謎の生物

地下室

翔太は咲良を救うために、地下室への階段を急いだ。家の地下室は長い間使われておらず、両親もほとんど立ち入らない場所だった。そのため、彼自身もこの場所にほとんど来たことがなかった。階段を下りるたびに、重くて湿った空気が彼を包み込み、まるでこの家全体が生きているかのような不気味な感覚を覚えた。

地下室の扉を開けると、埃っぽい臭いが鼻を突き、薄暗い中には古びた家具や段ボール箱が無造作に積まれていた。灯りはなかったが、スマホのライトを頼りに翔太は奥へと進んでいく。心臓が早鐘のように打ち、いつ何が飛び出してくるかわからない緊張感が襲いかかる。

「ここに……何かあるはずだ……」

翔太は思い出しながら、古い家系図や文書が収められていると言われていた棚を探した。そして、隅に積み重ねられた古い書類や箱の山を見つけると、片っ端から調べ始めた。ほこりを払いながら、一枚一枚の古びた紙をめくっていくと、やがて何か不気味な文書が目に入った。

それは、何百年も前にこの家が建てられた当時の古い儀式に関する記録だった。家系の祖先が何かの「契約」を結び、この土地に根付くように願ったという内容が書かれている。そこには「性転虫」という、古代の邪神を祀る儀式の詳細が記されていた。その神は、血を糧にし、信仰者に繁栄をもたらす代わりに、その子孫に災いをもたらす存在だとあった。

「性転虫……これがあの生物の正体なのか？」

翔太はその文書を震える手で握りしめながら、咲良が襲われている生物との関連性を直感的に理解した。この家そのものが、その邪神との契約によって呪われているのだ。祖先たちは繁栄を得る代償に、その後の子孫たちに男根虫を通して血を吸い取られるという運命を背負わされた。

「だから、あの生物が姉ちゃんに……」

翔太は絶望感に襲われながらも、諦めるわけにはいかなかった。文書の最後には、邪神を封印するための方法も記されていた。それは、契約を結んだ血筋の者が自らの血を捧げ、邪神を再び眠りにつかせるというものだった。しかし、その儀式は危険を伴い、成功する保証はないと書かれている。

「俺がやるしかない……」

翔太は決意を固め、文書に書かれた手順を頭に叩き込んだ。必要な道具を集め、家の中心にある「呪いの源」である場所で儀式を行わなければならない。彼は手早く地下室を探し、儀式に使う道具や器具を見つけると、それらを抱えて再び階段を駆け上がった。

咲良の部屋に戻ると、彼女の体はさらに青白くなっており、その生物はますます膨れ上がっていた。咲良は目を開けることなく、弱々しい呼吸を続けている。翔太の胸が締め付けられる思いだったが、今は迷っている時間はない。

「姉ちゃん、必ず助けるからな……」

翔太はそう呟き、文書に書かれていた通りに儀式を始めた。家の中心に位置するリビングに向かい、そこに儀式用の道具を配置していく。古い皿に自分の血を数滴垂らし、その血を呪符に染み込ませながら呪文を唱えた。儀式が進むにつれ、家全体が微かに揺れ始め、空気が重くなっていくのを感じた。

「これで……封印できるはずだ……」

翔太は祈るような気持ちで儀式を続けた。だが、その瞬間、家の中から不気味な音が響いた。まるで何かが蠢くような音だ。それは、床下から、壁の中から、そして天井から一斉に聞こえてくる。まるで家全体が生き物のように動き出したかのようだった。

「くそっ……間に合ってくれ！」

翔太はさらに強く呪文を唱え続けた。そして、ついに家の揺れが激しくなり、何かが大きな力で引き裂かれるような感覚が走った。次の瞬間、全てが静まり返った。

息を呑んで立ち尽くす翔太。家の中は、まるで何事もなかったかのように静かだった。彼は急いで咲良の部屋へ戻った。

咲良の体からは、あの巨大な生物がすっかり消えていた。彼女はまだ深く眠っているが、呼吸は安定しており、肌の色も徐々に元に戻っているようだった。

「助かった……のか？」

翔太は安堵し、そっと咲良の手を握りしめた。「性転虫」は再び封印されたのだろう。家は静まり、災厄は去ったように思えた。

しかし、翔太の胸にはまだ不安が残っていた。呪いは本当に完全に消えたのだろうか。それとも、この家に残る何かが再び目覚める日は来るのだろうか……。

その答えは、まだ誰にも分からなかった。