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第一部第三章

新型機関車

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「さてどんな具合に仕上がっているかな」

 昭弥がこの日訪れたのは王国鉄道機関車製造会社試作工場だ。
 長ったらしい言葉を付けているが、実際は最初に作った製鉄所内に設けられた製造工場だ。
 開業前は、実用機、営業に使う機関車を作っていたが、生産が一段落したことで新型機関車や実験機関車の試作製造を行う工場に特化している。
 一つ一つが特別な試作品を作る必要があるので生産工場とは別にしてある。
 古い工場を選んだのは、多種多様な試作品を直ぐに作れる熟練した職人が大量に配属されているからだ。

「今回は何を作ったんですか?」

 お供のセバスチャンが尋ねた。

「新型の機関車を作っているんだ」

 昭弥は簡単に答えた。

「どうして機関車が必要なんですか? 今の機関車でも十分に動いていますが」

 現在使っているのはサラマンダー使用のB1、C2と石炭使用のB3、C4だ。
 本線上での長距離運転で使っているのは大きめの機関車であるC2とC4。
 本線上での短距離運転や支線運転、入れ替えように使っているのはB1とB3だ。
 他にも購入した機関車があるが、これらの機関車が増備されるに従って廃車にしたり売却したりしている。

「確かに今のところ問題は無い」

「ならそのまま使えば」

「けど力が足りないんだよ」

「どういう事です?」

「今後輸送量が増えるとこの機関車たちだけでは足りなくなる」

「数を増やせば良いのでは」

「確かに今のところダイヤ上に余裕があるから本数の増加は可能だ」

「なら」

「でもそれ以上機関車の数を増やすことが出来なくなると各列車の能力を上げなくてはならない。乗員の確保も難しくなっている。何より利用に便利な時間帯、需要の大きな時間や列車の輸送能力が制限される」

 ラッシュアワーと他の時間を思い浮かべて貰うと分かりやすいだろう。
 通勤に便利七時から八時台と夜の時間は大勢の人が集まり、本数も多くなるが満員。だが、他の時間は本数が少ないにもかかわらず、座れるくらい空いている。
 また、短い編成より長い編成の方が輸送力が大きい。

「だから車両を何台もつなげた列車を、長編成列車を牽くことの出来る、牽引力の大きな新型機関車を作ることにしたんだ」

 そう言って昭弥はセバスチャンを引き連れて工場の中に入って行く。

「でかい」

 入った瞬間、セバスチャンは驚きの声を上げた。
 何もかもが大きかった。
 まず車輪がデカい。
 それまでは昭弥の腰の高さ程度だったが、更に大きくなって身長を超えている。しかもその数が四つに増えている
 ボイラーも太く長くなっている。
 突然現れた巨大な機関車にセバスチャンは驚いた。

「D5型機関車だ」

 車軸配置は2-D-2。
 名前からも分かるとおり、日本の名機D51、軸列配置2-D-1を連想する名前を取った。
 牽引力を増やして重い列車を引けるよう動輪を四つにしてある。その牽引力を増すためにボイラーを延長し効率を高めるため燃焼室を設けてある。それらの重量に対応するためD51より従輪を一個増やしている。粗悪な燃料でも十分な火力が生まれるように火室を広くして石炭を燃やす量も増やしてある。
 すべて大重量の列車を走らせるために作られた大型機関車だ。

「これまでより大きいぞ。高さだけで五メルはある」

 二階建ての一軒家に匹敵する高さだった。セバスチャンが見上げることになってしまうのも無理は無かった。

「全長は二五メル。通常の車両と同じ長さだから扱いやすい。まあ、短くするために結構苦労をしたけどな」

 大型のためボイラーを大きくしたかったが、長すぎると転車台に乗せるのが難しくなるため、短く済ませる必要があった。

「その分扱いやすくなっている」

 また通常車両と同じ長さになっているため、列車の長さを計算する時に分かりやすい。停止位置を機関車の長さの分、調整する必要が出てきたりする苦労が少なくなるのはよかった。

「更に旅客用に作っているのがC6だ」

 隣にはD5と同じような蒸気機関車が置いてあった。
 C6型機関車。
 こちらも名機C62機関車を連想させる名前にした。
 車軸配置は2-C-2。
 D5とほぼ同じ形だがスピードを増すために動輪は三つに抑えている。

「しかし、動輪が大きいですね」

「二.三メルある。速く走るために大きくした」

 ピストンで動く蒸気機関車はその構造のため毎分三〇〇回転から四〇〇回転が最高限界、通常運転なら二〇〇から三〇〇が限界と言われている。そのため、スピードを上げようとすると動輪を大きくして一回転で進む距離を増やす必要がある。
 かつて蒸気機関車によるスピード競争があったが、事実上動輪の巨大化競争だった。

「ならもっと動輪を大きくすれば、もっと速くなりますね」

「いや、これが限界だろう」

 セバスチャンの声に昭弥は否定的に答えた。

「どうしてですか?」

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