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デンマーク海峡海戦
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「先行するプリンツ・オイゲンより通報、左方向に敵戦艦フッド見ゆ」
ビスマルクの艦橋にプリンツ・オイゲンからの報告が入った。
ビスマルクのレーダーが故障したため、プリンツ・オイゲンが先頭に出て偵察をしていたのだ。
「フッドだと」
戦艦が出てきたことにリッチェンスは驚いた。
「間違いではないのか」
「間違いないでしょう」
リンデマン大佐は落ち着いて答えた。
世界最大の戦艦として長年君臨し世界各地を回った英国の象徴。
各種報道で写真付きで世界に知られている。
ドイツにも何回か来ており、見慣れた艦影を見張員が間違えるハズがなかった。
「退避できるか?」
「無理でしょう」
流氷の限界ラインに沿ってビスマルクは航行している。
これ以上、西に舵を切ると流氷に衝突し損傷する可能性がある。
撤退しても、途中で南下する必要があるので、敵と交戦する事になる。
「長官、ご決断を」
「……交戦する」
「了解、総員戦闘配置! 戦闘旗上げ!」
戦闘配置がかかり、ビスマルクは戦闘態勢に入った。
「敵艦発砲!」
最初にフッドが砲撃を開始した。
弾が飛んでくることを警戒したが、初弾はプリンツ・オイゲンへ降り注いだ。
「どうして、プリンツ・オイゲンを」
「ビスマルクと誤解したのでしょうな」
海軍の常識では、旗艦先頭、艦隊の先頭には戦艦が占めている。
だから英国側もビスマルクは先頭にいると思い込んでいた。
しかし、ビスマルクのレーダーが故障したため偵察のためプリンツ・オイゲンと位置を交代していた。
さらに、プリンツ・オイゲンとビスマルクは敵に誤認させるため、艦型がよく似ている。
「砲撃を開始します」
「了解した。艦隊司令部は司令塔へ移る」
この艦で最も装甲の厚い箇所へ移るとリッチェンスは宣言した。
司令部全滅を避けるための規則に則った処置だが、自分だけ最も安全な場所へ隠れるようで――ガラス一枚だけで外と隔てられたブリッジに残るリンデンマンと比べて臆病に見えた。
「了解しました」
リンデンマンも乗員と同じ思いを抱いたが、むしろ歓迎した。
これまでリッチェンスはビスマルクの運用に口出ししすぎていた。
プリンツ・オイゲンとビスマルクしかいないため、司令長官が指揮する場面などない。
長官が口を出せば、その殆どはビスマルク単艦への指示になって仕舞う。
艦隊司令部が乗り込んだのは、シャルンホルスト及びグナイゼナウと合流したあとの指揮を執るためだ。
だから、合流前の司令部などお荷物であり厄介者でしかなかった。
その厄介者がいなくなったリンデンマンは清々しい気分で命じた。
「砲術長撃ち方始め」
「了解! 全砲塔フォイアーッ!」
この好機を逃さずリンデマン大佐は砲撃を開始させた。
四基の三連装砲から、一二発の一二インチ砲弾が発射され、フッドに向かっていった。
「あれはビスマルクではないのではないか」
砲撃開始してからホランドは疑問を口にした。
ビスマルクにしては少し小さい、念のためマストの高さと距離から測定してみるとビスマルクではない。
「プリンツ・オイゲンか」
先頭にいたため、誤認してしまった。
その時、ビスマルクからの砲撃がフッドの周りに降り注いだ。
「照準変更! ビスマルクを狙え」
ホランドは命令を訂正させた。
主砲が旋回している間に、ビスマルクの第二斉射一二発がフッドの周囲に降り注ぐ。
「左右に着弾」
「夾差されたか」
砲撃戦では、敵を包み込むように砲弾の雨を降らせる。
左右に弾が落ちるようになったのは敵艦を捕らえた証拠。命中弾が出てくるのは時間の問題だ。
それは敵味方共に常識だった。
「砲撃開始します」
フッドからも同じく一二発の一二インチ砲弾が発砲された。
斉射は弾を大量消費するが、一二インチへダウンサイジングしたため、搭載量は多い。
圧倒的な砲弾を降り注ぐことが海戦で重要と考えられるようになっていた。
手早く、ビスマルクを捕捉したい焦燥にも駆られており、ホランドは撃ちまくらせた。
だが、二斉射二四発で終わりとなった。
ビスマルクの第四斉射が、フッドを捕らえた。
ビスマルクの一一インチ砲弾はフッドの第二砲塔に命中。
巡洋戦艦特有の薄い装甲を貫通し、弾薬庫で爆発。
装薬に誘爆し、船体を切断した。
更に、爆発の炎と衝撃が艦内に伝わり、隣接する第一砲塔の弾薬庫も破壊し誘爆。
大規模爆発の衝撃に耐えられる装甲などなく、フッドは前半分を瞬時に消滅させられた。
爆発の衝撃はすさまじく、艦内を荒れ狂い各部を損傷。
爆炎は燃料タンクを通じて後部の弾薬庫に到達、誘爆を引き起こした。
これが致命傷となり浸水を発生させ、僅か三分でフッドを海の底へ追いやった。
ビスマルクの艦橋にプリンツ・オイゲンからの報告が入った。
ビスマルクのレーダーが故障したため、プリンツ・オイゲンが先頭に出て偵察をしていたのだ。
「フッドだと」
戦艦が出てきたことにリッチェンスは驚いた。
「間違いではないのか」
「間違いないでしょう」
リンデマン大佐は落ち着いて答えた。
世界最大の戦艦として長年君臨し世界各地を回った英国の象徴。
各種報道で写真付きで世界に知られている。
ドイツにも何回か来ており、見慣れた艦影を見張員が間違えるハズがなかった。
「退避できるか?」
「無理でしょう」
流氷の限界ラインに沿ってビスマルクは航行している。
これ以上、西に舵を切ると流氷に衝突し損傷する可能性がある。
撤退しても、途中で南下する必要があるので、敵と交戦する事になる。
「長官、ご決断を」
「……交戦する」
「了解、総員戦闘配置! 戦闘旗上げ!」
戦闘配置がかかり、ビスマルクは戦闘態勢に入った。
「敵艦発砲!」
最初にフッドが砲撃を開始した。
弾が飛んでくることを警戒したが、初弾はプリンツ・オイゲンへ降り注いだ。
「どうして、プリンツ・オイゲンを」
「ビスマルクと誤解したのでしょうな」
海軍の常識では、旗艦先頭、艦隊の先頭には戦艦が占めている。
だから英国側もビスマルクは先頭にいると思い込んでいた。
しかし、ビスマルクのレーダーが故障したため偵察のためプリンツ・オイゲンと位置を交代していた。
さらに、プリンツ・オイゲンとビスマルクは敵に誤認させるため、艦型がよく似ている。
「砲撃を開始します」
「了解した。艦隊司令部は司令塔へ移る」
この艦で最も装甲の厚い箇所へ移るとリッチェンスは宣言した。
司令部全滅を避けるための規則に則った処置だが、自分だけ最も安全な場所へ隠れるようで――ガラス一枚だけで外と隔てられたブリッジに残るリンデンマンと比べて臆病に見えた。
「了解しました」
リンデンマンも乗員と同じ思いを抱いたが、むしろ歓迎した。
これまでリッチェンスはビスマルクの運用に口出ししすぎていた。
プリンツ・オイゲンとビスマルクしかいないため、司令長官が指揮する場面などない。
長官が口を出せば、その殆どはビスマルク単艦への指示になって仕舞う。
艦隊司令部が乗り込んだのは、シャルンホルスト及びグナイゼナウと合流したあとの指揮を執るためだ。
だから、合流前の司令部などお荷物であり厄介者でしかなかった。
その厄介者がいなくなったリンデンマンは清々しい気分で命じた。
「砲術長撃ち方始め」
「了解! 全砲塔フォイアーッ!」
この好機を逃さずリンデマン大佐は砲撃を開始させた。
四基の三連装砲から、一二発の一二インチ砲弾が発射され、フッドに向かっていった。
「あれはビスマルクではないのではないか」
砲撃開始してからホランドは疑問を口にした。
ビスマルクにしては少し小さい、念のためマストの高さと距離から測定してみるとビスマルクではない。
「プリンツ・オイゲンか」
先頭にいたため、誤認してしまった。
その時、ビスマルクからの砲撃がフッドの周りに降り注いだ。
「照準変更! ビスマルクを狙え」
ホランドは命令を訂正させた。
主砲が旋回している間に、ビスマルクの第二斉射一二発がフッドの周囲に降り注ぐ。
「左右に着弾」
「夾差されたか」
砲撃戦では、敵を包み込むように砲弾の雨を降らせる。
左右に弾が落ちるようになったのは敵艦を捕らえた証拠。命中弾が出てくるのは時間の問題だ。
それは敵味方共に常識だった。
「砲撃開始します」
フッドからも同じく一二発の一二インチ砲弾が発砲された。
斉射は弾を大量消費するが、一二インチへダウンサイジングしたため、搭載量は多い。
圧倒的な砲弾を降り注ぐことが海戦で重要と考えられるようになっていた。
手早く、ビスマルクを捕捉したい焦燥にも駆られており、ホランドは撃ちまくらせた。
だが、二斉射二四発で終わりとなった。
ビスマルクの第四斉射が、フッドを捕らえた。
ビスマルクの一一インチ砲弾はフッドの第二砲塔に命中。
巡洋戦艦特有の薄い装甲を貫通し、弾薬庫で爆発。
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更に、爆発の炎と衝撃が艦内に伝わり、隣接する第一砲塔の弾薬庫も破壊し誘爆。
大規模爆発の衝撃に耐えられる装甲などなく、フッドは前半分を瞬時に消滅させられた。
爆発の衝撃はすさまじく、艦内を荒れ狂い各部を損傷。
爆炎は燃料タンクを通じて後部の弾薬庫に到達、誘爆を引き起こした。
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