44 / 319
第一部第三章
新型機関車
しおりを挟む
「さてどんな具合に仕上がっているかな」
昭弥がこの日訪れたのは王国鉄道機関車製造会社試作工場だ。
長ったらしい言葉を付けているが、実際は最初に作った製鉄所内に設けられた製造工場だ。
開業前は、実用機、営業に使う機関車を作っていたが、生産が一段落したことで新型機関車や実験機関車の試作製造を行う工場に特化している。
一つ一つが特別な試作品を作る必要があるので生産工場とは別にしてある。
古い工場を選んだのは、多種多様な試作品を直ぐに作れる熟練した職人が大量に配属されているからだ。
「今回は何を作ったんですか?」
お供のセバスチャンが尋ねた。
「新型の機関車を作っているんだ」
昭弥は簡単に答えた。
「どうして機関車が必要なんですか? 今の機関車でも十分に動いていますが」
現在使っているのはサラマンダー使用のB1、C2と石炭使用のB3、C4だ。
本線上での長距離運転で使っているのは大きめの機関車であるC2とC4。
本線上での短距離運転や支線運転、入れ替えように使っているのはB1とB3だ。
他にも購入した機関車があるが、これらの機関車が増備されるに従って廃車にしたり売却したりしている。
「確かに今のところ問題は無い」
「ならそのまま使えば」
「けど力が足りないんだよ」
「どういう事です?」
「今後輸送量が増えるとこの機関車たちだけでは足りなくなる」
「数を増やせば良いのでは」
「確かに今のところダイヤ上に余裕があるから本数の増加は可能だ」
「なら」
「でもそれ以上機関車の数を増やすことが出来なくなると各列車の能力を上げなくてはならない。乗員の確保も難しくなっている。何より利用に便利な時間帯、需要の大きな時間や列車の輸送能力が制限される」
ラッシュアワーと他の時間を思い浮かべて貰うと分かりやすいだろう。
通勤に便利七時から八時台と夜の時間は大勢の人が集まり、本数も多くなるが満員。だが、他の時間は本数が少ないにもかかわらず、座れるくらい空いている。
また、短い編成より長い編成の方が輸送力が大きい。
「だから車両を何台もつなげた列車を、長編成列車を牽くことの出来る、牽引力の大きな新型機関車を作ることにしたんだ」
そう言って昭弥はセバスチャンを引き連れて工場の中に入って行く。
「でかい」
入った瞬間、セバスチャンは驚きの声を上げた。
何もかもが大きかった。
まず車輪がデカい。
それまでは昭弥の腰の高さ程度だったが、更に大きくなって身長を超えている。しかもその数が四つに増えている
ボイラーも太く長くなっている。
突然現れた巨大な機関車にセバスチャンは驚いた。
「D5型機関車だ」
車軸配置は2-D-2。
名前からも分かるとおり、日本の名機D51、軸列配置2-D-1を連想する名前を取った。
牽引力を増やして重い列車を引けるよう動輪を四つにしてある。その牽引力を増すためにボイラーを延長し効率を高めるため燃焼室を設けてある。それらの重量に対応するためD51より従輪を一個増やしている。粗悪な燃料でも十分な火力が生まれるように火室を広くして石炭を燃やす量も増やしてある。
すべて大重量の列車を走らせるために作られた大型機関車だ。
「これまでより大きいぞ。高さだけで五メルはある」
二階建ての一軒家に匹敵する高さだった。セバスチャンが見上げることになってしまうのも無理は無かった。
「全長は二五メル。通常の車両と同じ長さだから扱いやすい。まあ、短くするために結構苦労をしたけどな」
大型のためボイラーを大きくしたかったが、長すぎると転車台に乗せるのが難しくなるため、短く済ませる必要があった。
「その分扱いやすくなっている」
また通常車両と同じ長さになっているため、列車の長さを計算する時に分かりやすい。停止位置を機関車の長さの分、調整する必要が出てきたりする苦労が少なくなるのはよかった。
「更に旅客用に作っているのがC6だ」
隣にはD5と同じような蒸気機関車が置いてあった。
C6型機関車。
こちらも名機C62機関車を連想させる名前にした。
車軸配置は2-C-2。
D5とほぼ同じ形だがスピードを増すために動輪は三つに抑えている。
「しかし、動輪が大きいですね」
「二.三メルある。速く走るために大きくした」
ピストンで動く蒸気機関車はその構造のため毎分三〇〇回転から四〇〇回転が最高限界、通常運転なら二〇〇から三〇〇が限界と言われている。そのため、スピードを上げようとすると動輪を大きくして一回転で進む距離を増やす必要がある。
かつて蒸気機関車によるスピード競争があったが、事実上動輪の巨大化競争だった。
「ならもっと動輪を大きくすれば、もっと速くなりますね」
「いや、これが限界だろう」
セバスチャンの声に昭弥は否定的に答えた。
「どうしてですか?」
昭弥がこの日訪れたのは王国鉄道機関車製造会社試作工場だ。
長ったらしい言葉を付けているが、実際は最初に作った製鉄所内に設けられた製造工場だ。
開業前は、実用機、営業に使う機関車を作っていたが、生産が一段落したことで新型機関車や実験機関車の試作製造を行う工場に特化している。
一つ一つが特別な試作品を作る必要があるので生産工場とは別にしてある。
古い工場を選んだのは、多種多様な試作品を直ぐに作れる熟練した職人が大量に配属されているからだ。
「今回は何を作ったんですか?」
お供のセバスチャンが尋ねた。
「新型の機関車を作っているんだ」
昭弥は簡単に答えた。
「どうして機関車が必要なんですか? 今の機関車でも十分に動いていますが」
現在使っているのはサラマンダー使用のB1、C2と石炭使用のB3、C4だ。
本線上での長距離運転で使っているのは大きめの機関車であるC2とC4。
本線上での短距離運転や支線運転、入れ替えように使っているのはB1とB3だ。
他にも購入した機関車があるが、これらの機関車が増備されるに従って廃車にしたり売却したりしている。
「確かに今のところ問題は無い」
「ならそのまま使えば」
「けど力が足りないんだよ」
「どういう事です?」
「今後輸送量が増えるとこの機関車たちだけでは足りなくなる」
「数を増やせば良いのでは」
「確かに今のところダイヤ上に余裕があるから本数の増加は可能だ」
「なら」
「でもそれ以上機関車の数を増やすことが出来なくなると各列車の能力を上げなくてはならない。乗員の確保も難しくなっている。何より利用に便利な時間帯、需要の大きな時間や列車の輸送能力が制限される」
ラッシュアワーと他の時間を思い浮かべて貰うと分かりやすいだろう。
通勤に便利七時から八時台と夜の時間は大勢の人が集まり、本数も多くなるが満員。だが、他の時間は本数が少ないにもかかわらず、座れるくらい空いている。
また、短い編成より長い編成の方が輸送力が大きい。
「だから車両を何台もつなげた列車を、長編成列車を牽くことの出来る、牽引力の大きな新型機関車を作ることにしたんだ」
そう言って昭弥はセバスチャンを引き連れて工場の中に入って行く。
「でかい」
入った瞬間、セバスチャンは驚きの声を上げた。
何もかもが大きかった。
まず車輪がデカい。
それまでは昭弥の腰の高さ程度だったが、更に大きくなって身長を超えている。しかもその数が四つに増えている
ボイラーも太く長くなっている。
突然現れた巨大な機関車にセバスチャンは驚いた。
「D5型機関車だ」
車軸配置は2-D-2。
名前からも分かるとおり、日本の名機D51、軸列配置2-D-1を連想する名前を取った。
牽引力を増やして重い列車を引けるよう動輪を四つにしてある。その牽引力を増すためにボイラーを延長し効率を高めるため燃焼室を設けてある。それらの重量に対応するためD51より従輪を一個増やしている。粗悪な燃料でも十分な火力が生まれるように火室を広くして石炭を燃やす量も増やしてある。
すべて大重量の列車を走らせるために作られた大型機関車だ。
「これまでより大きいぞ。高さだけで五メルはある」
二階建ての一軒家に匹敵する高さだった。セバスチャンが見上げることになってしまうのも無理は無かった。
「全長は二五メル。通常の車両と同じ長さだから扱いやすい。まあ、短くするために結構苦労をしたけどな」
大型のためボイラーを大きくしたかったが、長すぎると転車台に乗せるのが難しくなるため、短く済ませる必要があった。
「その分扱いやすくなっている」
また通常車両と同じ長さになっているため、列車の長さを計算する時に分かりやすい。停止位置を機関車の長さの分、調整する必要が出てきたりする苦労が少なくなるのはよかった。
「更に旅客用に作っているのがC6だ」
隣にはD5と同じような蒸気機関車が置いてあった。
C6型機関車。
こちらも名機C62機関車を連想させる名前にした。
車軸配置は2-C-2。
D5とほぼ同じ形だがスピードを増すために動輪は三つに抑えている。
「しかし、動輪が大きいですね」
「二.三メルある。速く走るために大きくした」
ピストンで動く蒸気機関車はその構造のため毎分三〇〇回転から四〇〇回転が最高限界、通常運転なら二〇〇から三〇〇が限界と言われている。そのため、スピードを上げようとすると動輪を大きくして一回転で進む距離を増やす必要がある。
かつて蒸気機関車によるスピード競争があったが、事実上動輪の巨大化競争だった。
「ならもっと動輪を大きくすれば、もっと速くなりますね」
「いや、これが限界だろう」
セバスチャンの声に昭弥は否定的に答えた。
「どうしてですか?」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる