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痴漢冤罪
しおりを挟む電車の揺れが激しくなってきた頃、美咲は必死に吊り革にしがみついていた。しかし、男の体に慣れていないせいでバランスを崩しがちで、次の大きな揺れで思わず手が隣の女性に触れてしまった。
「えっ……」
その瞬間、美咲は時間が止まったように感じた。慌てて手を引っ込めたが、女性は驚いたように振り返った。
「なに……!?」
鋭い視線が突き刺さる。美咲はすぐに謝ろうとしたが、喉の奥が緊張で詰まりそうになる。冷や汗が一気に噴き出し、心臓がバクバクと鳴り響く。
「す、すみません! ただ揺れて……」
必死に弁明しようとするが、低い男性の声が響き、自分の言葉がまるで別の人間から発せられているように感じた。女性はその言い訳を全く聞かずに、さらに険しい表情になった。
「ちょっと! あんた今、私に触ったでしょ!?」
周囲の人々が急にこちらを見始めたのが分かった。狭い車内で視線が集まり、息が詰まりそうになる。美咲はパニック状態に陥り、言葉が出てこない。
「違うんです! 本当に、揺れたせいで――!」
声が震える。自分の中身は女性だということを必死に伝えたくても、周囲の目にはただの「男性」として映っている。それが圧倒的な現実として突きつけられた。冷静になろうとしたが、脳裏には一つの恐ろしい言葉が響く。
「痴漢……って思われてる……」
その瞬間、電車の中が一気に重苦しい空気に包まれたように感じた。周りの乗客が小声で何かを話し始め、何人かはスマホを取り出して何かをしている。彼女は逃げ場を失ったかのように感じ、心の中で叫び続けた。
「違う! 私は女なの! こんなの冗談じゃない……!」
しかし、その声は誰にも届かない。外見がすべてを決めてしまうこの状況では、いくら言葉を尽くしても誤解は解けないように思えた。車内の空気はどんどん悪化し、美咲はまるで檻の中に閉じ込められた気分だった。
「どうすればいいの……」
その時、電車が次の駅に止まり、ドアが開いた。美咲はその隙を見て、何とか出口に向かって人混みを掻き分け、駅のホームに飛び出した。息を荒げながら、肩で大きく呼吸を繰り返す。
「ああ……助かった……」
彼女はホッとしながらも、次第に現実に戻ってきた。自分が男の体であることを忘れてはいけないこと、そして、この体に適応する難しさを改めて痛感する。
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