏡の前に立っていた。恋人の悠太と私は、顔を交換するという最新の技術に興味を持ち、試してみることにした。何年も付き合っているけれど、お互いのことをもっと深く知りたい、もっと近づきたいという気持ちが、私たちをこの決断に導いた。

顔を交換すること自体は、特に難しいものではない。専用のクリームを塗って、顔を取り外し、相手の顔と交換するだけ。お互いの顔をつけた私たちは、まるで鏡に映ったもう一人の自分を見るかのように、不思議な感覚に包まれていた。

「なんか、慣れないな。君の顔、思ったより軽い。」  
悠太が笑いながら、私の顔を撫でる。彼の声が、今は私の顔から聞こえるのが妙に違和感を覚えたが、それも新鮮だった。

「悠太こそ、顔が重そう。大丈夫?」  
私は彼の顔をつけたまま、少し大げさに肩をすくめて笑った。

その日は、お互いの顔でデートを楽しんだ。周りの人たちが私たちに気づくこともなく、まるでいつもの自分たちであるかのように振る舞った。ただ、いつもと違う視点で世界を見るのは、どこか新鮮で心が浮き立つような気がした。悠太の視点で世界を眺めると、彼がどれだけ多くのことを考えているか、少し感じ取れる気がした。

でも、夜になり、元の顔に戻ろうとしたとき、問題が起きた。

「…あれ?」  
悠太が少し焦った顔でクリームを塗り直しても、顔が剥がれない。私も同じように試してみたが、顔はぴたりとくっついたまま、元に戻らない。

「なんで?ちゃんとクリームを塗ったよね?」  
私は困惑しながら何度も自分の顔を触ったが、どれだけ試しても、顔が剥がれなかった。

「おかしいな…」  
悠太も額に汗を浮かべながら、鏡の前で顔を確認していた。私たちはその夜、何度も試してみたが、結局顔を元に戻すことができなかった。

次の日、私たちはクリニックに行った。医師は首をかしげながら、「こんなことは初めてだ」と言った。技術的な問題かもしれないが、顔交換システムは非常に安全だとされているため、解決には時間がかかるかもしれないと言われた。

「しばらく、このままで過ごすしかないみたいだね…」  
悠太がため息混じりに言った。

「そうみたい。でも、まあ、なんとかなるよね。」  
私は彼を元気づけようと笑って見せたが、その瞬間、自分が彼の顔をしていることを思い出し、少し奇妙な気持ちになった。

しかし、数日経つにつれて、私たちは奇妙な変化に気づき始めた。最初は、小さな違和感だった。私の体つきが少しずつ変わり始め、筋肉が固くなり、肩幅が広くなった。一方、悠太の体は少しずつ柔らかく、丸みを帯びていった。最初は気のせいだと思っていたが、次第にその変化は無視できないほど顕著になっていった。

「これ、もしかして…」  
悠太がある日、鏡を見つめながらつぶやいた。

「うん。私たち、体まで…変わってきてる。」  
私は、自分の体を見下ろしながら呟いた。胸は平たくなり、背も高くなり始めていた。悠太の方を見ると、彼の姿は私の体に近づいている。肩が細くなり、声も少し高くなっているのが分かった。

それからの変化は早かった。顔を交換してから一週間もしないうちに、私たちは完全に体まで異性化してしまった。私は彼の体つきになり、彼は私の体つきになった。服も合わなくなり、声も、仕草も、すべてが変わってしまった。お互いの内面までが少しずつ変わっていくような気がして、最初は怖かった。

「もう、元には戻れないのかもね。」  
ある夜、私たちはお互いの手を握りながら、そう話し合った。どれだけ専門家に相談しても、解決策は見つからず、私たちはこのまま新しい体と顔で生きていくしかなかった。

「でも、意外と悪くないかも。」  
悠太が笑った。今の彼は、私がかつて持っていた顔と体を持ちながら、以前と同じように優しく微笑んでいた。

「そうだね。私たち、見た目が変わっても、心は同じだから。」  
私も笑って、彼の手をぎゅっと握り返した。

顔も体も変わってしまったけれど、私たちはお互いを失わなかった。逆に、今まで以上に相手の気持ちや視点を理解できるようになった。愛とは、ただ見た目や体ではなく、心と心の繋がりだと改めて感じた。

これからも、私たちは新しい自分たちとして一緒に生きていく。見た目がどれだけ変わっても、私たちの絆は変わらない。
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