架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

文字の大きさ
上 下
80 / 83

台湾沖航空戦の結果

しおりを挟む
「大戦果だな第四航空軍は」

 台湾沖航空戦の後、機動部隊から飛行機を使って東京の軍令部に戻った佐久田は丁度軍令部に戦果報告で来ていた豊田大将から言われた。

「轟撃沈が航空母艦11隻 戦艦2隻 巡洋艦3隻 巡洋艦若もしくは駆逐艦1隻。撃破は航空母艦8隻 戦艦2隻 巡洋艦4隻 巡洋艦若は駆逐艦1隻 艦種不詳13隻、撃墜 112機。マリアナを上回る大戦果だ」

 豊田は嬉しさを抑えられないようだった。
 開戦以来の大戦果であるのだから無理もない。

「陛下に内々にご報告したが、嬉しそうだった。今度正式に報告が行われる」
「止めなさい」

 佐久田はしらけた表情で言った。

「どういうことだ。マリアナ以上の戦果を上げたから嫉妬しておるのか?」
「どうせ、上がってきた戦果報告を確認せずに積み上げただけでしょう」

 現地と東京を往復し、現場の戦果報告を積み上げて検証していない東京のやり方を戦時中見続けた佐久田は事実を見抜いていた。

「現地部隊からの報告だぞ」
「その現地部隊が、どんな報告をしているか知っていますか? 『何をした』と指揮官が尋ねたら、『敵戦艦らしき艦影に爆弾を落としました。振り返ると、炎を上げていました』ですよ。これで指揮官は戦艦一撃破と計上しています。こんな戦果報告を信用できますか」

 味方の士気を上げるため、戦死した将兵が戦果を上げたと遺族に伝えるため、戦果を盛ることはある。
 中国戦線でも同じ事が行われていたので佐久田は知っているし、やむを得ない部分があるのも理解できる。
 はぐれた部下が便衣隊に殺されたとき、遺族への手紙に異変に気が付き急行し敵兵と遭遇、二人を倒し部隊を守り通した、と伝えた事があった。
 正直に話しても益がなかった。
 ある遺族に正直に話したところ内地に帰還したとき無駄死にだったとワンワン泣かれ困った事があった。
 そんな訳だから、遺族などには軍機に関わる部分があるため詳しく言えないが実は、と前置きして多少、遺族に盛ることはある。
 だが、正確な戦果報告を受ける立場が、そんなお手盛り戦果で喜んで良いわけがない。

「君は正確な戦果を知っているのか」
「少なくともハルゼーの空母は正規空母一三隻、軽空母五隻です。撃沈撃破を合わせて敵の保有数を上回る一九隻など重複しているとみるべきです。現実は一隻以外、皆無事です」
「どうして分かるんだ」
「撃墜機の捕虜を尋問した結果です。基地航空隊は善戦してくれました。基地襲撃時の敵機撃墜が多いです」

 最初の一撃は大きかったが、その後は各地に分散した戦闘機隊が発進し積極的に迎撃、基地の防空火器の援護もあって多数の撃墜を記録していた。

「発進した母艦の名前を尋ねたら、フランクリンを除いて全てありました。敵機動部隊は健在です」
「まさか……」
「お疑いなら、参謀本部の堀少佐におたずねください。私も現地に居まして、少佐の情報収集を手伝いましたから」

 インド洋から帰還中の空母から報告の為、発進し台湾に寄っていた時に空襲を受けた。
 到底、飛行機が離陸できないため、たまたま現地で指導していた堀少佐と共に捕虜にしたパイロットの尋問も行い、戦果の確認を行ったのだ。
 その後は空襲警報が解除され、東京へ戻ったが、途中新聞の号外――過大戦果を載せた記事を読んで憤慨しながら戻った。

「第四航空軍富永中将は大戦果を上げたとおっしゃっていたが」
「到底信用できませんよ」
「杉山陸軍大臣が直々に任命したのだぞ」
「陸大卒業後、中隊長一年、隊付き中佐一年、連隊長一年合計三年しか部隊配置に就いておらず経歴の殆どを中央官庁で過ごしています。実戦経験が無いのにそのような戯言を信じる気にはなれません」

 陸軍の調整が多かったため、佐久田は陸軍の内部にも詳しい。
 そして四年もの間、中国戦線で辛酸を舐め、開戦後も参謀ながら最前線で務め上げた佐久田は富永のような人間を、後方でのんびりしているだけの人間を信用していなかった。
 書類の末の数字を読むだけの人間だからだ。
 数字は確かに大事だが、その意味を魂から理解しているとは思えない。
 試験の数学問題を説くような感覚で戦果報告を扱っているような手合いに、自分や部下の命に関わる事柄を扱わせる気にはなれなかった。

「それに有馬少将が出撃した後の第二六航空戦隊も酷いモノです。司令官出撃で居なくなった後、富永が何度も無謀な出撃命令を出し、部隊は壊滅です。大打撃を与えた敗残兵同様の敵艦隊に対して、どうしてこのような大損害が出るのですか?」
「む……」
「それに第四航空軍の損害も酷いモノです。指揮下の飛行師団は全滅状態です。このような状態で過大な戦果を喜ぶ気にはなれません」

 第四航空軍の情報は、陸軍の面子もあるためか詳しくは入ってきていないが、現地の海軍部隊や、連絡官の報告では、酷い状態のようだ。

「捷一号作戦の発動は見合わせるべきです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

江戸時代改装計画 

華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。 「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」  頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。  ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。  (何故だ、どうしてこうなった……!!)  自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。  トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。  ・アメリカ合衆国は満州国を承認  ・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲  ・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認  ・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い  ・アメリカ合衆国の軍備縮小  ・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃  ・アメリカ合衆国の移民法の撤廃  ・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと  確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。

皇国の栄光

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。 日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。 激動の昭和時代。 皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか? それとも47の星が照らす夜だろうか? 趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。 こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。 大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。 戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。 潜水空母   伊号第400型潜水艦〜4隻。 広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。 一度書いてみたかったIF戦記物。 この機会に挑戦してみます。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

処理中です...