美咲の初体験

廣瀬純一

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満員電車で初体験

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朝のラッシュアワー。いつも通り、満員の電車に乗り込んだ拓也は、美咲の体に入ったまま、息苦しさを感じていた。自分の身長が低くなり、周囲の乗客に埋もれてしまう感覚が、これまでに経験したことのないもので、圧迫感と不安が胸を締め付けた。

「満員電車って、こんなにきつかったっけ……?」

彼は無理やり体を押し込んで、何とか周囲に寄りかかるようにしてバランスを取っていた。慣れない女性の体での通勤は、すでに彼のストレスを増幅させていたが、そこにさらに不安を感じる出来事が起きた。

電車がガタンと揺れた瞬間、背後から誰かの手が軽く彼の腰に触れたのだ。

「……え?」

最初は偶然だと思い、気にしないようにした。しかし、その手はじわじわと腰のラインをなぞるように移動し、次第に違和感が増していく。

「なんだ……これ?」

拓也の体が緊張で固まった。手は一瞬引っ込むかと思ったが、すぐに再び彼の腰に触れ、今度は明らかに意図的に撫で回すような動きを始めた。

「まさか……これ、痴漢……?」

心臓が早鐘を打つ。自分が今、美咲の体であることを忘れかけていた拓也だったが、この瞬間、女性として扱われることの恐怖が一気に現実味を帯びて襲いかかってきた。

「何を……どうすれば……」

周囲は完全に押し詰められた乗客で溢れ返り、身動きも取れない。彼はパニックになりながらも、なんとか状況を把握しようと冷静さを保とうとした。しかし、電車が揺れるたびに、その手はますます大胆になり、腰から臀部にまで触れ始める。

「やめろ……!」

拓也は心の中で叫びながらも、声を出すことができなかった。自分が以前は男性だったとはいえ、今はこの混雑した空間の中で完全に「女性」として見られている。もし声を上げたら、周囲はどう反応するのか――その不安が彼を縛っていた。

「早く降りたい……」

ただ、今はそれしか考えられなかった。電車が駅に止まるのを待つしかない状況の中、手はますます卑猥な動きを続け、彼の体を弄るように触れ続けた。

その瞬間、電車が次の駅に停車するアナウンスが流れ、拓也は一瞬の希望を感じた。

「ここで降りよう……!」

電車のドアが開くと同時に、拓也は無理やり押し出されるようにして降りた。背後の痴漢の男がどこにいるか確認する余裕はなく、とにかくその場から逃げ出すように改札へと急いだ。

駅のホームを走り抜け、何とか安全な場所まで来ると、彼は深く息をついた。

「……これが、痴漢に遭うってことか……」

普段なら軽々とかわすか、強く言い返すことができたかもしれない。しかし、今は美咲の体で、女性として扱われている状況に置かれている。痴漢に遭った恐怖と無力感が、彼の心を重く押し潰していた。

「女性って、こんな思いを毎日してるのか……」

拓也はしばらくその場に立ち尽くし、胸の中に広がる苦い感情を整理しようとしていた。
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