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美咲と拓也の結婚
しおりを挟む暖かな午後、穏やかな風が式場の庭を優しく吹き抜ける中、二人の結婚式はまさにクライマックスを迎えようとしていた。拓也――美咲の体に入ったままの彼――は、少し緊張した面持ちでウエディングドレスの裾を整えていた。
「まさか、こんな形で結婚するとはね……」
横にいる美咲――拓也の体を持つ彼女――が、白いタキシードに身を包んで隣に立っている。美咲は肩をすくめ、微笑んで拓也に顔を向けた。
「私も、人生でこんな経験をするとは思ってなかったけど……でも、拓也と一緒なら、どんな形でも構わないよ。」
拓也はその言葉に安心し、ふっと微笑み返す。二人は出会いの時から、さまざまな困難を乗り越えてきた。体が入れ替わるという、現実離れした状況に直面しながらも、いつも互いを支え合い、理解し、ここまでたどり着いたのだ。
結婚式が進む中、二人は神父の前に立ち、指輪の交換の準備が整った。美咲が手にした指輪を見つめ、少し照れくさそうに微笑む。
「こんなこと、拓也の体でやるとは思わなかったけど……」
「まあ、そう言うなよ。ドレスを着ているのも、なんかもう慣れたしな……」
二人は顔を見合わせて笑い合った。どちらの体にいるかは、もうあまり重要ではなくなっていた。彼らにとって大切なのは、心が通じ合い、互いに信じていること。それが何よりも大事なことだった。
指輪を交換し終え、神父が神聖な言葉を紡ぐ。
「それでは、新郎、新婦に祝福の言葉を捧げます。お二人は、困難を乗り越え、共に愛を育んできました。体がどうであれ、お二人の心はいつも一つです。」
神父の言葉に会場中が感動の空気に包まれる。親族や友人たちは、最初こそ二人の特異な状況に驚いていたが、今では全員が心から祝福を送っていた。
「それでは……新郎、キスをどうぞ。」
その瞬間、会場が静まり返った。美咲の体を持つ拓也と、拓也の体を持つ美咲が顔を見合わせ、笑みを浮かべた。
「じゃあ……いくか。」
「うん……拓也。」
ゆっくりと顔を近づける二人。周囲の歓声が薄れ、世界が二人だけのものになったかのような瞬間が流れる。そして、軽く唇が触れると、会場は一斉に拍手と歓声に包まれた。
その後、ガーデンに出て、友人や家族たちに囲まれて幸せそうな二人。美咲はワインを片手に笑顔で親しい友人たちと話し、拓也は少し照れながらも、美咲の親族に挨拶をしていた。
「拓也、これからどうする?」
ふと、美咲が尋ねると、拓也は空を見上げて微笑んだ。
「そうだな……とりあえず、今はこのままでいいんじゃないか? 俺たち、どんな体でも結局、相手を愛しているんだからさ。」
「うん、そうだね。」
二人は手を繋ぎながら、穏やかな風の中で立ち尽くした。体が入れ替わったままの生活には戸惑いもあったが、それ以上に強くなった愛と絆がそこにはあった。どんな未来が待っていようと、二人なら乗り越えられる。そう信じられる関係だった。
「これからも、ずっと一緒だよな?」
「もちろんだよ。永遠に。」
二人は笑い合いながら、幸せそうに肩を寄せ合った。美咲と拓也は、互いに愛と信頼を持って、新しい人生を歩んでいくことを決意した。
体が入れ替わっても、変わらないのはその愛。二人は、どんな困難でも一緒に乗り越えていけることを確信していた。そして、今、この瞬間から新しい人生が始まった。
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