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台湾沖航空戦の結果
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「大戦果だな第四航空軍は」
台湾沖航空戦の後、機動部隊から飛行機を使って東京の軍令部に戻った佐久田は丁度軍令部に戦果報告で来ていた豊田大将から言われた。
「轟撃沈が航空母艦11隻 戦艦2隻 巡洋艦3隻 巡洋艦若もしくは駆逐艦1隻。撃破は航空母艦8隻 戦艦2隻 巡洋艦4隻 巡洋艦若は駆逐艦1隻 艦種不詳13隻、撃墜 112機。マリアナを上回る大戦果だ」
豊田は嬉しさを抑えられないようだった。
開戦以来の大戦果であるのだから無理もない。
「陛下に内々にご報告したが、嬉しそうだった。今度正式に報告が行われる」
「止めなさい」
佐久田はしらけた表情で言った。
「どういうことだ。マリアナ以上の戦果を上げたから嫉妬しておるのか?」
「どうせ、上がってきた戦果報告を確認せずに積み上げただけでしょう」
現地と東京を往復し、現場の戦果報告を積み上げて検証していない東京のやり方を戦時中見続けた佐久田は事実を見抜いていた。
「現地部隊からの報告だぞ」
「その現地部隊が、どんな報告をしているか知っていますか? 『何をした』と指揮官が尋ねたら、『敵戦艦らしき艦影に爆弾を落としました。振り返ると、炎を上げていました』ですよ。これで指揮官は戦艦一撃破と計上しています。こんな戦果報告を信用できますか」
味方の士気を上げるため、戦死した将兵が戦果を上げたと遺族に伝えるため、戦果を盛ることはある。
中国戦線でも同じ事が行われていたので佐久田は知っているし、やむを得ない部分があるのも理解できる。
はぐれた部下が便衣隊に殺されたとき、遺族への手紙に異変に気が付き急行し敵兵と遭遇、二人を倒し部隊を守り通した、と伝えた事があった。
正直に話しても益がなかった。
ある遺族に正直に話したところ内地に帰還したとき無駄死にだったとワンワン泣かれ困った事があった。
そんな訳だから、遺族などには軍機に関わる部分があるため詳しく言えないが実は、と前置きして多少、遺族に盛ることはある。
だが、正確な戦果報告を受ける立場が、そんなお手盛り戦果で喜んで良いわけがない。
「君は正確な戦果を知っているのか」
「少なくともハルゼーの空母は正規空母一三隻、軽空母五隻です。撃沈撃破を合わせて敵の保有数を上回る一九隻など重複しているとみるべきです。現実は一隻以外、皆無事です」
「どうして分かるんだ」
「撃墜機の捕虜を尋問した結果です。基地航空隊は善戦してくれました。基地襲撃時の敵機撃墜が多いです」
最初の一撃は大きかったが、その後は各地に分散した戦闘機隊が発進し積極的に迎撃、基地の防空火器の援護もあって多数の撃墜を記録していた。
「発進した母艦の名前を尋ねたら、フランクリンを除いて全てありました。敵機動部隊は健在です」
「まさか……」
「お疑いなら、参謀本部の堀少佐におたずねください。私も現地に居まして、少佐の情報収集を手伝いましたから」
インド洋から帰還中の空母から報告の為、発進し台湾に寄っていた時に空襲を受けた。
到底、飛行機が離陸できないため、たまたま現地で指導していた堀少佐と共に捕虜にしたパイロットの尋問も行い、戦果の確認を行ったのだ。
その後は空襲警報が解除され、東京へ戻ったが、途中新聞の号外――過大戦果を載せた記事を読んで憤慨しながら戻った。
「第四航空軍富永中将は大戦果を上げたとおっしゃっていたが」
「到底信用できませんよ」
「杉山陸軍大臣が直々に任命したのだぞ」
「陸大卒業後、中隊長一年、隊付き中佐一年、連隊長一年合計三年しか部隊配置に就いておらず経歴の殆どを中央官庁で過ごしています。実戦経験が無いのにそのような戯言を信じる気にはなれません」
陸軍の調整が多かったため、佐久田は陸軍の内部にも詳しい。
そして四年もの間、中国戦線で辛酸を舐め、開戦後も参謀ながら最前線で務め上げた佐久田は富永のような人間を、後方でのんびりしているだけの人間を信用していなかった。
書類の末の数字を読むだけの人間だからだ。
数字は確かに大事だが、その意味を魂から理解しているとは思えない。
試験の数学問題を説くような感覚で戦果報告を扱っているような手合いに、自分や部下の命に関わる事柄を扱わせる気にはなれなかった。
「それに有馬少将が出撃した後の第二六航空戦隊も酷いモノです。司令官出撃で居なくなった後、富永が何度も無謀な出撃命令を出し、部隊は壊滅です。大打撃を与えた敗残兵同様の敵艦隊に対して、どうしてこのような大損害が出るのですか?」
「む……」
「それに第四航空軍の損害も酷いモノです。指揮下の飛行師団は全滅状態です。このような状態で過大な戦果を喜ぶ気にはなれません」
第四航空軍の情報は、陸軍の面子もあるためか詳しくは入ってきていないが、現地の海軍部隊や、連絡官の報告では、酷い状態のようだ。
「捷一号作戦の発動は見合わせるべきです」
台湾沖航空戦の後、機動部隊から飛行機を使って東京の軍令部に戻った佐久田は丁度軍令部に戦果報告で来ていた豊田大将から言われた。
「轟撃沈が航空母艦11隻 戦艦2隻 巡洋艦3隻 巡洋艦若もしくは駆逐艦1隻。撃破は航空母艦8隻 戦艦2隻 巡洋艦4隻 巡洋艦若は駆逐艦1隻 艦種不詳13隻、撃墜 112機。マリアナを上回る大戦果だ」
豊田は嬉しさを抑えられないようだった。
開戦以来の大戦果であるのだから無理もない。
「陛下に内々にご報告したが、嬉しそうだった。今度正式に報告が行われる」
「止めなさい」
佐久田はしらけた表情で言った。
「どういうことだ。マリアナ以上の戦果を上げたから嫉妬しておるのか?」
「どうせ、上がってきた戦果報告を確認せずに積み上げただけでしょう」
現地と東京を往復し、現場の戦果報告を積み上げて検証していない東京のやり方を戦時中見続けた佐久田は事実を見抜いていた。
「現地部隊からの報告だぞ」
「その現地部隊が、どんな報告をしているか知っていますか? 『何をした』と指揮官が尋ねたら、『敵戦艦らしき艦影に爆弾を落としました。振り返ると、炎を上げていました』ですよ。これで指揮官は戦艦一撃破と計上しています。こんな戦果報告を信用できますか」
味方の士気を上げるため、戦死した将兵が戦果を上げたと遺族に伝えるため、戦果を盛ることはある。
中国戦線でも同じ事が行われていたので佐久田は知っているし、やむを得ない部分があるのも理解できる。
はぐれた部下が便衣隊に殺されたとき、遺族への手紙に異変に気が付き急行し敵兵と遭遇、二人を倒し部隊を守り通した、と伝えた事があった。
正直に話しても益がなかった。
ある遺族に正直に話したところ内地に帰還したとき無駄死にだったとワンワン泣かれ困った事があった。
そんな訳だから、遺族などには軍機に関わる部分があるため詳しく言えないが実は、と前置きして多少、遺族に盛ることはある。
だが、正確な戦果報告を受ける立場が、そんなお手盛り戦果で喜んで良いわけがない。
「君は正確な戦果を知っているのか」
「少なくともハルゼーの空母は正規空母一三隻、軽空母五隻です。撃沈撃破を合わせて敵の保有数を上回る一九隻など重複しているとみるべきです。現実は一隻以外、皆無事です」
「どうして分かるんだ」
「撃墜機の捕虜を尋問した結果です。基地航空隊は善戦してくれました。基地襲撃時の敵機撃墜が多いです」
最初の一撃は大きかったが、その後は各地に分散した戦闘機隊が発進し積極的に迎撃、基地の防空火器の援護もあって多数の撃墜を記録していた。
「発進した母艦の名前を尋ねたら、フランクリンを除いて全てありました。敵機動部隊は健在です」
「まさか……」
「お疑いなら、参謀本部の堀少佐におたずねください。私も現地に居まして、少佐の情報収集を手伝いましたから」
インド洋から帰還中の空母から報告の為、発進し台湾に寄っていた時に空襲を受けた。
到底、飛行機が離陸できないため、たまたま現地で指導していた堀少佐と共に捕虜にしたパイロットの尋問も行い、戦果の確認を行ったのだ。
その後は空襲警報が解除され、東京へ戻ったが、途中新聞の号外――過大戦果を載せた記事を読んで憤慨しながら戻った。
「第四航空軍富永中将は大戦果を上げたとおっしゃっていたが」
「到底信用できませんよ」
「杉山陸軍大臣が直々に任命したのだぞ」
「陸大卒業後、中隊長一年、隊付き中佐一年、連隊長一年合計三年しか部隊配置に就いておらず経歴の殆どを中央官庁で過ごしています。実戦経験が無いのにそのような戯言を信じる気にはなれません」
陸軍の調整が多かったため、佐久田は陸軍の内部にも詳しい。
そして四年もの間、中国戦線で辛酸を舐め、開戦後も参謀ながら最前線で務め上げた佐久田は富永のような人間を、後方でのんびりしているだけの人間を信用していなかった。
書類の末の数字を読むだけの人間だからだ。
数字は確かに大事だが、その意味を魂から理解しているとは思えない。
試験の数学問題を説くような感覚で戦果報告を扱っているような手合いに、自分や部下の命に関わる事柄を扱わせる気にはなれなかった。
「それに有馬少将が出撃した後の第二六航空戦隊も酷いモノです。司令官出撃で居なくなった後、富永が何度も無謀な出撃命令を出し、部隊は壊滅です。大打撃を与えた敗残兵同様の敵艦隊に対して、どうしてこのような大損害が出るのですか?」
「む……」
「それに第四航空軍の損害も酷いモノです。指揮下の飛行師団は全滅状態です。このような状態で過大な戦果を喜ぶ気にはなれません」
第四航空軍の情報は、陸軍の面子もあるためか詳しくは入ってきていないが、現地の海軍部隊や、連絡官の報告では、酷い状態のようだ。
「捷一号作戦の発動は見合わせるべきです」
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