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サラリーマンの女子高校生体験
しおりを挟む主人公の田中翔太(35歳)は、毎日同じルーチンを繰り返すサラリーマンだ。朝の通勤電車の混雑、デスクワークに疲れ果てた体、上司からのプレッシャー。仕事の後には家に帰り、気がつけば一日が終わっている。最近は、「もっと違う人生を生きてみたい」という漠然とした願望さえ抱くようになっていた。
ある日、会社帰りに寄った家電量販店で、一つの宣伝が目に入った。「他者の一日をリアルに体験できる新感覚VR」というキャッチコピーだ。ふとした好奇心から、そのVRデバイスを購入した田中は、自宅でセットアップを終えると、早速体験を開始することにした。
### **朝――「目覚め」**
ヘッドセットを装着し、ソファに腰掛けてVRを起動すると、田中の視界が徐々に変わり始めた。画面が暗転し、次第に光が広がる。聞こえてきたのは、軽やかな目覚まし時計の音。そして、まるで自分の体ではないような感覚が体中を包む。
目を開けると、そこには知らない部屋。淡いピンク色のカーテン、机には可愛らしい小物が並び、ベッドの横には制服がかけられている。鏡に映ったのは、見慣れた自分ではなく、あどけない表情の女子高校生――「彼女」の姿だ。
「これが、女子高生の一日か…」
田中はまだ少し信じられないまま、制服に着替え、鏡に向かって整えた髪を確認する。その動作ひとつひとつがリアルで、自分が本当に高校生になったかのようだ。
### **通学――「電車と教室」**
田中は朝ご飯を食べ、家を出て、駅へと向かう。通学電車に乗ると、周囲は同じような制服を着た学生たちがぎゅうぎゅう詰めになっている。普段の通勤電車とは違い、誰も新聞やスマホで仕事のメールをチェックしているわけではなく、友達同士で話したり、音楽を聞いたりしている姿が目に入る。
「こんなに違うんだ…」と感じつつ、彼女の体で自然に友達に挨拶を交わし、教室へと足を運ぶ。高校の教室は懐かしいようでいて、新鮮だった。授業が始まり、教科書を開き、ノートを取る。内容は難しいわけではないが、田中は慣れない学習に少しだけ苦労していた。
授業中も、周囲の女の子たちがささやく声や笑い声が聞こえてくる。その中にいる自分がどこか不思議で、まるで青春の真っ只中に戻ったような感覚だ。
### **放課後――「部活動と友情」**
午後になると、授業が終わり、放課後の自由な時間がやってくる。田中は彼女の記憶に従い、軽音部の部室へと向かった。ギターを手に取って練習を始めると、すぐに友達が集まり、笑顔で話し合いながら演奏を楽しんだ。
普段の仕事の重苦しい空気とはまったく違う、軽やかで自由な時間だった。友達との絆や、何気ない会話、笑顔が溢れる瞬間が続く。彼女の一日を通じて、田中は忘れていた何かを思い出していた。それは、純粋に何かを楽しむ気持ち、そして仲間との時間の大切さだった。
### **夜――「日常への帰還」**
部活を終え、家に帰る途中、田中は思った。「この一日が終わったら、またいつもの自分に戻るんだろうか?」彼女の生活は想像以上に忙しく、楽しいものだったが、どこか儚くもあった。青春の一日が終わるのが惜しいという感覚が、胸の奥でわずかに疼いた。
自宅に戻ると、彼女は家族と夕食をとり、部屋に戻ってベッドに横たわる。スマホを手に取り、友達とメッセージを送り合い、笑顔を浮かべながら「おやすみ」と呟いた。そして、田中もまた目を閉じる。
ふと、ヘッドセットの画面が暗転し、現実の世界へと戻ってきた。ソファに座る田中は、思わず深呼吸をした。女子高生の一日は終わり、自分はまたいつものサラリーマンに戻ったのだ。
### **その後――「見つけたもの」**
翌日、田中はいつもの通勤電車に揺られながら、ふと前の日のVR体験を思い出した。彼女の一日を通じて感じたのは、彼が忘れていた「日常の楽しみ」だった。仕事の忙しさに追われ、自分自身のことすら見失いかけていた彼は、他者の視点から自分の生活を見つめ直すきっかけを得たのだ。
「自分も、もっと楽しむべきなんだな」
そう考えながら、田中はスマホをポケットにしまい、周囲の景色を少しだけ違う目で見つめ始めた。青春は一度きりかもしれないが、その感覚を持ち続けることは、どんな年齢でも可能だと気づかされたのだ。
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