貴女伝説 呉羽

葉山宗次郎

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紫香楽京

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 科野の国から遠く離れた都、紫香楽京は帝の住まいである御所、紫香楽宮を中心に作られた巨大都市である。
 中央に大通りが通り、回りに一定間隔で東西南北に通る道が作られていた。
 帝中心の中央集権体制を作ることが目的であり、そのために法令である律令を定め、各地に行政機関となる国府を建設し、都の指示で動く国作りを進めていた。
 それこそ帝が目指したものであり大陸の大国のように国を発展させたいという願いが込められていた。
 しかし、帝は悩みを抱えていた。

「上手くいかぬのう」

 上奏文を読んで帝は頭を抱えた。
 ここ数年、天変地異、激しい嵐、長雨、日照り、地震、火山の噴火などが立て続けに起こっていた。

「朕の徳が悪いからであろうか」

 大陸の思想を学んだ帝は、徳――統治者の道徳が重要という考えに捕らえられていた。
 徳に優れた統治者の元では国は栄え、民は豊かとなり、平和が訪れる。
 しかし、徳のない統治者だと国は衰退し、民は貧しくなる。しかも、天の懲罰があり、天変地異が起こり、国土は荒れていくとされた。
 ここ最近、報告される災害は全て自分の徳が悪いからであろうか、と悩んでいた。

「陛下、お悩みになることはありません」
「おお鏡子か」

 帝に使える巫女である鏡子が、声を掛けた。

「陛下は希に見る徳の高い方、この国を豊かにするために日々努力しておられます。陛下の徳に疑いはありません」
「しかし、天変地異が起こっており、民は苦しんでおる」
「それは都の位置が悪いのでしょう」

 鏡子は穏やかな口調で話し始めた。

「国を統治するにはその最も適した場所が、風水の良い場所に作られた都必要です。いくら陛下が優れていても、その陛下を支える都が不適切な場所にあっては十分に力を発揮できないでしょう」
「ううむ、だが代替わりごとに都を変えては統治が安定せぬと呉羽が」
「陛下、罪人の名を軽々しく口にしてはなりません。穢れてしまいます」
「う、うむ……」

 穢れと言われて帝は黙り込んだ。
 国の中心にいる自分が穢れれば、国にも穢れが広がり、国が衰退すると思っていたからだ。
 黙り込み怯える帝を見て、鏡子は穏やかな笑みを浮かべ、柔らかい声を出して言葉を掛けた。

「陛下、私が占いで陛下に相応しい遷都先を見つけて参ります。どうかご安心を」
「そ、そうか、頼むぞ鏡子」
「はい」

 鏡子は一礼すると退室していった。
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