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捷号作戦
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捷号作戦とは、マリアナ陥落によって絶対国防圏が崩壊したため、新たな防衛計画を立てる必要が生じ、策定された対米迎撃作戦だ。
一号から四号まであり、
一号 フィリピン
二号 台湾、沖縄
三号 本土(北海道を除く)
四号 北海道を含む千島方面
各地域へ米軍が上陸作戦を実行した場合直ちに発動される事になっていた。
だが、米軍の次の作戦はフィリピン方面とみられており、事実上、捷一号作戦のみが対象になっていた。
「米軍の上陸作戦も行われていませんし発動は見合わせるべきでしょう」
佐久田は発動条件を米軍上陸を確認してからとしていた。
豊田大将も不満そうな顔をしながらも認めた。
「その捷一号作戦だが、立案は出来ているのか? 攻撃目標の策定からして頓挫している」
「上陸船団か機動部隊かですね」
作戦の策定にあたって作戦目標が陸海軍で割れていた。
海軍は艦隊決戦の延長で海戦の主力となる空母を含む機動部隊を目標にするべきだと主張した。
空母が勝敗を決めるユニットになった現状では妥当な判断だ。
だが、マリアナの戦いを見た陸軍は違う感想を抱いた。
わずか数日、事実上二日の戦闘で機動部隊に攻撃に向かった航空部隊の戦力が文字通り半減、半数が失われた事に驚愕した。
そして得られた戦果は二個空母群の撃破、確実に沈める事の出来た空母は空母二、軽空母一のみ。
千機以上の損害を出して得る戦果が乏しいと陸軍は考えた。
意外かも知れないが、帝国陸軍航空部隊は当時、世界有数の航空戦のエキスパートであり、航空戦が消耗戦である事を知っている。
ノモンハンの戦いで、前半を優勢に戦い抜けたのは、帝国陸軍が優秀な航空隊を数多く揃えたため非常に僅かな損失で優位に戦ったからだ。
だが中国との戦争中であり、ソ連との戦闘拡大を望まない上層部の統制、戦域の限定からソ連の補充と補給を妨害できなかった。
そのため長期戦となり味方航空部隊への補充と増援が無くなった後半は数的な優勢を確保したソ連軍によって損失が大きくなった。
特に、損失――撃墜だけで無く、事故や戦闘による負荷によって耐久限度を超え飛行不能になった機体を含む数の増大は稼働機数を減少させ、陸軍航空隊を敗北に導いた。
この戦訓により、陸軍は航空戦が消耗戦だという事を認識し損失を少なくする戦い方に移った。
戦闘機の防弾装備が充実していたのは、撃墜による消耗を抑え、稼働機を維持するために考えられたからだ。
ソロモン・ニューギニアで前線のみならず後方にも多数の飛行場を建設し本土との航空路を開設したのも補充と本土での休養を行えるようにするためだった。
こうして損害を抑える努力をしてきた陸軍航空隊にしてみれば、数日で航空戦力が半減する戦い方など、理解不能だった。
艦隊決戦に傾注した海軍は、想定の上では一回の戦いで勝敗が決する以上、半数を失っても勝利出来れば良いと考えていた分、驚きを持ちつつも許容されていた。
このような感想の違いが、協同作戦の不和にも繋がった。
数日で味方機が半減する防御の堅い空母を含む機動部隊では無く、島を占領しようとする脆弱な輸送船に乗った敵上陸船団を襲い味方航空機の損失を減らし波状攻撃を行って戦果を上げ、敵の攻略意思を挫くべきではないかと陸軍は主張した。
「陸軍の主張が通るだろうな」
双方に理があるが、マリアナの敗戦前まで、艦隊決戦を主張し主導していた海軍の発言力は低下していた。陸軍の意見が通る可能性が大きい。
「どうでしょうね。採用されても成果が上がるかどうか」
「やはり上陸部隊を攻撃するのは反対か?」
「いえ、連中も上陸部隊には護衛を配備していますよ。防空戦闘機で叩き落とされます」
マリアナへの上陸時に攻撃を仕掛けている航空隊は猛烈な敵戦闘機の迎撃に遭っている。
護衛戦闘機の援護があってもだ。
沖合の敵上陸船団の上空も同じであり周辺の護衛艦艇の対空砲火も無視できない。
「今回の航空戦で陸軍も理解するでしょうし」
佐久田の言うとおり、台湾に展開した第四航空軍は圧倒的な米軍の防空戦闘機と対空砲火によって攻撃前に撃破され、僅かな戦果の代償として大損害を受けていた。
富永中将は攻撃の成功を主張したが、損害に陸軍、特に航空関連の人間は戦慄していた。
「それに損害が大きすぎます。もっと、効率的な攻撃目標を叩くべきだと考えます」
「それは何処だ?」
「あー、すこし考えを纏めないと」
幾ら大戦果を上げたとしても味方の損失が大きいと、次の戦いに挑めない。
大損害を米軍に与えても工業力に優れる米軍はすぐに戦力を回復してしまうだろう。
だから、日本側の損失が少ない戦い方をしなければならない。
この状況こそ、アメリカとの戦いがどれほど困難である事を示す証拠だったが、現状であれば、受け入れ対策を考えなければならなかった。
「頼むぞ、帝国の運命は君の閃きに掛かっている」
豊田は切羽詰まった様な声で言った。
冗談では無く事実である事が重大さを物語っていた。
だが、佐久田も十分に考え抜ける訳ではなかった。
しかし、米軍の上陸はすぐそこまで迫っていた。
一号から四号まであり、
一号 フィリピン
二号 台湾、沖縄
三号 本土(北海道を除く)
四号 北海道を含む千島方面
各地域へ米軍が上陸作戦を実行した場合直ちに発動される事になっていた。
だが、米軍の次の作戦はフィリピン方面とみられており、事実上、捷一号作戦のみが対象になっていた。
「米軍の上陸作戦も行われていませんし発動は見合わせるべきでしょう」
佐久田は発動条件を米軍上陸を確認してからとしていた。
豊田大将も不満そうな顔をしながらも認めた。
「その捷一号作戦だが、立案は出来ているのか? 攻撃目標の策定からして頓挫している」
「上陸船団か機動部隊かですね」
作戦の策定にあたって作戦目標が陸海軍で割れていた。
海軍は艦隊決戦の延長で海戦の主力となる空母を含む機動部隊を目標にするべきだと主張した。
空母が勝敗を決めるユニットになった現状では妥当な判断だ。
だが、マリアナの戦いを見た陸軍は違う感想を抱いた。
わずか数日、事実上二日の戦闘で機動部隊に攻撃に向かった航空部隊の戦力が文字通り半減、半数が失われた事に驚愕した。
そして得られた戦果は二個空母群の撃破、確実に沈める事の出来た空母は空母二、軽空母一のみ。
千機以上の損害を出して得る戦果が乏しいと陸軍は考えた。
意外かも知れないが、帝国陸軍航空部隊は当時、世界有数の航空戦のエキスパートであり、航空戦が消耗戦である事を知っている。
ノモンハンの戦いで、前半を優勢に戦い抜けたのは、帝国陸軍が優秀な航空隊を数多く揃えたため非常に僅かな損失で優位に戦ったからだ。
だが中国との戦争中であり、ソ連との戦闘拡大を望まない上層部の統制、戦域の限定からソ連の補充と補給を妨害できなかった。
そのため長期戦となり味方航空部隊への補充と増援が無くなった後半は数的な優勢を確保したソ連軍によって損失が大きくなった。
特に、損失――撃墜だけで無く、事故や戦闘による負荷によって耐久限度を超え飛行不能になった機体を含む数の増大は稼働機数を減少させ、陸軍航空隊を敗北に導いた。
この戦訓により、陸軍は航空戦が消耗戦だという事を認識し損失を少なくする戦い方に移った。
戦闘機の防弾装備が充実していたのは、撃墜による消耗を抑え、稼働機を維持するために考えられたからだ。
ソロモン・ニューギニアで前線のみならず後方にも多数の飛行場を建設し本土との航空路を開設したのも補充と本土での休養を行えるようにするためだった。
こうして損害を抑える努力をしてきた陸軍航空隊にしてみれば、数日で航空戦力が半減する戦い方など、理解不能だった。
艦隊決戦に傾注した海軍は、想定の上では一回の戦いで勝敗が決する以上、半数を失っても勝利出来れば良いと考えていた分、驚きを持ちつつも許容されていた。
このような感想の違いが、協同作戦の不和にも繋がった。
数日で味方機が半減する防御の堅い空母を含む機動部隊では無く、島を占領しようとする脆弱な輸送船に乗った敵上陸船団を襲い味方航空機の損失を減らし波状攻撃を行って戦果を上げ、敵の攻略意思を挫くべきではないかと陸軍は主張した。
「陸軍の主張が通るだろうな」
双方に理があるが、マリアナの敗戦前まで、艦隊決戦を主張し主導していた海軍の発言力は低下していた。陸軍の意見が通る可能性が大きい。
「どうでしょうね。採用されても成果が上がるかどうか」
「やはり上陸部隊を攻撃するのは反対か?」
「いえ、連中も上陸部隊には護衛を配備していますよ。防空戦闘機で叩き落とされます」
マリアナへの上陸時に攻撃を仕掛けている航空隊は猛烈な敵戦闘機の迎撃に遭っている。
護衛戦闘機の援護があってもだ。
沖合の敵上陸船団の上空も同じであり周辺の護衛艦艇の対空砲火も無視できない。
「今回の航空戦で陸軍も理解するでしょうし」
佐久田の言うとおり、台湾に展開した第四航空軍は圧倒的な米軍の防空戦闘機と対空砲火によって攻撃前に撃破され、僅かな戦果の代償として大損害を受けていた。
富永中将は攻撃の成功を主張したが、損害に陸軍、特に航空関連の人間は戦慄していた。
「それに損害が大きすぎます。もっと、効率的な攻撃目標を叩くべきだと考えます」
「それは何処だ?」
「あー、すこし考えを纏めないと」
幾ら大戦果を上げたとしても味方の損失が大きいと、次の戦いに挑めない。
大損害を米軍に与えても工業力に優れる米軍はすぐに戦力を回復してしまうだろう。
だから、日本側の損失が少ない戦い方をしなければならない。
この状況こそ、アメリカとの戦いがどれほど困難である事を示す証拠だったが、現状であれば、受け入れ対策を考えなければならなかった。
「頼むぞ、帝国の運命は君の閃きに掛かっている」
豊田は切羽詰まった様な声で言った。
冗談では無く事実である事が重大さを物語っていた。
だが、佐久田も十分に考え抜ける訳ではなかった。
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